ソムニロキスト【遊離アミノ酸/FAN】

ソムニロキスト【遊離アミノ酸/FAN】

農業をやる、ということを真剣に考えた一日でした。自分達で育てた果物で、自分達の作りたい酒を作る。そんな理想郷を地域や都や国が支援金を出して応援してくれるんだから、やる方向性を考えたいよね。

ずっともやもやしていたFree Amino Nitrogen。略してFAN。ワインの世界だと、Yeast Assimilable Nitrogen/YANという値で表記することが多いような気がする。日本語にするなら、遊離アミノ酸。

醸造の世界においては、めっちゃ大事な値。どうして大事なのかというと、イーストが健全な発酵をするために必要不可欠だから。ただ、豊富にありすぎても酒の味わいを壊してしまう可能性があるから、ややこしい。

初期発酵時には、200ppmくらいの濃度が理想的とされているんだけど、どうやってそんな風に調整すると思いますか?ビールの世界では、現代の麦芽は優秀なのでシングルステップインフュージョンで十分この値くらいになります。麦芽が持ってるプロテアーゼは酵素にしては熱耐性が高く、シングルステップでも温度によっては微量に働く可能性も示唆されています。麦芽のタンパク質がプロテアーゼによって細かく分解されて、小さなペプチド、あるいは単離したアミノ酸に分解されるという仕組み。ちなみに、プロテインレストという50℃くらいのステップをむやみに踏むと、この遊離アミノ酸が豊富になりすぎるので気をつけて下さい。

遊離アミノ酸が豊富になると何がおきるのかというと、高級アルコールの生成が激しくなります。ロイシンやイソロイシンというアミノ酸が豊富になる場合はエステルの生成も激しくなるんですが、バリンというアミノ酸に関しては過剰部分は全てイソブタノールという高級アルコールの生成に使われます。高級アルコールは、アルコール臭く、口当たりもカッカさせる原因になります。

よし、わかりました。ビールの醸造に関しては一般的なモルトを使用する場合にはFANは気にしなくて良いですよと。

では、ミードではどうか。蜂蜜にはタンパク質がほとんどなく、FANが低すぎるので発酵に影響があると言われているが、本当にそうか?
蜂蜜のタンパク質は0.3g/100g。アミノ酸組成によるタンパク質は、0.2g/100g。一般的なミードは、200g/Lの割合で使用するくらいなので、アミノ酸は0.4g/Lくらい入ってそうだ。これをppmに直すと、400ppm。200ppmの倍もある。

実はここには大きな勘違いがある。アミノ酸はアミノ酸でも、遊離していない(あるいは数個しか結合してない)と酵母には利用できない。蜂蜜に含まれているアミノ酸も無数に結合しているアミノ酸でほとんど構成されているので、400ppmあろうが酵母には利用できない。実際にアメリカの研究機関が検査したところ蜂蜜のFANは、40ppm前後(40mg/kg)

お酒にしようとすると、蜂蜜と水だけで作った液体には10ppm前後くらいのFANしかないのだ。つまりここに別の材料でFANを足すか、あるいは蜂蜜のタンパク質をプロテアーゼで分解して遊離アミノ酸を生成する2つの方法を取らないといけない。

前者の場合は、フルーツや栄養剤を使用する。栄養剤は、FAN値が記載されてるので書いてある通りに投入すればいいけど、フルーツはどうにもならん。逐一、自分で遊離アミノ酸量を調べて、仮説を立てて、検証するしかない。

例えば、パイナップルだと遊離アミノ酸は300mg/100g、と古いデータがある。本当かどうかはしらないけど、200g/Lでお酒に使用したらFAN 600ppmを加えることになり、初期発酵時には明らかに多い。じゃあ、初期発酵時点では100g/Lで使用して、発酵修了直前にもう100g/L足すことにしよう。

的な。

そんなレシピ開発を進めていかないとなー。途方に暮れるが、やらないとね。おやすみなさい。

ANTELOPEブルワー谷澤 優気
お酒が好きで醸造の世界に入る。日本各地での研修期間を経て、2020年3月滋賀県野洲市で国内初のクラフトミードハウス・ANTELOPE株式会社を共同創立。
「ちょっと深く知るとお酒はもっと楽しい」をテーマに醸造学を発信中。

志賀→浜松→掛川→滋賀県野洲市[now!!]

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