クラフトミードのスタイル【Pyment/ぶどう】

クラフトミードのスタイル【Pyment/ぶどう】

こんにちは!ANTELOPEのブルワー谷澤(やざわ)です!

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今回は、クラフトミードのスタイルを紹介していきたいと思います!テーマは、pyment/パイメント というブドウとハチミツが主役のクラフトミードです🍇

では早速いきましょう!
そもそもミードとは?となっている方はこちらから👇👇

ミード/mead とは?🍯【解説・味わい】

Pyment とは

まずは、便宜上Pymentの定義を見ていくことにします。

A Pyment is a melomel made with grapes (generally from juice). Pyments can be red, white, or blush, just as with wine.

パイメントは、ブドウ(普通はブドウジュース)を用いたmelomel/メロメールのこと。色味は赤、白、うすピンクなどとワインと一緒。

BEER JUDGE CERTIFICATION PROGRAM 2015 STYLE GUIDELINES

melomelとは、フルーツと蜂蜜を使って作ったミードのスタイルです。その中でも、ブドウを使ったものをPymentと呼びます
出典を見てもらうと分かるのですが、ビール団体によるスタイルガイドラインです。どうしてそこから取ったのかというと、細かく指定されていて分かりやすいと思ったからです。それとは、別にミード団体による定義もありますので後で説明します。

BJCPによるPymentのスタイルガイドライン

BJCP(beer judge certification program)によるミードのスタイルは以下の要素に分けられます。

  • Overall Impression/全体的な印象
  • Appearance/見た目
  • Aroma/香り(鼻から)
  • Flavor/香り(口から)
  • Mouthfeel/口当たり
  • Ingredients/原料

一つ一つ見ていくことにしましょう!これに加えて、コメントやエントリー要素などもありますが、今回は割愛します。

*注意点:あくまでBJCPによるスタイルガイドラインですので、「これに沿ってなければ、、」と思考を狭めないようにしてほしいと思います。クラフトミードはその自由度の高さも魅力の一つです。あくまで困ったときの道しるべ的に使っていただけると幸いです📙

Overall Impression/全体的な印象

良く出来たPymentの特徴は2点。①はっきりとしたワインらしさ②蜂蜜らしさ・甘味・酸味・タンニンのバランスがまとまっていること
ブドウの品種によって出来上がりが全く異なるので、それぞれのブドウを用いたワインを参考にするのがおすすめ。蜂蜜とブドウの両者の特徴を押し出すことが重要ではあるが、50:50である必要はない。一般的には、タンニンと糖度のバランスが良いことが求められ、それはあま~いPymentでもドライなPymentでも変わらない。

BEER JUDGE CERTIFICATION PROGRAM 2015 STYLE GUIDELINES, P. 5 筆者翻訳

Pymentは、ワインに蜂蜜を足して醸造していると考えれば、ワインの特徴が出るのは同然です。ただし、「蜂蜜」を投入した特徴がしっかり出せてこそ良いPymentになるということですね。

少しだけ醸造技術的な話をすると、蜂蜜とブドウの違いを考えてみます。ブドウの糖分は果糖とグルコースがメインだと思うと、蜂蜜と一緒です。大きな違いは、酸とポリフェノール(渋味)、タンパク質の3点。ブドウの割合が減り、蜂蜜の割合が増えると渋味と酸味とタンパク質が減っていきます。それらは最終的な味わいだけでなく、発酵にも大きな影響を及ぼすので出来上がる味わいはやはりワインとは異なってくる(はずです。。)。

甘味と渋味、そして酸味のバランスを以下にとるかが、醸造家の腕によってきそうですね🙆

Appearance/見た目

色見は、だいたいどんなものでも大丈夫です。というのも、使うブドウによって大きく色味は変わるからです。淡い黄色~濃い赤まで様々です。白ブドウをメインに使えば、蜂蜜の色の濃さも最終的な色見に関わってきます。

おまけ
色以外の要素としては、「濁り」があります。しかし、Pyment含めどのスタイルでもあまり濁りについて触れられていません。ビールの世界では、ヘイジーIPAが登場してから、濁りに対してかなり許容されることが多くなっていると感じます。そもそもどうして濁りに対して厳しかった経緯があるのかというと、「濁り=クオリティー」と結びつくことが多かったからだと思います。汚染による濁りの発生もあれば、醸造が上手に行かず濁ることもあり得ます。

ミードではどうなのかというと、タンパク質を豊富に使用した原材料を入れない限り、Pymentが濁ることはほとんどありません(タンパク質とポリフェノールの結合はがっつり濁ります)。イーストの種類によっては、多少濁ることはあるかもですが、熟成期間をきちんと取れば落ち着いてきます。
では、いつ濁るのかというと、汚染時です。バクテリアなどは、液体に粘性を持たせてしまうものもあり、結果として少し濁ってしまうこともあります。ミードは樽熟成などよく行うので、汚染リスクが高いように思えます。しかし、アミノ酸の少なさ、アルコール度数の高さなどから、汚染リスクはじつはあまりありません。
 

Aroma/香り(鼻から)

アロマ。
匂いは、鼻から入ってくる香りを「Aroma」と表現し、口を通して鼻から抜けていく香りを「Flavor」と表現することがあります。間隔受容体が異なるのと、味覚を通じるかどうかで印象も変わってきます。

Pymentの香りの構成は主に3つです。

  1. ブドウ
  2. 蜂蜜
  3. イースト

ブドウの香りは、使用した原材料に変わってきます。甘味が強い仕上がりになると、強くブドウらしさを感じます。そのブドウらしさというのも、かすかなフルーツっぽさから、ブドウの品種的な特徴がしっかり出たものまで様々です。ブドウの品種によっては、グラッシー/芝生っぽい青臭さや、土っぽさも出ます。

