Malt Spec Sheet の見方2【Wort Color, Boiled Wort Color】

Malt Spec Sheet の見方2【Wort Color, Boiled Wort Color】

こんにちは!Ble_です。
寒さが少しずつ厳しくなってきました。夏場とはまた違ったスタイルが市場に溢れてきますでしょうか。ゆっくりと暖炉の前でチョコレートスタウトをマグカップで飲む。そんな一日を夢見て今日も勉強に励みます。

前回に引き続き、モルトスペックシートの数値を解説して、それをどうやって利用するかを学んでいきたいと思います。前回の記事はこちらから↯↯

ではさっそく行きましょう!
今回は【Color】についてです。

Wort Color & Boiled Wort Color

まずは前回同様に実際のモルトスペックシートを見てみましょう。

IREKSのピルスナーモルト

こちらの上から3つ目と4つ目について話していきたいと思います。

Wort Color

https://beerconnoisseur.com より編集

表を見てみると、

Wort Color 2.5~5 EBC [R-205.07.731]

と書いてあります。
後半の[]で囲まれいる部分は計測したデータをどのようにして取ったかの方法なので、あまり気にしなくてよいです。本当は気にしないといけないんですが、僕自身この方法が載っている本を読んだことがないので紹介できません。

では、2.5~5 EBCという部分はどうでしょうか。気をつけないといけないのは、モルトカラーではなくて、ウォートカラーというところです。麦芽本来の色は別に記載されていることもあるので要注意です。

EBC が示す数値の意味

EBCというのは、単位のことです。
European Brewery Convention:こちらの頭文字をとったものですね。直訳すれば、ヨーロッパ醸造慣例でしょうか。
ヨーロッパでビールの数値やその測り方を統一したものですね。それの色を示す単位の一つがこちらEBCです。

どうやってこの数値を算出しているのかというと、実は結構ややこしいです。ある波長の光がどれくらい吸収されて~的な話で僕も理解する必要がさすがにないと思うので割愛します。
数値が示す色の濃さをとりあえず画像でみてみましょう。

カラーの英単語がcolor,colour,couleur と何種類もあって頭が痛くなります。
どうでしょうか。この図は。
ピルスナーなどは4~6EBCあたりで、みんな大好きIPAは8~16EBCくらいに収まるでしょうか。ポイントなのは、数値が倍になったからといって、色味がどう変化したかを予測するのは難しいということです。
頭の中で何個か基準をもっていて、それ付近になったらこんな色だなという予測が立てられたら十分だと思います。僕は30をレッドエールくらいだなという認識で、それを基準にしています。

実は、色の単位は他にもあって、その中でEBCと対を成すような存在がSRMですね。
Standard Reference Method:こちらの頭文字の略ですね。アメリカなどではこちらが採用されています。

この二つの単位は互換性があります。
正確には以下のようになります。

SRM=EBC×0.508
EBC=SRM×1.970

ざっくりいってしまえば、EBCはSRMの2倍!ということです。
例えば、4~6 EBCの色味は、2~3 SRMの色味ということです。どちらを使用するかは個人の自由です。使いやすい方を採用してみて下さい。

Wort color 2.5~5 EBC が意味するところ

さて、EBCが色の単位と分かったところで、果たしてモルトのスペックシートがどのような数値を意味しているのかを考えてみましょう。
勘の良い人は気づかれると思いますが、

このモルトを単体で使用したときの麦汁の色:2.5~5 EBC

ということです。ここまでは問題ないとして、果たしてこの麦汁がどうやって作られているのかが気になりますね。おそらくなんですが、コングレスマッシュ/Congress Mash という方法がとられていると思います。
この方法で採取されたウォートの色味が表記されるわけですね。

Congress Mash を簡単に説明

どこかでまとめるとして、簡単にCongress Mashを説明します。
これはEBCでまとまった基準をもとにデータが採取できるように、統一したマッシングの方法が必要だったので考え出されたものです。

Congress Mash:麦芽50gに対して4倍量の水でマッシング

ということです。どの温度帯でマッシングするかは分かりませんが、同じ条件で少ない量のマッシングを沢山やって実験するんでしょうね。麦芽と水の比率を一定にすることがポイントのようです。
参考は以下のサイトです。

The Oxford Companion to Beer Definition of congress mash

The Oxford Companion to Beer definition of Congress Mash is a standardized small-scale mashing procedure employed to assess malt quality. The procedure is named for the standardized process instituted by the European Brewing Congress (EBC) in 1975.

