こんにちは!やざわです!
オフフレーバー週間の第2週目は「アセトアルデヒド」です。お酒を飲むと、アルコールが体内でアセトアルデヒドになって、それが大量に残ると二日酔いの原因となりますね。そんな酒飲みには憎き憎きアセトアルデヒドですが、どんな香りで、どのような経路でお酒に発生するのかを認識していこう!というのが今回の趣旨です。
さらっとオフフレーバーとは、何かを復習してから先に進むことにします!
【オフフレーバーとは?】
●Off Flavorのこと
●一定以上の濃度でお酒に存在すると、不自然な匂いを演出し、不快感を与える可能性がある香り成分
●低濃度であれば、好意的に捉えられる場合もある
●発生原因はかなり多岐にわたるが、そのほとんどが原因を解明されていること
●よく現れるものはビールなら約20種類ほど
●オフと略されがち
では早速行きましょう!
他のオフフレーバーに関しては↓からどうぞ👐
【オフフレーバー週間】ダイアセチル
Acetaldehyde/アセトアルデヒドって?
アセトアルデヒドの簡単な自己紹介です!
【アセトアルデヒドとは?】
●Acetaldehyde
●若いお酒に特徴的で、青い匂いと表現されることも多い。青りんご様とも。
●アルコール発酵によるエタノール生成の中間生成物。アルコール発酵が起きているなら、必ずアセトアルデヒドはいる。
●イーストにより発生する量に違いがある
●健全な発酵の場合には、アセトアルデヒドがほとんどエタノールに変化する。
●エタノールの酸化によって発生する場合や、好気性細菌によって酢酸に変化することもある。
青りんごのような匂いのアセトアルデヒド。爽やかな香りのイメージでIPAなどにぴったりでは?と思う方も多いかもしれませんが、多くのビールスタイルではアセトアルデヒドが検知できるほどの量があるのはよろしくありません。酸味を彷彿とさせる可能性もありますし、クリーンな波高ではないことも多いので、それ以外のオフも目立っている可能性もあります。ただ、低濃度ではフルーティーさを助長してくれる面があったり、スタイルによっては許容されている場合もあります。アメリカンライトラガーなどの一部のスタイルでは特定のイーストが豊富にアセトアルデヒドを残すという理由がもとだとは思いますが、アセトアルデヒドが好ましい特徴として許されています。
また、ビール以外のお酒でいうとシェリーに豊富な香り成分です。多いものではアセトアルデヒドと分かるレベルの3倍程度のアセトアルデヒドが含まれているというデータもあります。これはシェリーが特殊な発酵方法で作られているからですが、詳しくはsherry acetaldehydeとかで検索してみてください👐笑
アセトアルデヒドの発生経路
お酒に含まれるアセトアルデヒドの主要な発生経路は以下の経路のようになります。
①糖分→アセトアルデヒド→エタノール
②エタノール→(酸化)→アセトアルデヒド
酵母は糖分からエタノールを作るときに一度アセトアルデヒドを介してから、エタノールを作ります。アセトアルデヒドからエタノールになるときには酵母のADH(Alcohol Dehydrogenase:アルコール脱水素酵素)が働いています。大事なことは、アルコール発酵を通じて酵母から必ずアセトアルデヒドが発生してしまうメカニズム。そして、これらのアセトアルデヒドは酵母の活動によりきちんとエタノールに戻っていくという理解も大切です。
アセトアルデヒドがエタノールに変化するのとは逆に、エタノールもアセトアルデヒドに変化してしまうこともあります。この反応には酸素の存在が必要なのは分かっていて、いわゆる「酸化」と呼ばれる現象なのも間違いないです。しかし、ここに上記と同じADHが反応しているのかどうかはわかりませんでした!人体では、ADHの働きによりアルコールがアセトアルデヒドになって、過剰に体内に残ると二日酔いになります。しかし、醸造においては酵母のADHが働くから変化するのか、自然と酸素があると酸化してしまうのかわかりません。
多分両方なのでしょうが、仮に酵母のADHによってしかアルコールがアセトアルデヒドにならないとしたら、酵母を分離したり火入れして活動を止めてしまえば酸化によるアセトアルデヒドは発生しないということになります。
青りんごのような香り
アセトアルデヒドは、「青い」匂いとして多くの表現がされています。よく言われるのが青りんごのような匂いですが、他にも青い草のような匂いだったり、有機溶剤のようなツンとした匂いとも表現されるときがあります。アルデヒドというのはアルコールのように単に構造を示す言葉で、~デヒドみたいな名前がついてるやつはアルデヒドの構造を持っています。構造が似ていると香りが似ていることが多いので、アルデヒドというのは多くがこの青い匂いを有しています。
基本的には好まれない匂いとされていますが、シェリー酒の特徴にもなっています。
ビールではどうでしょうか。
