Malt Spec Sheet の見方【Extract,Moisture】

Malt Spec Sheet の見方【Extract,Moisture】

こんにちは!Ble_ちゃんこと谷澤です。
先日は兄のバーテンダー技能競技大会・初全国大会参戦ということで徳島県に行って参りました。応援というよりも観光のような感じで、焼き鳥、とりわけ手羽先の美味しさに感動を覚えました。酢橘酎ハイで、手羽先を食べる。良い。

さて、今回はまた一般のビールラバーを置いていってしまうような内容になりそうです。
【Malt Spec】をどうやって自分の中で理解し、必要となる情報を得るかという内容になります。ほとんど自分のアウトプット報告みたいなものですが、実はモルトもこんなに面白いんだぞとお伝えできれば幸いです。一つ一つ紹介するとすごく長くなりそうなので、分割してやれたらと思います。
今回は"ExtractとMoisture"に焦点を当てられたらと思います。

ちなみに、Spec というのは、Specification の略ですね。
いきましょう!

Malt Spec とは

そもそも、Malt Spec とは一体どのような内容を示しているのでしょうか。まずはこの辺りを触ってみたいと思いますが、論より証拠。次の写真を見てみて下さい。

こちらは、IREKSという会社が取り扱うPilsner MaltのSpec Sheetです。これが今回のテーマになるものの一例です。

色んな項目がありまして、ざっくり20個ないくらいの数です。全てモルトの品質を示しており、味わい以外の概要をこのシートから得ることができます。これだけ沢山の数値をみながら実際にレシピを組んだり、モルトの質を考慮しなければなりません。
基本的には全てを理解していて、その上で色んなスタンスを取っていくというのがセオリーなのかなと思います。ただ、近年のモルトは品質の向上が素晴らしいようで、スペックシート自体の価値は下がっている可能性はあります。でも、学ぶことは面白いので知っておいて損はないかと!

本当はみなさんで議論したいだけなんですが。笑
では、早速各項目についてさっくりと説明していきたいと思います。

はじめに

まず、表の右上に記載されているMethod*というところに触れておきます。これは、各項目をどのようにして計って、数値化したのかというものです。これが明記されていないと数値に信憑性がなくなってしまいます。
大手のものなどは気にしなくていいとは思いますが、初めて取引をされるモルト会社でしたら、軽く見ておいて損はないかと思います。

一番最初の項目であるextract, dry matter を確認してみます。methodは、R-205.01.080[2016-03]。注釈を読んでみると、Analysis method according to MEBAK, Raw Materials, 2016と記載されています。

MEBAKのRaw Materialsの2016年版、そこで指定されているR-205.01.080 という方法で計りましたよという意味ですね。
MEBAKのこの本はドイツ語で2006年に、英語で2013年に出版されました。この会社は何十年にわたって原材料への研究をしてきたので、信頼があると使っているところが多いのでしょうか。興味がある人は、サンプルテキストを置いておきますので、見てみて下さい。

ややこしいですが、普段とみかけない方法が書かれていたら、おっ??くらいで良いのでしょうね。では、内容に入りましょう!

Extract, dry matter & Moisture Content

表の上2つですね。
まずは、このExtract, dry matter と Moisture Content です。Extract はビール醸造の話をするときは基本的に収率を表していると思ってもらえたらいいと思います。

Extract, dry matter: 揮発性物質を含まない原料(モルト)1g当たりから何グラムの糖分が抽出できたか。
Moisture Content:ほとんどが水分量、それ以外は揮発性の何か

ということになるでしょうか。Extract, dry matter は最低でもこれ以上は含んでいるという指標で、moisture contentsは最大でもこれ以上はありませんという指標です。農産物なので全てが均一な質を持っているはずがないので、平均してこれくらいになりますよというものです。糖分はたくさん取れるにこしたことはなく、moisture contentsも多いより少ない方がメリットが大きいようなので、こういう表記になります。