Boiled Wort Color

さて、お次はBoiled バージョンですね。
こちらの数値は表をたどると、Boiled Wort Colour 4~7 EBCとなっています。Wort Colourよりも数値が若干高いです。

Boiled Wort Colour: The determination of the colour of congress wort after two hours of boiling under reflux.
https://brewup.eu/ebc-analytica/malt/boiled-wort-colour/4.19より出典

こちらは紹介されていました。

Boiled Wort Color: コングレスマッシュで得られたウォートを対流した状態で2時間沸騰させたあとの色味

と解釈することができそうです。
さて、2時間の沸騰は結構長いですね。現代では60~90分が主流でしょうか。さて、沸騰させたあとのウォートの色が変わるのはどうしてでしょうか。

メイラード反応/Maillard Reaction

よく耳にしたことのある反応でしょうか。こちらのメイラード反応はアミノ酸と糖分が熱により反応して、褐色のメラノイジンという物質を生み出す反応です。
常温でも進むことのある反応ですが、熱量が高い方が活発に反応します。タマネギを炒めると茶色くなる現象ですね。

ウォート/麦汁にはアミノ酸と糖分がたくさんありますので、ボイルすると色味は少しずつ濃くなります。これは時間や加熱具合が大きければ大きいほど進みます。
ですので、ボイルしたあとの色味が大きくなるのは当然と言えば当然です。

データから理想的な色味を得る

最後になります。
数値の意味を知り、あとはそれをどうやって活用するかについて考えてみましょう。どうせ学ぶならきちんと学んでみようと言うことで、最初からやってみましょう。

Malt Color [Lovibond]

まずモルトカラーが与えられている場合を想定してみましょう。
IREKSのスペックシートにはありませんが、モルトそれ自体の色味を書いてあるものもあります。

Malt Color などでしょうか。単位はおそらくLovibond が多いかと思います。
ここでは例として
ピルスナーモルト、Malt Color: 3 lovibond とあったとします。

MCU:Malt Color Value を知る

お次はMCUというものです。
今から説明するMCUというのを理解するところから、自分のビールがどのような色味になるか予想することは始まります。また、参考にした文献は章の終わりに挟むことにします。英語が堪能な方は是非。

MCU = weight of malt (in lbs) x malt colour (in lovibond) / volume (in gallons)

これはつまり、
モルトの量*モルトカラー/ビールのできあがる量
という式です。単位がそれぞれややこしいですね。

Ibs=ポンド≓0.45kg
lovibond[色味の単位]
gallon≓3.9L

例えば、先ほどの例のピルスナーモルトを3kg、10Lのビールを作るのに使用したとします。このときのMCUは以下のようりになります。
MCU[ピルスナー]=(3kg/0.45)*3 lovibond/(10L/3.9)=7.8

となります。単位を統一しないからこうやって面倒なことがおきますね。みなさんは最初からExcelに計算式をぶち込んでおいて使用するのが良いかと思います。
今の例はシングルモルトでのレシピですが、複数のモルトを使用したときはそれぞれのMCUを足してやることで全体のMCUを出すことができます。

例えば、Molt Colorが、3のピルスナーモルトと12のアンバーモルトを1.5kgずつ使用して10Lのビールを作ったとします。
MCU=(1.5kg/0.45)*3 lovibond/(10L/3.9)+(1.5kg/0.45)*12 lovibond/(10L/3.9)=3.9+15.6=19.5

となります。ポイントさえ抑えてしまえば簡単です。

How to Calculate SRM/Beer Color

The original scale to measure beer color is called degrees lovibond and was created by Joseph Williams Lovibond. By comparing the beer to glass slides one could determine the closest degree lovibond. Due to limitations with the way people perceive color and the invention of the spectrophotometer a new system was created, the Standard Reference Method (SRM) and European Brewing Convention (EBC).