ダイアセチル同様に低濃度では許されることもある匂いですが、多くのビアスタイルでは多くないほうがよいとされています。許さているスタイルで有名なのはアメリカンライトラガーですね!これは使用していたイーストがアセトアルデヒドが残りやすい特徴だったからだと思うのですが、どうしてアセトアルデヒドが多く残るのかは色々と議論されています。単に作り出す量が多いという問題ではなく、アセトアルデヒドをアルコールに変換させる能力が低いとか、色々あるみたいです。
原因と対処法
アセトアルデヒドが最終製品に多く残る理由は以下のことが考えられます。
- 発酵が終了していない/再発酵している
- ダイアセチルレストが短い
- 発酵中~発酵後の酸化
- アセトアルデヒドが多く残るイーストを使用している
- コンタミ(雑菌汚染)
- Pressure Fermantationを行っている
これらに原因があったときに、どのように解決すべきなのか考えていこうと思います!
*ただし、上記のことが醸造全体としてみたときに悪いわけではありません。あくまで、アセトアルデヒドが過剰に残っている場合に考えるべき対策ですので、これから紹介することが醸造の正解だと勘違いしないようにおなしゃす!👌(コンタミは、悪いか笑)
発酵が完了していない/再発酵している
発酵が完了していないという問題はあまり多くの人が抱える悩みではありません。これが起きるのは、最終糖度(FG/Final Gravity)の調整を意図的に行うときに起きうる問題です。クラフトビールの世界においては、甘みを意図的に残すときには非発酵性の糖分、例えば乳頭や希少糖、を添加する方法がメジャーかと思います。しかし、ミードや酒精強化ワインの世界では発酵を途中で止める(ミードの場合は止まってしまうときもある)という手法があります。主発酵が終了する前に発酵を止めるというのは、アルコールに変換される前のアセトアルデヒドが残った状態のままで酵母の活動を終了させることなので、最終商品にアセトアルデヒドが多く残ることがありえます。
また、主発酵が完了した場合においても、途中で再発酵していた場合にそれに気づかずコールドクラッシュ→酵母分離、などの工程を挟んでしまうとアセトアルデヒドが残りやすいはずです。最も発生しやすいのが、コールドクラッシュ前のDH(Dry Hop)です。聞いたことがある人も多いと思いますが、ホップクリープと呼ばれる現象です。ホップの酵素により非発酵性糖分が分解されて再発酵してしまうという現象です。
詳しくはこちらをどうぞ👐
主発酵を途中で止めた酒でアセトアルデヒドが気になる場合は、取れる方法は2つです。1つは、タンク内での貯蔵期間を長く取り、CO2とともに外に逃げてもらう方法です。ストリッピングといったりします。もう一つはボトルでの熟成期間を眺めることです。これはアセトアルデヒドを直接取り除くわけではなく、熟成により複雑になった味わいにアセトアルデヒドも加えて余計に複雑にしちゃおうって話です。変な話のように思えますが、そもそも熟成というのは長期の酸化ですからゆっくりとエタノールがアセトアルデヒドに酸化しているわけです。ですから、アセトアルデヒドは長期熟成のお酒の複雑な味わいを担保しているとわけです。困ったときは開き直るのも手です◎
再発酵が起きている場合は、コールドクラッシュさせる前にテイスティングを行い、問題があるようならタンクの温度を上げて放置してみましょう。それでだめな場合は再発酵による問題ではなく、別な問題があるとおもぃます。
ダイアセチルレストが短い
ダイアセチルレストはタンク内の温度を上げることにより、酵母によるダイアセチルをアセトインに戻す代謝活動を活発にするものです。温度をあげることにより、酸化スピードが上がり、ダイアセチルの前駆体であるアセトラクテートが酸化してダイアセチルになりやすいことからもダイアセチルを減らす方法として有名です。
しかし、このダイアセチルレストはアセトアルデヒドにも有用です。どうしてかというと、アセトアルデヒドも酵母によってエタノールに変換されるものだからです。発酵終了間際にでたアセトアルデヒドは十分にエタノールに変化されず、、ということがありえます。そこでダイアセチルレストをとってあげるとアセトアルデヒドもしっかりエタノールに変化してくれます。
それだとアルコール度数があがってしまうのでは?と思った方は、是非アセトアルデヒドの閾値を調べてみてください。アルコール度数が0.1%も変わるような量のアセトアルデヒドが残っていたとしたら、それはもう青りんごジュースです()。
発酵中~発酵後の酸化
厳密に言えば、酵母が呼吸を終えたあとのタイミングからの酸化を指します。IPAなどのホップをたくさん使うビールではホップの油脂の酸化を懸念して溶存酸素量を確認するところも多いのかと思います。しかし、ホップの使用の有無に限らず、酸化は色んな影響を酒類に与えてくれます。
その1つがエタノールをアセトアルデヒドに変える動きです。
エタノールは酸化するとアセトアルデヒドになり、そのアセトアルデヒドが酢酸菌などの微生物によって酢酸に変えられる動きがありますが、似たようなものをどこかで聞いたことはありませんか?