蜂蜜らしさもとても重要です。特定の花から取れた蜂蜜を使用している場合は、その特徴が出ているものが好ましいです。その程度も甘味の大小と大きくリンクします。甘ければ、蜂蜜らしさを感じます。

最後は、イーストです。なるべくクリーンな印象を求められていますが、例外もあります。それは、ダイアセチルです。ワインでもMLF(マロラクティック発酵)という酸味を調整する技術がよく行われるようですが、ミードでももちろん使用可能です。MLFは、乳酸発酵を通じて酸の強いリンゴ酸を酸の柔らかい乳酸に変換させるものですが、その発酵の代謝物としてダイアセチルが発生します。基本的に発酵の代謝物としてダイアセチルは発生するのですが、普通の醸造ではイーストがそれを再度代謝して、香りの弱い物質に変えてくれます。乳酸菌にもそういった代謝経路があるのか分かりませんが、とりあえずMLFで出たダイアセチルくらいなら許してやるよ~って感じでしょうか。

バランスが良ければ、結局なんでもおっけーです!🙆

Flavor/香り(口から)

Flavorは、口から鼻に抜けていくものです。
Aromaと全然違うことが書いてあるのかと思いきや、だいたい一緒なので、大事なポイントだけ紹介します。

"タンニンのレベルは、実際の残糖分をドライに錯覚させる"というところです。狙っている最終糖度というのはお酒造りにおいて必ず出てくるポイントですが、単純に砂糖水で感じる甘味とずれてくるところがミソです。その一つの要素に、ブドウによる渋味/タンニンが挙げられています。

ブドウ以外にも、木樽で熟成させるときは木樽によるポリフェノールが抽出されますから、渋味がつきます。それらを考慮した上で最終的な甘味を調整するのは大事ですね📙

Mouthfeel/口当たり

口当たりに関しては、渋味メインで書いてあります。
蜂蜜には渋味が一切なので、ブドウによる渋味が大きな特徴になるからですね。ポイントは「渋すぎない」こと。果皮を漬け込みすぎたり、木樽からポリフェノール出しすぎたり色々あるとは思います。

ただ、熟成期間を長く取れば取るほど、ゆっくりと酸化が進み、ポリフェノールの渋味は収まってきます(変成)。大量のブドウを使いたいけど、スムースな口当たりを狙いたいときは、長期の熟成を取るのも一つですね!

Ingredients/原料

最後は原料についてです。
基本的にはこのスタイルガイドラインでは、ブドウしか使ってはいけません。他の果物を混ぜれば、Melomel/フルーツミードになるし、スパイスを使えばFruit and Spice meadになるし、よく分からんものを混ぜればExperimental meadになります。

ただ、ブドウの形態に関してはかなり広いです。品種はもちろん何でもおっけーですが、ワインになってるものを後から混ぜて作ってもおっけいです。ブランデーは多分認められませんが、ブドウと蜂蜜が原料なら基本おっけいですね!

おまけ:Mazer Cup International におけるスタイル基準

ビールの世界では基本的に度数や糖度など細かく数値で指定されていて、その範囲にそったものが「ビアスタイル」として定義されます。Mazer Cup International という世界的なミードのコンペティションがあるのですが、スタイルの大枠は10個で、それぞれの定義をさっと画像で見てみます。

https://mazercup.org/2018/12/11/commercial-style-info/

単に画面のスクショなのですが、めっちゃシンプルなのが伝わりますでしょうか。
ビールの世界では常に新しいスタイルが出てきて、それをきちんと定義にそって分けるという考え方がかなり一般的かと思いますが、ことミードの世界においてはほとんど定義がありません。あえて付け加えるとしたら、「原材料」くらい。

例えば、Ciser/サイザーというリンゴを使ったミードは、リンゴを使えばオッケーだし。今回紹介するPymentはブドウを使えばおっけー。他のフルーツやスパイスを使ったときには、他のカテゴリーになるかもしれませんが、厳密に決まってはなさそうです。比較的クラフトミードの登場が世に広まってきて新しい点に加えて、根底として「美味しいかどうか、以上!」みたいな考え方もありそうですね☻

まとめ

今回は、ブドウを使ったクラフトミードのスタイル: Pymentを紹介しました!
ブドウの品種や組み合わせ、蜂蜜の甘さなど、シンプルながら非常に懐深いミードだと思います!ミードのコンペでもフルーツミードの括りで、ぶどうを使ったPymentと、リンゴを使ったCiserだけは独立したスタイルで競われることが多いようです。ベリー系も単独化してるか。

それだけ人気のスタイルなんでしょうね!
アメリカ・アリゾナ州のミーダリー:SuperStitionは、ベリー系のミードが非常に有名ですね。これらのスタイルも紹介していけたらな~と思います。

最後になりますが、補足として、ポリフェノールが発酵を促すのかどうなのかという疑問が個人的にあります。この辺は一度調べてみてもあまりピンとこなくて、もし何か詳しいことを知っている人がいればご教授いただければと思います📙!

ANTELOPEブルワー谷澤 優気
お酒が好きで醸造の世界に入る。日本各地での研修期間を経て、2020年3月滋賀県野洲市で国内初のクラフトミードハウス・ANTELOPE株式会社を共同創立。
「ちょっと深く知るとお酒はもっと楽しい」をテーマに醸造学を発信中。

志賀→浜松→掛川→滋賀県野洲市[now!!]

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