ミード作りのイースト紹介

こんにちは!谷澤です。

今回は、ミードというハチミツワイン醸造におけるイーストの紹介をしていきたいと思います。基本は、海外の著書を参考にしていますが、それ以外にも経験やプロのミーダーから教えて頂いたイーストも紹介していきます!酵母の世界は広いので、ぜひプロアマ問わず見ていただけたらと思います!

これまでのミードの記事はこちらから☟

ミード/mead とは?🍯【解説・味わい】

ちゃんとしたミード/mead の作り方🍯

イーストを選ぶ意味

そもそもどうしてイースト/酵母を選ぶ必要があるのかについて僕の意見を述べてみます。端的に言えば、最終的な味わいに大きな影響を与えるからです。以下にポイントをまとめます。

【イーストが与える味わいの影響】
香り成分(エステルなど)の量
残糖分の量
アルコール度数

それ以外にも色々気にすべきポイントはありますが、大きく言えばこのあたりでしょうか。
香り成分は、共通して出す成分ならばイーストごとに出る量が違いますし、フェノール(絆創膏とか薬っぽさ)などの特殊な成分ならば出るやつ出ないやつがあります。残糖分は、食べられる砂糖の種類がイーストごとに違います。三糖類を食べられるやつ、ラクトースを分解できるやつ、などなど。残糖の量は単純な甘味だけでなく、液体の粘度にも関与しますので総合的なマウスフィールを演出します。アルコール度数は、イーストごとにストレスを感じないアルコール度数の限界が異なります。一般的なビールイーストでも10%前後までは耐えられることが多いですが、限界を超えたアルコール度数環境では健全な発酵は望めません。具体的にどういった影響があるかというと、発酵が止まる or/and 想像していない香りが出る、などです。

【要点】
どんな味わいのお酒を造りたいのか、から逆算してイーストを選ぶことが大切

ということで、早速紹介していきます。

ミード作りで使うイースト

これから、イーストの紹介をしていきます。世界的な酵母メーカーのLallemandやWhite labから情報を集めますので、信頼してもらって大丈夫だと思います!
(*ただし、商用利用する場合は情報が変わる場合もありますので、メーカー先の情報をご自身で確認していただくことを強く推奨します。)

Assmanshausen/アスマンサウズン

赤ワイン醸造に使用されることの多いセレビジエイースト。アルコール耐性が非常に高く、15%以上の環境でも大丈夫です。推奨温度帯はLallemandで20~30℃、White labで10~32℃。低温耐性があるので、15℃以上なら問題なく発酵してくれると思います。

香り成分の特徴としては、スパイシーな香りが際立つようです。フルボディーの赤ワインになりやすいようですので、濃い味のPyment(ブドウ果汁入りミード)などに良いかもです!
スパイシーな香りというと、4VG(クローヴ香)などのフェノリック系などが想起されますが別のエステルも多いのかも知れません。発酵速度は比較的ゆっくりということで、低温でピッチするとかなりエステルの量も少なくなり、クリーンな印象のミードになりそうです。

気をつけるべきこととして、別な菌との強制に非常にセンシティブなこと。普通の発酵飲料はピュアな酵母を添加すると、その酵母が液体中で支配的になるので、別の菌が入ってきてもある程度はその菌を圧倒して汚染できないようにしてくれます。しかし、センシティブなイーストの場合は、他の菌の育成を妨げることができません。
ワインという低いpH環境で、そもそも別の菌が繁殖しづらいところでもセンシティブということは、ミード作りにおいてはもっと汚染のリスクが高いことが想像されます(ぶどうよりもハチミツの方がpHが低いことが多い)。

低温ピッチして酵母の立ち上がりまでに時間がかかる場合は、普段よりも念入りにコンタミに注意しましょう🙆

Bourgovin/ブルゴーニュ

ブルゴーニュのワインイースト(セレビジエ)。様々なフルボディーの赤ワインに使用されるようです。アルコール耐性は高く、16%まで可能。推奨温度は、18~30℃と普通。香りは、若干エステル量の生成量が多いようで、フルーティな-印象に。発酵スピードも活発さも至って普通。ここまで聞くとめっちゃ普通な気がしますが、特徴的なところがもちろんあります。

それは、ポリフェノールの吸収量が少ないところ!赤ワインでは瓶二次しているときに酵母によってはポリフェノールの吸収があって、色味が落ちることがあるみたいです。詳しいことは、こちらのwikiを一度読んでみるのが分かりやすいでしょうか。ミードでは、ハチミツにない渋味をフルーツを足すことや、樽に詰めることで外から足してやることがあります。甘味を引き締めるために与えたポリフェノールを長期熟成した後にも残したい場合などには、積極的にこちらの酵母を採用するのは有りではないでしょうか!

