こんにちは!
2019年も12月に入りました。早いことで早いことで。
みなさんはどんなビールを飲んで今年を忘年する予定でしょうか。おすすめ、あるいはこんなビールで忘年してみたいなどのお話をたくさん聞かせて下さい。
楽しそうな話を聞くのが一番のつまみ。やざわです。
今回は【野生酵母】についてです。
知っているような、知らないような。詳しいことはもしかしたら日本のブルワーさんでも深いところまでは知らないかも。そんな謎のベールの包みを少しでも解けたらと思います。解く(ほど・く)。
では、いきましょう!
ビール酵母じゃない菌
上面発酵酵母:サッカロマイセス・セレビジエ
下面発酵酵母:サッカロマイセス・パストリアナス
と続いてビール酵母を紹介してきました。
お次の野生酵母は、【Brettanomyces/ブレッタノマイセス】です。こちらをメインにしますが、せっかくなので【乳酸菌】についてもまとめ直してみようと思いましたが、内容がデカすぎるのでまた別の機会に。笑
普段のビール醸造では、不意に混じるとコンタミネーションの原因とされるものの1つが彼らです。それ以外はなんか他の菌。その他のやつらもいつか使用される時代が来るかも。
まずはブレットと呼ばれる野生酵母【Brettanomyces】について説明します。
Brettanomyces/ブレッタノマイセス
ブレットと呼ばれるこの野生酵母は、ワイン業界だと嫌われると聞いたことがあります。
その独特の香り成分が原因です。
しかし、全てのワインがそうではありません。少量だけなら、複雑な香味、はっきりとした特徴の演出に役立ちます(と書いてありました笑)。
同様に、ことビールの広い海の中でもブレットがないと成り立たないことが多々あります。
では、そんな広い特徴を見ていきましょう。
文献としては色々読んではいますが、ネットのレファレンスはBYOの下の記事になります。
All About Brett - Brew Your Own
In 2012 Chad Yakobson of Crooked Stave Artisan Beer Project in Denver, Colorado included me in an email chain of 20 -and-bacteria-focused brewers. Chad's hope was to get the group to agree on a catch-all term (equivalent to "ale" or "lager") for the third-kingdom of beer.
好気性
ブレッタノマイセスは好気性の生物です。
好気性生物というのは、酸素を使用する代謝を行ってエネルギーを得る生物です。ビール酵母も上面発酵酵母、下面発酵酵母ともに酸素を使用してエネルギーを得ることができます。それが呼吸です。発酵前にエアレーションという行為を行いますが、あれがそうですね。
そして、ちょっとややこしいのですが、ブレッタノマイセスの代謝経路は好気性発酵です。
普通、発酵というと嫌気的な状態での活動を指しますが、ブレッタノマイセスは酸素が存在している状況で活動をします。
ですので、通常発酵容器で使うような密閉されたタンク内だと酸素の供給がないので、発酵が進みません。進む種もいるんですが、一般的には進まないと思ってダイジョウブです。《B. naardenensisという種が酸素に限りがあっても発酵を行います》
そこで採用されているのが、Barrel Aged です。BAと略されることも多いです。
木樽はStaveと呼ばれる木の板をHoopという輪っかで括り上下にHead(蓋)をつけて作られています。
Hoopでキンキンに締めても、Stave同士の隙間から空気は微量に入り込んできます。その空気を少しずつ利用してブレッタノマイセスは発酵を進めます。
ちなみに、木樽の内側をチャー/Charと呼ばれる「焦がす」行為をされることがあります。もちろん焦がし具合によるのですが、通常ならばStaveの内部奥にまでは熱がいきません。その内部に、実はこのブレッタノマイセスが生息しています。なので、中を焼かれた樽でもビールをそのまま保存しておけばブレッタノマイセスによる発酵が進むことが予期されます。