これは人体でのアルコール代謝と同じ動きなのですね。エタノールがアセトアルデヒドになって、酢酸になって体から出ていくアルコール代謝ですがアセトアルデヒドが多く残ると二日酔いという症状が現れます。これには人体の酵素が大きく関わっているのですが、酒類における酸化が酵素を媒体として発生しているのか、時間とともにゆっくり酸化しているのかを見極めるのは非常に難しい話です。その酵素が何由来で、そのときに活性なのかどうなのかを判断する術が難しいからです(というか、僕にはどうやって判断するか検討もつきません)。
ただ一つ言えることは酸素を多く噛んでしまったお酒というのは、エタノールがアセトアルデヒドに変化する可能性がその分大きいということです。酸化を完全に防ぐのは絶対に無理なのですが、アセトアルデヒドの発生有無に限らず製造工程全体で酸化リスクの高いところを見直すのはとても有益なことだと思います◎
ちなみにどうやって酸化を防ぐのかは別の記事でまとめるか、各ブルワリーにインタビューでもしてみようかなと思っています!
アセトアルデヒドが多く残るイーストを使用している
アセトアルデヒドが多く残るというのはどういうことでしょうか。単に発酵管理によってアセトアルデヒドが大量に出た、という単純な話ではありませんでした。アセトアルデヒドは発酵初期、あるいはドライイーストを使用している場合は加水活性のときから発生していています。その量は酵母により大きく変動しますが、初期に多く出たからといって最終的に多くアセトアルデヒドが残るかどうかは因果関係が不明です。
[Lallemandの研究結果でそんなことが示されています]
では、アセトアルデヒドが多く残るとはどういうことでしょうか。
まだまだ多くの謎が残されていますが、一つの可能性としてアセトアルデヒドをアルコールに変えるための酵素(ADH)がよく働いているイーストはアセトアルデヒドがきっちりとアルコールに変わりやすいというものがあります。もう一つは、NADHという補酵素の利用率?(NADH availability)が高いとアセトアルデヒドの減少に繋がるみたいです。僕もまだはっきり理解しているわけではないので情報更新次第、また書き直しますね!!!!生物が得意な人にむしろ良くお話聞きたいです。
ということで、現状アセトアルデヒドの生成量が少ない、あるいは残存量が少ないとされているイーストを紹介していこうと思います🙌
①LALVIN ICV OKAY™
Lallemand社から出ているイーストです。アセトアルデヒドの生成量が少ないとされています。亜硫酸を使用するワインなどのお酒においては、最終的なアセトアルデヒドの残存量というよりは、途中のアセトアルデヒドの量も重要であるのでしょうね。遊離している亜硫酸はアセトアルデヒドと結合してしますので、アセトアルデヒドが多く出るイーストには多くの亜硫酸を使用する必要があります。亜硫酸の使用量が増えることは現代の消費者感覚としてあまり良いことではないので、このようなイーストを選ぶことも重要だとされています。
②SafŒno™ HD A54
ファーメンティスの出しているアセトアルデヒドの生成量が非常に少ないとされているイースト。理由はわからんです。それ以外にも高級アルコールが構成要素となるエステルを多く作り出す能力に長けており、若いお酒でも非常にクリーンな味わいになるとのこと。ハイアルなお酒を仕込むときに使用するのはありかと。
③Kviek(Omega)
Omega社が推奨しているKviekは、アセトアルデヒドの残存が少ないっぽい。高温・短期間の発酵でエステルは多く出るけど、その他のオフが少ないっていう色々と反則的な面があるイーストですが、アセトアルデヒドにも効果があるみたいです。仕込み回数の多いブルワリーは使ってみるのありですよね、タンクの使用率あがるし。ちなみにOG1.150からFG1.030まで到達するのに32℃で36時間だそうですよ。早すぎてキモい。(参考)