Cotes du Rhone/コート・デュ・ローヌ

コート・デュ・ローヌというフランス南部のワイン生産地域。そこで1986~1990年に作られたワインから単離された酵母がLalvin ICV D-47。樽熟成する白ワインを推奨されていて、わずかなスパイシーさに加えて、シトラスやトロピカルが際立つ。結果として、滑らかな粘度を持つ酒になるそうです。アルコール耐性は、15%。発酵温度は15~30℃ですが、発酵初期は17℃~を推奨されています。

大きな特徴は、酵母のβ-Glucosidase活性が大きいことです。この酵素は、糖分に香り成分が結合して無臭状態である物質から香り成分を切り離すことが出来ます。近年のビール醸造ではホップから特定の香り成分を抽出するために、IPAなどの発酵過程でこの酵素を添加するケースが見受けられます。
この酵母は、その活性が大きいので、シトラスやトロピカルの香りがよく際立つのだと考えられます。

せっかくなので、もう少し詳しく見ていきます。
Lallemandの公式では、citronellol, nerol and geraniolが豊富に出ると報告されています。それぞれの香りは以下の通りです。

citronellol: バラっぽい
nerol: ベリーやシトラスっぽい
geraniol: バラっぽい

citronellolは、酵母のバイオトランスフォーメンションで、geraniolに代謝されることは広く分かっています。これらの香りが増幅することで、全体的にシトラスやトロピカルが強まるのだろうなと考えられます。

The Compleat Meadmaker (以下、TCM)では、この酵母はミディアム~ドライなミードを作るのを非常に押しています。特にトラディショナルなミードにはナイスなようです。ただし、栄養素を豊富に求める酵母のようなので、ミード醸造に用いる場合はSNA(Staggered Nutrients Addition)のバランスを変えてやるといいかと思います。

また、ミードだけでなく、ビール醸造でもホップが先行するタイプでは積極的に採用してみてはいかがでしょうか。

Cote des Blancs/コート・デ・ブラン

  • Red Star: Cote des Blancs

ゆっくりした発酵と、栄養素を多めに求めます。次に紹介するEpernayと同じ系統の酵母なようです。アルコール耐性は、12~15%。発酵温度が低いと12%よりも少なく傾くようなので、要注意。発酵温度は18~30℃。

特徴的なハチミツを使う場合には、こちらのイーストを使うととても良く仕上がるとTCMで書かれています。様々なミードコンペで優勝しているBill Pfeiffer氏が好んで使うイーストみたいなので、迷ったら一旦これを使ってみるという手はなくはないですね!笑

Epernay/エペルネ

シャンパンイーストとして、フランスのワイン生産地方エペルネで採用されたイースト。イーストの種類としてはS. bayanus。どんな環境でも力強く発酵するイーストで、栄養素が比較的少なくてもクリーンな仕上がりになります。アルコール耐性は、17%と非常に高いです。発酵温度帯も10~35℃と鬼のカバー範囲なので、とりあえずこれを使って作れない酒はほとんどないと思います。

特徴としては、クリーンな印象が強く、フィニッシュにキレのある苦みがほんのり残ってくるとのこと。甘味が多く残りやすいミードに、綺麗な苦みをアクセントにつけたい場合は、瓶二次でこちらのイーストを添加するのも面白いかもしれませんね!

Flor/フロール

スペインの土着酵母として、様々なシェリ-酒の醸造に用いられる。酵母の品種が特殊で、S. fermentati という酵母。好気性発酵で、少し低めで、湿っぽい環境が好みのよう。酵母の性質から考えるに、バレルで行う二次発酵用に使うか、最初からバレルの中で主発酵させるときに使用するかになると考えられます。

アルデヒドを作る代謝経路があるようで、多くのアルデヒドができます。アルデヒド系は、青臭い匂いの場合が多く、特徴的な香りになっていきます。WLP700では、若いアーモンド、青リンゴ、ヌガーの香りが特徴的になるとのことです。トラディショナルなミードはそもそもちょっと青リンゴっぽい部分があるので、ドライなミードでこちらのイーストを使ってバレルするとかなりシェリーっぽくはなりそうですね!

なににせよ、国内でやる場合には変態オブザイヤー受賞の醸造酒が出来そうな気はします。

Montrachet/モンラッシェ

  • Red Star: Montrachet

モンラッシェはブルゴーニュ地方の辛口白ワイン生産地。様々な赤ワインの醸造にも使われるイーストのようで、複雑味のある仕上がりになるようです。情報がほとんどないので、どんどん追記していこうと思います!

Montpellier/モンペリエ

モンペリエはフランス南部のワイン生産地。1972年にこの地方のワインから単離されました。酵母の特徴は、非常に豊富なエステル合成から導かれるフローラルな仕上がり。また、発酵力も強く、あらゆる環境でもしっかりと発酵してくれます。バクテリア耐性も大きいことから、"Killer yeast"と呼ばれるそうです。

アルコール耐性は18%、発酵温度は10~35℃。エペルネよりもアルコール耐性が高いので、文句なく最強。

lallemandによれば、16℃でピッチングして、適量の栄養剤を与えてあげればエステル量(isoamyl acetate, hexyl acetate, phenyl ethyl acetate)は最も豊富に出るイーストとのこと。若干低温での発酵管理が望まれるので、綺麗で、華やかな印象のミード作りに持ってこいなのではないでしょうか。それこそシンプルなスパイスや木材と合わせたミードなどと相性は良さそうです!