もちろん純粋なコロニーというわけではないでしょうから、純粋に発酵させたい場合は樽内をもっとしっかり除菌するか、蒸気で熱々にしておくとかして、後からピュアなコロニーを足してあげる方がスマートでしょうか。
Acetic Acid/酢酸
2つ目の特徴は発酵の代謝物です。
それがエチルアルコールと「酢酸」と二酸化炭素です。
一般的にブレッタノマイセスを使って醸されたビールは、その独特の酸味を有することがあります。ツンとするような、でも果実見溢れるような。
その酸味の一端を担っているのが、Acetic Acid/酢酸です。
エール酵母やラガー酵母も、発酵では糖分を二酸化炭素とエチルアルコールに変えます。
ブレッタノマイセスは、糖分を二酸化炭素とエチルアルコールと酢酸に変えます。
乳酸を使用したサワービールとはまた違った酸味ですから、一緒に乳酸菌も用いて複雑な味わいにするのも素晴らしいテクニックです。
ぜひともチャレンジしてみてはどうでしょうか。
ドライなフィニッシュ
ブレッタノマイセスはたくさんの種類がありますが、多くの種類がサッカロマイセスでは発酵できない糖分を発酵することができます。
特に酸素が存在している状況ならば、酢酸やグリセロールを発酵に使用するという種もいるようです。よく分からないですから、一旦無視します。
マルトトリオースといえば、グルコースが3つくっついた三糖類です。この糖分を分解するサッカロマイセスは意外と少ないです。しかし、ブレッタノマイセスはこの糖分も余裕で発酵できる代謝経路があります。
代謝経路があるというのは、その酵母を分解する酵素やその働きをするものを持っており、自分で細かくして栄養にできるということですね。
木樽の中で長い時間発酵を進めることで、ビール内の糖分をどんどん切れて、最終的にはかなりドライなフィニッシュになることが予想されます。
グーズが1年でも若いと言われる所以は、この強い発酵能力にあるかもしれませんね。
超独特の香り
ブレッタノマイセスの最大の特徴かもしれません。それが香りです。
よく言われるのがバンドエイド臭だーなんて言われます。それ以外にも馬小屋とか、なんか欧米感の強い表現です。日本で馬小屋の香りって言われてもね。
僕は個人的にかなりフェノリック、石油っぽい香りが感じて、で牛皮っぽさも感じます。うまく表現できませんが、相当独特の香りがするのですぐに気づくと思います。
ただ、明確にブレット由来かどうかは判別難しいです。それ以外でもそういう香りでることもあり得そうですから。
4-ethyl phenol/バンドエイド臭
これが一番代表的でしょうか。4-EPとか略されます。
Aroxaによれば、ブレッタノマイセスによるコンタミやあるいは乳酸菌による感染でも発生することがあるようです。だからこの匂いがしたからといって、100%ブレットかどうかは不明ですね。狙ってやってるわけではないならば、この香りがしたら完全にコンタミですので、破棄するか、勢いよく木樽を購入して寝かせてしまいましょう。いけます。
その他にも、馬っぽいとか、納屋っぽいとありますね。わかりません。笑
あとは、どうでもいいですけど、3-ethyl phenol についてもウィキがあったので、引用しておきます。
3-エチルフェノール(3-Ethylphenol)は、雌のゾウの尿に含まれる天然のフェノールである。
写真薬剤の中間体や印画紙のシアン発色剤の中間体として用いられる。
消防法に定める第4類危険物 第3石油類に該当する。
Aroxaは、香り成分についてさらーっとたくさん書いてあるのでちょっと便利です。
AROXA - tools for professional taste panels and sensory analysis
Our certified flavour standards are used by global food and drink companies to develop the skills of their professional taste panels. Join us by training your taste panel to detect off-flavours, taints and positive flavour notes, and improve the quality and objectivity of your sensory tests.