コンタミ(雑菌汚染)
コンタミはコンタミネーション/contaminationの略で、雑菌汚染のことですね。雑菌というか、「望んでいない菌による影響が出ること」という解釈の方がわかりやすいですね。コンタミは味わいに大きな影響をもたらします。分かりやすいものでいうと、酢酸の酸味やブレッタノマイセスによる4EP/4-Ethyl Phenolという「薬臭い」感じです。これら以外でもコンタミではアセトアルデヒドが豊富に出る場合もあります。具体的にこの菌がいるから、アセトアルデヒドが豊富にでる!っていうのは僕もまだわかりませんが、アルコールの代謝活動があったり、エタノールをアセトアルデヒドに分解する酵素をもっている菌が活動を行えばアセトアルデヒドは増えるのも納得がいきます。
アセトアルデヒドの原因がさっぱりわからなかったときはコンタミを疑ってみるのも一つです。ただ、個人的にはそれ以外の匂いでコンタミに気づくと思いますが。
Pressure Fermantationを行っている
Pressure Fermentation(PF)を行うと、アセトアルデヒドが多く残るという報告がされています。PFってそもそも何かを考察するのは、また別の記事で行うことにします。簡潔に言うと、発酵中に発生したCO2もタンクから抜かずに発酵を行うという手法で、溶存CO2と内圧による酵母への影響が酒の味わいにも寄与するというわけです。
PFのメリットは、短時間でラガービールのような淡白な味わいを作り出すことが可能な点です。しかし、その反面アセトアルデヒドが多く残りやすいと言われています。酵母が内圧のかかった環境でアセトアルデヒドを作り出す量が多いのか、アセトアルデヒドがエタノールに変換しづらくなっているのかはまだわかりません。ただどちらにせよ、ダイアセレストを挟むか、納得行くまでラガーリングを挟むかしたほうが良さそうですね。
おわりに
ダイアセチルに続き、オフの代表格であるアセトアルデヒドを紹介しました。ここに紹介していないものでも、アセトアルデヒドは発生する原因は多くあるでしょうし、解決策も色々とあると思います。最終的には現場判断で詰める時期が決まると思いますが、納得がいかないなら納得のいくまでラガーリング。これに尽きるのかなとは思っています。
また、『アセトアルデヒドが感知できるから良くない』という認識よりも、『アセトアルデヒドがその酒に合ってないから醸造工程を見直すべき』という認識のほうが良いのかなと思います。どの香り成分も合ってれば◎、合ってなければ取り除く。
とか、カッコつけてるけど現場だとわからないことも多いんですね。アセトアルデヒドなのか、原料由来なのか、はたまた他の何かなのか。いろんな経験を積んで、みなさんと共有してさらなるレベルアップができたら嬉しいです!ということで、次回は「DMS」にしようかな。バイバイ✋
以前AI(gpt-3)に「ショートケーキを圧力鍋で煮込んで酵母を入れたらお酒を造れる?」と尋ねたら可能である事、Pressure Fermentationとなり、酵母は活性化してより低温度での発酵が可能となる。
とその他にも色々教えて頂き、日本じゃライセンス持ってない人は作っちゃダメだよと注意もされました(賢い‼︎)
こちらの記事、とても楽しく読ませていただきました。
ヨシアキさん!
コメントの返信が遅くなってすみませんでした。バタバタしていて...!!
めっちゃ賢くて草も生えませんね。すご。ちなみにショートケーキに含まれる油分が酵母の発酵初期を手助けしてくれる可能性があるので、ドライイーストを使う際には活性化しやすいかもですね。笑
AIに注意される日が来るとは。。。
ありがとうございます!!!励みになります。