【Oats】オーツ麦についての考察
こんにちは!
今回はHazy IPAのブームの立役者と言っても過言ではないオーツ麦について考察してみようと思います!ただ、これはScott Janishのブログで超くわしくまとまっているものがあるので、そちらを1ブロックごとに記事の翻訳と少し解説を挟みながらの進行となります。原文を読んでも醸造の前知識がある程度ないと面白さが伝わりづらいかもなと思って、僕なりの解説を交えながら進んでいこうと思います👐
原文で読みたい方はこちらをどうぞ!
まずはじめに
オーツ麦/Oatとは、燕麦(えんばく)のことです。耳馴染みがある食品でいうと、「オートミール」が一番イメージしやすいでしょうか。小麦に比べて、タンパク質、脂質、加えて水溶性の食物繊維が豊富で健康食品という立ち位置を確保しているように思えます。このオーツ麦に含まれる水溶性食物繊維のほとんどがβグルカンと呼ばれるものです。このβグルカンというものは醸造に大きな影響を与えます。
βグルカン
βグルカンは液体の粘度に大きく関わります。大麦にもβグルカンは含まれており、麦を発芽させてからビールの醸造に使用する理由の一つはこのβグルカンを酵素の力で分解することでもあります。精麦の精度が低い麦芽はβグルカンが多く残っていて、糖化作業中の液体粘度があがってしまいます。粘度の上昇は麦汁濾過時の詰まり(スタック)を引き起こす原因となります。一見すると良くないもののように思えますが、最終製品に粘度がつくことは現代のクラフトビール文化に置いては非常に重宝されると言っても過言ではありません。Hazy IPAを始めとするジューシーな質感はβグルカンも大きく貢献してくれます。
βグルカン以外にもオーツ麦の持つ豊富な脂質が醸造に与える影響はどのあたりでしょうか。一昔前のビール醸造学では、「脂質は酸化臭の原因になる」「エステルの生成が減る」「泡持ちが悪くなる」と言った要素を持ち合わせていたような気がします。さて、Scott Janishが読み漁ってくださった最近の研究結果ではどのようなことが言われているでしょうか。
いってみましょう!
結論から
今回の記事はしっかりとボリュームがありますから、まずはスコットのまとめから紹介します。興味が惹かれた部分があれば進んでもらえたらと思います。
- オーツから滑らかな口当たりを期待するなら使用量を全体の18%まで上げたほうが良い可能性があります。
- オーツを大量に使用した麦汁はβグルカンによって粘度が高まっています。それの対処法としてはマッシュフィルター、粘度の低いベースモルト(6-rowなど)を使う、酵素を直接添加する、米の籾殻を入れる、低温のレストを挟む、などです。
- 生のオーツを挽いて使用するとき、マッシング温度が高いならシリアルマッシュをする必要はありません。私は生のオーツを挽き割りにしたものを40%使用して、64%のマッシング効率を2時間かけて得ました(オーツを粉にして使用すればもっと収率は上がる可能性があります)。
- オーツを大量に使用したビールはエステル生成が制限されてしまう可能性があるけど、まだはっきりとは分からない
- モルト化されてないオーツをスターターの麦汁用に使用するのはイーストの健康状態を改善するのに役立つ可能性があります、特に何世代にも渡って使用したイーストにおいては効果が高そうです。
- オーツを大量に使用したビールは泡持ちが悪くなる可能性があります。
- 100%大麦麦芽のビールに比べてオーツを使用したビールは発酵具合が落ちるでしょう。オーツの使用割合が高まるほど、FGも上昇すると予想できます。
- オーツを大量に使用したビールは一般的なオフフレーバーを減らしてくれる可能性を秘めていて、同様にビールの安定性向上にも期待が持てます。
準備はいいですか?いきましょう!