4-ethylguaiacol/色々とファンキーな匂い
4-EPに並んで代表的。こっちはguaiacolなので、4-EGと略されます。
香りで言うと、ベーコンだとか燻製だとか表現されてます。総合して、Funkyですよ、と。ファンキーな香りってなんだか難しいですけど、「ファンキーな人だね」を香りにそのまま持ってきて自分の中で納得できたらそれで良いと思う。笑
この物質は、ヴァイツェンなどでよく言われる「クローヴ香」の成分4-vinylguaiacol(4-VG)がブレッタノマイセスによって変化させられて、生成されるようです。
つまり、ウォートの中に4-VGが沢山溶け込んでいるほどブレッタノマイセスを使用したときにファンキーな香りのする、4-EGが発生する訳です。
では、みなさんこの4-VGを増やす方法を知っていますか?🎈
一つ科学的に増やすとすれば、Ferulic Acid Rest でしょうか。
このフェルラ酸ってなにかっていうと、リグニンっていう植物細胞壁を構成するものの一つで、モルトにも含まれています。しかし、単独ではなく他の物質と結合して存在しています。
マッシングの際に40~50℃(一般的には45℃)で15分することで、麦芽に含まれるフェルラ酸との結合体が分解されて、フェルラ酸が放出されます。このフェルラ酸は発酵によって4-VGに変化します。
個人的には、そういう代謝経路が普通よりも活発なのがヴァイツェンイーストなのかな?とも仮説を立ててます。が、沼そうなので触ってません。小麦を多く使用したビールはマッシングの際に、プロテインレスト(50℃付近)を取ることがありますが、これが原因で温度が近いから4-VGがブースト。結果として、クローヴ香がするビールになるのかな。
長々書きましたが、もっとブレッタノマイセスの感じ出したい!!って人は、Ferulic Acid Rest を採用してみてください。optimal pHは、5.8とかみたいなのも見かけましたので、参考までに。
ちなみに、俗に言うアシッドレストはまたちょっと別で、35~45℃の間でPhytaseという酵素を働かせて、Phytinを分解してPhytin acid にしますね。これがpHを下げてくれます。しかし、Phytaseという酵素は非常に熱に敏感で非常に色の薄いモルト、すなわち焙煎度合いが究めて少ないものにしか含まれていません。試す際はご注意。濃色麦芽はまた別の理由で勝手にpH下げてくれますが。
小話:Mix Fermentation
ちょっと学んで興奮したことがあるので、紹介します。
このブレッタノマイセスという酵母は、乳酸菌などと混ぜられてmix fermentationなんていうカッコいい技に使用されたりもします。Barrel aged系のビールに多いかもしれません。
どうして混ぜ混ぜするかというと、乳酸菌とブレッタノマイセスでは出す香りや酸味が異なるため、味わいに複雑さが出てきます。割合、混ぜる品種など、研究どころが深く多くのブルワーが虜になるのも頷けます。
さて、乳酸菌と一口にいっても種類は大きく分けても何種類にもわたっていて、その中でもっとも有名なのがラクトバチリスとペディオコッカスと呼ばれるものです。
どんなものかは置いておいて、これらもブレッタノマイセスとのミックスに使用されます。
しかし、採用率が高いのはペディオコッカスの方なんです!
どうしてでしょうか?🎈
一つの理由に挙げられるのが、pHのようです。
BYOの記事によれば、Chad Yakobsonの修士論文で発表された内容では、発酵中には、乳酸の濃度が高いとエステルなど(ethyl caprylate【pineapple and cognac】 や ethyl caproate【apple and anise】)の生産量が減ったそう。
ラクトバチリスはペディオコッカスよりも乳酸をつくるスピードが速いです。エステル香を豊富に出したいときには、発酵がゆっくりのブレッタノマイセスと相性がいいペディオコッカスをミックスの相方に選ぶことが多いと言うことでしょうね!
まとめ
長かったですね!笑
まとめるのも面倒なので、端的に。
ブレッタノマイセスを楽しむ方法【醸造する方も、飲む方も】
①香りを楽しむ
どの香りがどの成分なんてのは生産者が意識すればいいだけで、ビールを飲まれる方はその独特な匂いを自分なりに表現しあってみてください。ちなみに僕は最初嗅いだとき、洋梨とかっこつけたのを覚えています。笑
②長期保存を楽しんでみる
勝ったビールも自分で醸したビールもとりあえず瓶や、持ってるなら樽の中で放置してみるのはどうでしょうか。糖分が少しでも残っていればだいたいブレッタノマイセスは分解してくれます。分解すると、それは新たな成分も副産物で出ますから香りも変わってくるはずです。
理論的には置けば置くほど、ドライになっていきますね。
③爆発にはくれぐれも気をつける 💣
ブレッタノマイセスは本来はコンタミの要因の一つです。安易な気持ちで使用して、瓶の中にしまって熟成させるとあけた瞬間に本当に危ないことになります。シャンパンとかそういう比じゃないくらいの栓の飛び方をします。
僕はかつて1年放置されたコンタミビールを開けたときに、首が飛んだと思いました。すごい酸っぱい匂いがして、生きてることを実感しました。
さて、今日はバレルエイジのサワーなんか、ビアバーや通販で頼んでみるのはどうしょうか。
わくわくしますね!
では、今度はせっかくだし乳酸菌についてまとめようかな🎈
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