The Morey Equation: MCU を SRM に変換する方法

MCUが求められるようになりました。
実は昔はこの数値がそのままビールの色味と一緒だろうとされていました。しかし、式を見たらわかるようにMCUは使うモルトの量を倍量にすれば単純に色味も倍になるという結果になります。
となると、非常に濃いマッシングをしたらピルスナーモルトだけでも、スタウトのような色味になるでしょうか。そんなことはないだろうというのは直感的にわかりそうです。(焦げは?という鋭い突っ込みは一旦無視します。処理できません。)

つまり、このMCUを実際の数値に近づける試みが行われます。その中で、The Morey Equation という方法が登場します。

The Morey Equation: SRM = 1.4922 *[(MCU) ^ 0.6859]

この指数関数はこんな感じになります。
「√関数」の画像検索結果
MCUが大きくなっても色味の濃くなる度合いが弱くなっていくということです。極限まで濃い麦汁を作れば漆黒の麦汁ができあがるという式のままなのは間違いないのですが、観測的な関数なのでそんな例はないだろうということです。普通にやれば普通に収まります。

さて、これでMCUからビールカラーのSRMを算出することができました。こちらのSRMはEBCに変換することもできますね。では、これで求められたEBCは最初に説明した Wort Color の数値と一致するのでしょうか。
答えは、近いところにあるけど、完璧に一致はしないだと思います。測定方法が違うからですね。wort color は(たぶん)実測値なのに対して、MCUから求めるやり方は理論値だからです。
もっと細かいところを突っ込めば、wort color と  beer color は異なりますね。ボイリング/煮沸を挟むことが多いはずですから。

これで、モルトカラーが与えられている場合のビールカラーをSRMでもEBCでも出せるようになりました。復習しておきましょう。

  1. モルトカラーを確認する(単位はロビボンド)
  2. MCUを算出
  3. The Morey Equation で、MCUをSRMに変換
  4. EBCに直したいときは2倍

では、お次はIREKSのように、Wort Color だけの場合にどうやって計算するか考えてみることにします。

wort color[EBC]の応用

これは僕の仮説なのですが、複数のモルトを使用する場合はそれぞれの割合(量)をwort color に乗じて、その和を出してあげればwort color になると思います。
言葉だとややこしいので、例を出したいと思います。

wort color 2~4 EBC のピルスナーモルト:30%
wort color 10~14 EBC のミューニッヒ   :30%
wort color 200~250 EBC のカラ200       :40%

という割合で作った麦汁は、
2*0.3+10*0.3+200*0.4~4*0.3+14*0.3+250*0.4=83.6~105.2 EBC
となりそうです。

そして、煮沸したあとの数値も与えられているのなら、それも同じような方法で出してやれば実際のビールの色味にぐっと近づくはずです。

まとめ

最後はとても駆け足になってしまいました。
ウォートカラーが既に出されている方が計算はしやすいですね。濃い麦汁や薄い麦汁になったとしても the morey equationが示すようにそこまで大きな差はでません。

ビールには色んな要素があって、それぞれが”個性”を際立たせて、作品として成り立ちます。色味はその中の一つでとても大切です。コーヒー豆を使用したビールを造りたいけど、色味はまったく黒くしたくないといったビールも世に出ています。
それとは少し話が違いますが、理想的な色味というのを設定するのも嗜好品ならではですから、計算を楽しんで求める色合いを算出してみてはいかがでしょうか。

またビールを飲む専門の方もブルワーさんがいらっしゃるときは色味について意見を聞いてみてはいかがでしょうか。きっと色んな想いが溢れてくるような気がします🎈
飲み手側として作り手の話を聞けるのは非常に贅沢な時間だと僕自身は感じます。だからバーも大好きです。

さて、わからないことや複雑な内容になりました。不明な点や、間違っている点などございましたら、気兼ねなくコメントやDMを頂けたらと思います
次回も別の内容でモルトスペックシートの内容を紹介できたらと思います。

ご精読本当にありがとうございました🎈

ANTELOPEブルワー谷澤 優気
お酒が好きで醸造の世界に入る。日本各地での研修期間を経て、2020年3月滋賀県野洲市で国内初のクラフトミードハウス・ANTELOPE株式会社を共同創立。
「ちょっと深く知るとお酒はもっと楽しい」をテーマに醸造学を発信中。

志賀→浜松→掛川→滋賀県野洲市[now!!]

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