Viscosity and Mouthfeel
お酒のMouthfeel(口当たり)は、βグルカンやエタノール、グリセリン、糖タンパクなどの多くの要素によっても決まります。オーツ麦によるクリーミーで柔らかい口当たりは多くがβグルカンによります。このβグルカンが麦汁中に増えると、麦汁の粘度が上昇します。ではいったいいくらくらいのオーツを使うと実際に麦汁中にあるβグルカンの量が増えるでしょうか?ある研究では、100%大麦麦芽で仕込んだ麦汁は20mg/Lのβグルカンを含み、精麦されていないオーツをたった10%加えるだけでβグルカンが393mg/Lに上昇したと報告しています。麦芽の割合を60%の大麦麦芽と40%の精麦されていないオーツに変更した際にはなんと1,949mg/Lとなんと初期の97倍に相当する量にまで上昇しました。
オーツに含まれるβグルカンは一体どれくらい増えるのかという研究結果です。オーツ麦の割合がグレインビル10%につき400~450mg/L程度増えるのかという認識で良いかと。オーツといえばフレークドオーツしか日本で流通していないような気がしますので、単純にフレークドオーツの割合という認識で良いはずです。オーツと言えばOatsmilk StoutやHazy IPAを想像される方がほとんどだと思います。色んなレシピを見ましたが、オーツがグレインビルに占める割合は8~16%くらいが多いのかな?という印象でした。オーツによるβグルカン量は300~700mg/Lくらいでしょうが、Mouthfeelにどれくらいの影響があるのでしょうか。
Schnitzenbaumerの研究によれば、βグルカンが800mg/L未満の場合にはそれだけで口当たりを変えるほどの役割はなく、タンパク質やでんぷん質も口当たりに関係していることが報告されている。これらのデータから考えると、オーツによって液体の粘度を高めたい場合はグレインビルの18%以上を使用する必要があるかもしれない。
βグルカンが800mg/L未満の場合は口当たりを変えるほどの影響はない可能性があって、タンパク質やデンプン質などの他の要素も加わってはっきりとした液体の粘度上昇が得られるのでは?ということでしょうか。βグルカンを中心に考えた時には、グレインビルに対して18%以上のオーツを混ぜることではっきりとした口当たりの変化がありそうという予想は非常に合理的でわかりやすいですね!!
もちろんβグルカンはオーツ以外にも大麦麦芽や小麦、その他の穀物からも抽出されますから必ずしも18%以上が必須という訳ではないと思います。でも指標があるかないかはグレインビル決めるときの超大切なことな気がしますよね!👐
麦汁のβグルカンが増えること、すなわち液体の粘性が上昇することにより発生する問題としてはスパージ時の詰まり、移送間のトラブル、濾過速度やロイターリング速度の低下、ビールの清澄度合いが悪くなるなどです。これらの問題を解決する方法としては、米の籾殻を使ったりマッシュフィルターを使うなどが挙げられますがそれらと同様に低温でのレストをマッシングで挟むことも挙げられます。ひき割りにしたオーツ麦を40%も使用したバッチは、スパージをしませんでしたが特に上記の予防策を取る必要もなく麦汁を取ることに成功しました。たった10%ほどの使用であればロイターリングに直接の影響を及ぼすことはありません。
液体の粘性が上がるとまず一番最初に考えるのが、スパージ時の詰まり(スタック)でしょうか。液体の粘度が高いために麦層を麦汁が通ることができずに立ち往生してしまいます。こうなるのを防ぐためによく取られる方法が、米の籾殻を使うことと低温でのレストを取ることです。米の籾殻はグレインビルに対して1~5%で入れるのが普通なようですね。ポリフェノールを含まない点が余計な雑味を与えないところが他の穀物よりも優遇されている点です。低温のレストはβグルカナーぜレストとも呼ばれるもので40℃-50℃の温度帯でキープします。時間は使っている原材料にもよりますが10~30分程度で調節してみてください。40%もオーツを使っても問題ないと言ってますが、これはホームブリューでの話でしょうからあまり参考にならないんじゃないかと思っています!👀
ちなみにマッシュフィルターは見たことがないのですがされているブルワリーがあれば是非見学させて下さい笑
βグルカンが増えたときの対処法にはベースモルトに六条大麦を使用するのも手かもしれません。六条大麦は二条大麦に比べて粘性が少なく、酵素力は同等ほど。酵素力が多いことがオーツをたくさん使った麦汁の糖化に必ずしも必要というわけではないですが、粘性が少しでも減ることで糖化効率とケトルへの移送速度を良くしてくれる可能性を含んでいます。また六条大麦を含んだことでマッシュの酵素量が直接的に増えることによっても麦汁の粘性が減り、濾過効率や糖度回収率が良くなる可能性があります。これらのことからオーツのような原材料を大量に含むマッシュには六条大麦を加えてあげるのは有用かもしれません。