Narbonne/ナルボンヌ

ナルボンヌはフランス南西部、スペイン国境沿いのワイン生産地域。その地方のワインから単離された酵母。特徴は、isoamyl acetateというバナナ香のするエステルが豊富にでるので、フルーティーな仕上がりに。アルコール耐性は14%で、発酵温度帯は15~30℃。

また、ポリフェノールの吸収が高いことが特徴です。ブルゴーニュイーストと相反する特徴ですので、ドライなタイプのミードで余計な渋みはいらないけど、樽熟成させたいタイプにはこちらを用いてみてもいいかもしれません。その際、副原材料でブドウやベリーを使うと色味が薄くなる可能性がありますので、その点だけ注意して設計してみてはどうでしょうか!

Pasteur Red/パスツールレッド

クラシックな白ワイン用のイースト。アルコール耐性は15%、発酵温度帯は15~30℃。パリのパスツール研究所で単離されたイーストで、フレンチレッドとも呼ばれます。レッドなのに、白ワインイーストはこれ如何に。

フルーティーで、フルボディーのメロメール(フルーツミード)を作る際のチョイスとして推奨されています。
注意点として、発酵熱がとても大きいことがあげられています。現代のステンレス設備ならば問題のない特徴ですが、バレルなどの外気温メインで温度管理する場合は樽内の温度が上がりすぎないように気をつけましょう!

Prise de Mousse/プリ・デ・ムース

プリ・デ・ムースは恐らくシャンパンの製法の一つではあると思うのですが、オランダ語のwikiしかなかったので、読めませんでした!(情報大歓迎です笑)。酵母の特徴は、とても強い発酵力。他の菌がいても、しっかり優勢を保ってくれるので汚染リスクが少ないです。クリーンで、軽いフルーツ。スパークリングワインやメロメール、サイダーなど幅広く使えます。イーストの凝集具合も高いようなので、透明感ある仕上がりになります。

アルコール耐性は18%と非常に高い。発酵温度帯は15~25℃。上が低めなので、温度帯にはかなり慎重になってレシピを汲む必要があります。例えば、ビール醸造に用いる場合には初期発酵温度を高めにすると、ダイアセチルレストが取れない可能性もあります。

Sauternes/ソーテルヌ

ソーテルヌはフランスのワイン生産地で、超甘口のワインを作ってるらしい。そんなワインから単離されたこの酵母は、品種としてはS. bayanus。S. bayanusはセレビジエよりも冷温耐性がありますが、R2は特にその耐性が顕著。アルコール耐性も16%と高く、発酵温度帯は5~30℃と驚異的。

フルーティーで、フローラル感もしっかり出す酵母なので様々な白ワイン醸造に用いられることがあるようです。
よっぽどの理由がない限り、そこまで低温で発酵させる必要はないと思いますが、本当に発酵すんの?とか、冬場に暖房費が高く付く場合にはこちらのイーストを採用するのはありかもしれません!笑

まとめ

お疲れ様でした!
様々なイーストがありまして、楽しくなかったでしょうか!🎈
色んなイーストも単離された畑が違ったり、違った目的のもとに生まれたイーストってだけで砂糖と水と栄養素が整っていたら使用することが出来ます。

このお酒にはこのイースト!などと決めつけずに、面白そう!とか、あっこの特徴いいな、などと思ったら積極的に使用してみてはいかがでしょうか。便利な世の中ですので、酵母名+recipeとかで検索すれば、たくさんの海外homebrewerの品評が出てきます。

随時、情報がアップされる度に更新していこうと思いますので、定期的に確認して頂けたら幸いです!🎈

ANTELOPEブルワー谷澤 優気
お酒が好きで醸造の世界に入る。日本各地での研修期間を経て、2020年3月滋賀県野洲市で国内初のクラフトミードハウス・ANTELOPE株式会社を共同創立。
「ちょっと深く知るとお酒はもっと楽しい」をテーマに醸造学を発信中。

志賀→浜松→掛川→滋賀県野洲市[now!!]
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COMMENTS

  1. こんにちは。
    ミードの作り方、イーストの種類、、たいへん勉強になります。

    カメリアのパン酵母を使ってビールをお作りになった記事を拝見した時に、パン酵母のアルコール耐性はいかほどなのか?
    、、と疑問に思いました。

    谷澤様はどれくらいだとお考えでしょうか?
    ご返答の程、よろしくお願いします。

    • ゆうさん!
      こめんとありがとうございます!
      アルコール度数8%まではいけるのでは?サッカロマイセスセレビジエはきちんと管理すれば、8%まではアルコールに対して耐性があることが多いです。醸造業界では、カリフォルニアコモンイーストという非常にメジャーな品種がありますが、このイーストはアルコール耐性が9~11%です。このカリフォルニアコモンイーストが一つの基準となるといわれがちですので、耐性の低い品種でも8%はいけるのではないでしょうか?パン酵母はアルコール耐性に特化する必要がないですから、確かに耐性が低いかも知れませんが、品種自体は一緒ですので大きなズレはないのかなと思います。

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