揮発性物質というのは基本的には水分ですね。水分が1%多い、少ないだけで大きな工場では収率にかなり大きな差が出ます。ビールを作るときには、アルコール度数や残糖などを考慮して予め何種類の糖分を何kg必要かを計算する必要があります。そこで、この数値から逆算して、必要なモルト量をたたき出します。
ただ、それなら「dry matter」である必要なないのでは?と思われますよね。そもそもの水分量を加味して、計算する方が手っ取り早いからです
このモルト1kgから糖分は0.7kg取れますよと言われたら、単純に量りに載っけて計算するだけですから。実際にも国内のマイクロブルワリーではこうやって計算されていそうですね。では、わざわざ「乾燥重量」で表記する理由はなんでしょうか。

僕個人としては”モルトの質”を判断しやすいからだと思います。
色んな文献を読んでも、あまり”なんで乾燥重量なのか”について深く書いてるところはなく、当たり前のように使われているようです。ただ、それだとなんでやねんが解消されないので、ここからは僕の推論になります。

乾燥重量と水分量から考える『モルトの質』

2つの表記例

今から二つのextractの表記例を用意しますので、その数値から読み取れる情報を皆さん自身で少し考えてみて下さい。

1.Extract [as is]  80% (*as is とは”そのまま”のモルト重量に対してのパーセンテージです)
2.Extract [dry basis] 83%
   Moisture Content    4%

どうでしょうか。2つの表記例を見比べてみて。
1の表記の場合に、40kgの糖分を抽出したいときに何キログラムこのモルトを用意したらいいでしょうか。
50kgです。40kg/0.80ですね。
では、2の場合はどうでしょうか。まず、モルト1kgから取れる糖分量を計算する必要があります。まずmoisture contentsを引いて、0.96kg の乾燥モルトのうち、83%が糖分になります。0.96*0.83=0.7968 です。40/0.7968≓50.20となります。つまり、必要なモルト量は50.2kgとなります。

面倒くさいですね!笑 面倒くささしかないですね。計算においては。
では、”品質”という面で考えると1と2では、得られる情報にどのような格差があるでしょうか。

水分と糖分量以外の”何か”

今からごちゃごちゃ話しますが、要は「Moisture Contents の指標は絶対必要」ということですので、読み飛ばしてもらって結構です。笑
 
頭がややこしくなりますので、簡単に設定を作ってみます。

糖分量:800g
moisture contents:40g
残り:200g
総量:1040g

extract[dry basis]:80%
糖分以外の何か[dry basis]:20%
moisture contents:約3.8%

のモルトがあったとします。
糖分とmoisture contents以外の20%[dry basis]は何でしょうか。タンパク質[proteins]。穀皮。脂質。そうですね、これくらいです。タンパク質量は表記されていて、量としては10%くらいになることが多く、脂質は2%くらいで少量です。となると、見えないポイントは「穀皮」の部分になります。
小麦モルトには穀皮がないので、水分とエクストラクト、タンパク質の総量でほとんど100%になりますが、大麦モルトでは話は別です。

moisture contentsが記載されていれば、extract[dry basis]:80%, proteins[dry basis]:10%,脂質[dry basis]:2%とわかったときに、穀皮[dry basis]:8%くらいだなとわかります。
では、moisture contents の記載がなかったらどうでしょうか。
extract[as is]80%,
proteins[as is]8%,
脂質[as is]:2% 
というデータのモルトがあったとします。そうなると、穀皮「as is」はほぼ10%になるでしょうか。なりません。
モルトを1kgからエキスを抽出したときに、糖分が800g、タンパク質が80g、脂質が20g取れましたとなったというデータなのですから、残りの100g、いわば10%[as is]が穀皮とmoisture contentsになります。

