ソムニロキスト【学ぶ必要性と伴う不安】

最近は記事を書く時間が少なくなってきた。
長い間あたまの片隅にある事項は、考えているような気になってしまっていて、実は何も進んでいなかったりする。

自分へ戒めを打つ。

最近はホップについての書籍が多く、面白いことばっかりである。
ホップを酸化させた方がいいかもしれないこと、トリューブを取り除く意味を改めて考えてみること、香りの違いが何由来なのかを考察すること。

なぜ、そこまでして学ぶ必要があるのか?と聞かれたら、単純に楽しいから。
補足すれば、単純に醸造というものに自信がないから理論武装で身を守るしかない、もあるかも。怖がりだから。

ずっと言っていることで、これだけは揺らがないだろうと思っていたことがある。
醸造は料理と似ているうで、やっぱり違うなと思うことがある。
それが出来上がりまでの期間。

もちろん色んな料理があるし、プロの方からは怒られるかもしれない。
でも一般的に落とし込めば、違うといっていいはず。
ビールは出来るまでに1ヶ月くらいかかる。

ケトルホップの効果はすぐ分かるように思える。ケトルにいれた瞬間は良い匂いだし、苦みだってすぐ付く。ウォートを舐めてみたら、気づかないわけない。IBUの違いだって明確に分かるはず。香りの違いにももしかしたら気づけるかもしれない。

ドライホップもそう。
ホップを嗅げばホップごとの違いを感じる。テトナンガーとシトラを交互に嗅げば、愕然とする。こんなに違うのかと。それならドライホップすれば香りも全く違う物になるだろう。と。

さて、本当に狙った違う香りになるだろうか。

答えは相当難しい。

なぜか。
そのとき嗅いだ香りというのはじっくりした時間のなかで変化していくから。

逆もしかり。
酸化したホップは本当にびっくりする匂いがする。夏の情景を思い出す香りがする。チーズみたいって海外では言ったりするね。じゃあ、もうそれドライホップしない?もちろんしないって決めつけてませんか。

臭いから。
チーズの匂いが移るから。

すごくよく分かる。ただ、それはもう既に料理の発想に近いかも。
良い匂いのユズだから、すこし散らしてみよう。うん、良い香り。の発想とかなり近そうだ。

ビールは少し異なるのかもしれない。
もちろん出す直前にドライホップして、ラウジングやホップガンで回し続けて、遠心分離かけてその日のうちに出荷ならチーズが移るかもしれない。

でも最近は酵母の影響でそのチーズの匂いこそがフルーティーな香りを引き出すという説すらある。
目から鱗。そういうことがあるから、学ぶのは止められない。

ただ、ものすごい不安もある。
結局自分のやろうとしていることは平均化でしかなくて、どのホップも成分さえ調べて、それがどれくらい香りに影響するかを平均化して、個性を無くそうとしているのではないかと。

なぜならそれが一番安心するから。マウントを取られないから。
「このホップ知ってる?」「このホップ使ったことある?」という質問に全く答えられないかもしれない自分を守ってくれるのは平均化。

「どんなホップも割合、量、タイミングさえ理解すれば同じ香りを出せる」

こう言えてしまえば、怖くない。
でも、果たして本当にそれでいいだろうか。全ての原材料の個性を平均化した先に辿り付くのは何か。

それはもうAIが作るビールが一番うまい、と結論づけてしまうのと一緒ではないか。
そしてその土俵で人間が勝てるはずがない。ましてや、俺が。

じゃあ何を学んだらいいんだろうか?と。

答えは本当に分からない。

へーー、こんな香りがするのか!面白い!使ってみよ!
の精神をいつの間にか勉強することで忘れていたかもしれない。

勉強とは、計画と反省をより効率的に行うために必要ではあるが、終わることは一生ない作業。
冒険心がないと、凝り固まった思想に囚われて、いつしか醸造自体が楽しくなくなるかもしれない。

これから醸造の世界に入る人達は色んな知識を吸収していくことになるはず。
英語だって勝手に翻訳される時代になるし、イヤホンさえつけてれば勝手に英語のラジオを翻訳して訳してくれる時代にもなる。
そうすると、簡単に情報にアクセスできる。
僕が学んだ知識も英語さえ読めたら誰でも手に入るものばっかり。

もし仮に僕と同じように不安になったらば、一度好奇心だけでホップをチョイスしてエクスペリメンタルなビールを醸造してみてもいいかもしれない。
科学的に美味しいが「本当に美味しい」じゃない。

人間が作るから意味があって、みなさんが作るから意味がある。

とはいっても、一生科学を追い、僕は僕なりの最高に美味しいを求めるだろうな~

お わ り

ANTELOPEブルワー谷澤 優気
お酒が好きで醸造の世界に入る。日本各地での研修期間を経て、2020年3月滋賀県野洲市で国内初のクラフトミードハウス・ANTELOPE株式会社を共同創立。
「ちょっと深く知るとお酒はもっと楽しい」をテーマに醸造学を発信中。

志賀→浜松→掛川→滋賀県野洲市[now!!]
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