ソムニロキスト【US DAVIS より”パッケージングと保管”】

US DAVIS といえば、醸造科学で広く知られています。そこで1999年から2018年まで malting, brewing science の寄付講座をやっていた Charlie Bamforth がビールの保管について話してくれたので内容をまとめていきます。

ビールは、変化する

「ビールの香りは、時間と共に変わっていく」というシンプルな問題があります。具体的な数は分かりませんが、チャーリー曰く、少なくとも1000以上の香り成分が関与しているそうです。香りに大きく影響している成分が時間と共に変化し、別の成分になれば、それはビールの香りも変化するということです。

これの変化の少なさが、香りの安定性/Flavor Stability の指すところです。

stale beer/劣化したビール は、全世界で飲まれています。その理由は、消費者の手に届くまでに様々なコンディションで保管されるからです。多くのビールは、出荷してから長い距離を経て、マーケットに並び、最終的に消費されます。管理の方法によっては、集荷したときの味と全く異なる味わいになってることすらあるそうです。

So stale beer is not going to kill you. It just isn't what the brewer originally brewed.
なにも、劣化したビールを飲んで倒れることはない。ただ、ブルワーが作ったものとはすっかり変わったものになってるってだけだ。

It's a philosophy

香りの安定性や、鮮度に関してブルワーが考えるか考えないかは、もうそれぞれの哲学/philosophy の範疇。消費者の手に届くまでを考えるなら、品質保持に注力するべきだし。フレッシュなうちに飲んで。で終わらせるのかも自由だ。また、ワインのように、"ヴィンテージ"として評価してもらってもいい。

「10年もののピルスナーだよ!めったにないね」「僕、段ボールの味、大好きなんだ!」って人もいなくはないからね。

でも、やっぱり自分が一番美味しいと判断した状態で、消費者にも飲んでもらいたいと考えるならば、この問題について考えるべきだ。

ブルワリーで出来る「3つのキー」

①パッケージの酸素を減らす!
②保管温度は低くすべし!
③薬品の使用

品質保持についてブルワリーができることの一つ目は、パッケージの際に極力酸素を減らすこと。これはビールが触れるところから、パッケージの中まですべてのルートにおいて酸素を根絶すべきという話です。
例えば、ボトル or 缶 なら缶の方が良いということです。これも酸素が関係していて、缶の方が酸素の入る量/入ってくる量、どっちも少ないでしょという考えです。

二つ目は、温度管理です。温度が高いと化学変化は起きやすく、保管温度が10℃高いと2~3倍も早く香りの成分変化が起きるそうです。世界中に輸出されてるビールも船の中で高温に晒されることもあるらしく、一部では40℃を超えるときもあるらしい。もちろん冷蔵庫で保管して出荷するブルワリーもあるが、非常に高価。でも、品質を考えるなら、高価でもこれをするしかない。

最期は、薬品を使用して、劣化を防ぐ方法です。具体的には、二酸化硫黄/SO2、あるいは亜硫酸塩/metabisulfite です。これらは、2つの役割を持っている。一つは、捕捉剤/radical scavenger として機能し、酸化反応を抑える役目。二つ目は、経年劣化によって生じる物質を動かなくすること(* grabs hold of the substances that tend to be involved in aged beer)

二つ目の作用は、化学的にどんな反応なのか理解しきれてなく、発言だけをそのまま貼りました(..)

経年劣化により発生する物質

経年劣化によって発生する物質は、主にカルボニル基を含んでいます。

カルボニル基を含むもの

SO2 は、これらと反応して新しい化合物になります。劣化を感じさせる成分が別の物質になるので、ビールの味わいは”劣化している”ように感じません。実際に、既に劣化しているビールにSO2を混ぜてあげると、若返ったようになるそうです。

添加物の注意点

添加物は、国ごとの法律によってルールが変わります。くれぐれも違法とならないように気をつけましょう。二酸化硫黄も亜硫酸塩も日本で使用して問題ないですが、規制量があります。食品ごとに異なりますが、ビールの場合は0.030g/kg 以上の使用は認められていません。(出典:厚生労働省)

アメリカでは、SO2に関して0.010g/L までならラベルに記載しなくていいようです。効用として、8ppm は 7ppm より良いし、7ppmは、6ppmより良い、なんて話もあるようです。効果を出そうとすると、制限いっぱいまで使ってしまいそうですが、リスクが伴いますので、気をつけて行いましょう!とのこと。

経年劣化の原因は?

経年劣化の原因物質であるカルボニル基を含んだ化合物は、どこに端を発しているのでしょうか。

α酸の分解
アミノ酸の分解
アルコールの分解
不飽和脂肪酸の分解

実は、α酸はビールに必須だし、アミノ酸も酵母の成長に必要。アルコールも、高級アルコールだけじゃなくてエタノールだってカルボニル化合物になるルートがある。

そうなると、不要なものとして不飽和脂肪酸だけがピックアップされがちになる。不飽和脂肪酸が分解されて、できる成分として有名なのが 2-nonenal。俗に言う「カードボード臭」。

でも、別に不飽和脂肪酸だけじゃなくて、別のものからでも2-nonenal は発生する可能性はたくさんある。つまり、「酸素を遮断して、なるべく温度を下げて保管する」以外にできることはない。ビールは、できたときからもう既に劣化は始まっています。

まとめ

科学者たちは必至に「劣化」について調べてくれているが、今のところ醸造所でできることは2つだけ。

酸素を少なくする
②完成したビールは温度を下げて保管する

どこまでこだわるか醸造所次第。安いスーパーマーケットに卸して、常温で保管されたままでもいいのか。自分たちだけで管理して消費者に売るのか。全ては「どんなビールを飲んで欲しいのか」にかかってる。

ANTELOPEブルワー谷澤 優気
お酒が好きで醸造の世界に入る。日本各地での研修期間を経て、2020年3月滋賀県野洲市で国内初のクラフトミードハウス・ANTELOPE株式会社を共同創立。
「ちょっと深く知るとお酒はもっと楽しい」をテーマに醸造学を発信中。

志賀→浜松→掛川→滋賀県野洲市[now!!]
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