つまり、この10%[as is]の内訳がわからないのですね。もしかしたら穀皮がすごく多いやつかもしれないし、逆にすごく少ないかもしれない。じゃあ、moisture contentsを書かずに全部の数値を[dry basis]で表記しておけばいいかとなると、それも違います。なぜなら醸造所でモルトの水分量を0%にすることはできないわけで、かならず適切な数値を求めるにはmoisture contentsの数値が必要です。

頭の中が整理できてなくてつらい。。。笑

moisture contents が表すモルトの質

moisture contentsは、モルトによって平均的な数値は変わってきます。
Brew Your Own の記事を参考にすると、6%以上のmoisture contents があるのは避けた方がいいと書かれています。ですから、ここでモルトの品質を一つ確かめることができそうですね。

では、moisture contents が平均よりも多い、少ないといったデータをもらったときに「どんなモルト」と自分の中で整理することができるでしょうか。

平均よりも高い:水分量が多く、腐敗するリスクが高まります。大量に購入するモルトや、あまり使用頻度の高くないモルトにおいてはあまり良い情報ではありません。また、モルトは水分を含んだ状態から乾燥させてプロダクトとなります。ですので、乾燥が弱いことが考えられます。Specialty Maltなでにおいては、熱が弱かったり、乾燥時間が短かったりするかもしれません。酵素力にも変化が起きる可能性があります。特にミューニッヒやビエナなどは予定しているよりも糖化が進むかもしれません。また、見た目上[as is]の収量は落ちます。
平均よりも低い:水分量が少なく、保存に向いています。上記の例と逆で登場頻度の少ないモルトでは活躍するデータであるともいえます。しかし、極端に乾燥させていることも考えられ、ベースモルトなどにおいては酵素力が若干失われている可能性もあります。過度に少ない場合は問い合わせみるか、いつもこまめに糖化具合を確認する必要があると思えます。

まとめ

今回はモルトのスペックシートに関する考察になりました。ややこしいので、ポイントをまとめてみたいと思います。
 
Point

  1. Moisture Contentsは必須。わからないと必要なモルト量の正しい計算ができない。
  2. 正しいモルトの計算量は[as is]ではなく、moisture contents を引いた[dry basis]で計算すること。3~6%ほどではあるが、微妙な差異が発生する。
  3. Extract, dry matter はmoisture contentsを引いたときのモルトからどれくらい糖分が取れるかの指標。
  4. Moisture Contents は、平均よりも高い場合、腐敗するリスクが高まる。また、乾燥具合に不備がある可能性があるので本来のモルトと異なる性質を持っているかもしれない。
  5. Moisture Contents は、平均よりも低い場合、長期保存に向く。しかし、乾燥させる温度が高かったか、時間が長すぎた可能性もあり、酵素力に変動がある可能性がある。

こんなところでしょうか。
かなりmoisture contents に時間を割いた気がします。正直なところ、extract [dry basis]に関してはそのまま過ぎてほとんど情報を追加できませんでした。数値が高ければ高いほど、収量が多くなります。その分、タンパク質量が少なくなったり、穀皮の割合が小さくなってロイターリングに影響が出るかもしれません。逆の場合は、穀皮の割合が増えて、ポリフェノールが多く抽出されるかもしれません。
いずれにせよ、1%ほどのズレならマイクロブルワリーではそこまで差がないかもしれません。

しかし、moisture contentsに関しては、モルトの品質そのものを垣間見ることができるかもしれませんので、重要だと思います。特に保存に関しては、一気にたくさん注文することが多いでしょうから、注意して見てみるといいかと思います。

以上です!ご精読ありがとうございました。次は、また別の指数に関してあげていこうと思います。

 
ANTELOPEブルワー谷澤 優気
お酒が好きで醸造の世界に入る。日本各地での研修期間を経て、2020年3月滋賀県野洲市で国内初のクラフトミードハウス・ANTELOPE株式会社を共同創立。
「ちょっと深く知るとお酒はもっと楽しい」をテーマに醸造学を発信中。

志賀→浜松→掛川→滋賀県野洲市[now!!]

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