レストや米の籾殻、マッシュフィルター以外にも粘性が高いマッシュに効果があるものとして六条大麦麦芽の可能性を示唆しています。6-rowとよく言われるモルトで、通常の麦芽は2-rowという二条大麦です。6-rowの特徴としては2-rowよりも豊富なタンパク質、酵素量、少ない炭水化物などがあげられます。炭水化物が少ないのでβグルカンも少ないのでしょうか、筆者は粘性の少なさも評価していますね。粘性が2-rowよりも少ないのであればマッシュの粘性を直接的にさげることができます。また、酵素量が多いのでβグルカンの分解にも寄与する可能性もありますし、タンパク質の分解による粘性の低下もありえます。北アメリカなどではビールスタイルに6-rowを使っていることも多いようで、お米やとうもろこしなどの穀物をマッシュに豊富に入れるスタイルがあったのでそれらの糖化作業をしっかり行うためにも6-rowは重宝されていたみたいですね👐
Mash Efficiency, Temperature, and Time
生のオーツ麦を挽いて使用するときにはシリアルマッシュを採用することが推奨されているように思えます。フレークドオーツのように既にフレーク化されるときの工程で糊化されているわけではなく、文字通り「生」の状態のままだからです。シリアルマッシュは穀物を糊化し、酵素が働くようにしてくれます。でも、正直な話私は生のオーツを使用するときにシリアルマッシュが必要だと思っていません。
シリアルマッシュと糊化という単語が出てきます。糊化はα化とも呼ばれる現象で、穀物のデンプンに酵素を働きかけるための下準備みたいなものです。非加熱状態の穀物に含まれるデンプンはアミロースとアミロペクチンがぎゅっと密着していて、酵素が間に入って糖分に作用することができません。この状態を水分と熱によって構造に隙間を作り、酵素が働ける状態にするのが糊化です。生のお米を「炊く」作業がまさに糊化作業であり、シリアルマッシュはまさにこの「炊く」ことに他なりません。実際にお湯と穀物を混ぜて事前調理してからマッシュに混ぜるので、イメージ的には「一回炊いてから使う」でokです。デンプンが糊化状態になる温度を糊化温度と呼ばれ、穀物ごとにばらばらです。生のお米が消化に悪いと聞いたことはないでしょうか。これは胃の中で生のお米を糊化できないからデンプンが分解されないのですが、米の糊化温度が体温よりも高いことを示しているとも考えられますよね。より具体的な穀物ごとの糊化温度が下記にまとめられています。
〈デンプンの糊化温度〉
穀物 | 糊化温度 |
とうもろこし | 72.2~77.8℃ |
米 | 70~85℃ |
ソルガム | 69-75℃ |
大麦 | 58-65℃ |
オーツ | 57-72℃ |
小麦 | 55-60℃ |
ライ麦 | 55-60℃ |
見て分かる通りオーツの糊化温度は大概のマッシング温度に適応しています。もう少し詳しい研究をみると、60℃から64℃にかけて糊化速度のピークを迎え、68℃で糊化は終了しているようです。通常のマッシングをしている限りはオーツを生で使用していてもシリアルマッシュをしなくても糊化できるというわけです。
ビール醸造においては糊化温度とマッシング温度の関係性がとても重要です。通常のマッシングではアミラーゼが働く温度帯(62-72℃)の範囲内で行うことがほとんどです。この温度帯で糊化するのかしないのかで、シリアルマッシュをするかしないかが決まってくるといっても過言ではありません。モルトはすでに発芽大麦を乾燥させるときに熱が入っていて一度糊化した状態なので、ちょっと話が変わってくzるのですが糊化温度が低いことで生の大麦や小麦を使用することも可能です(ベルジャンホワイトなどは生の小麦を使っていますよね)。そしてこの表を参考にするとオーツの糊化温度も低く、別の研究によれば68℃で糊化も完了しているようです。このことからスコットは生のオーツをわざわざシリアルマッシュする必要はないよと言っているのですね。
40%の生オーツと60%の6-rowでマッシュした際には収率は64%でした(オーツは二回ミルで挽き、マッシュの完了には2時間かかりました)。この結果を考えるとシリアルマッシュはマッシング速度を速めてくれる可能性がありますが、シリアルマッシュにも時間がかかることも忘れないで下さい。マッシュ効率が悪いのはオーツを使用している割合が高いことにも起因しています。ある論文によればオーツ麦芽の糖分抽出量は大麦麦芽の70-75%程度だったようです。Schnitzenbaumerの研究によればオーツを大麦100%に比べて生のオーツを40%混ぜた場合には発酵性の糖分が17%落ちたのこと。
スコットの実験では上記のような結果になったようですね。マッシュ効率とは、使用した穀物から想定される最大の糖分量と比較してどれくらいの糖分が回収できたのかを表しています。もちろんこれは100%に近づくほど無駄がなく素晴らしいのですが、実際には不可能です。穀物の表面に付着したままの糖分だったりが回収しきれなかったり、酵素がぶつからなかったデンプンがそのまま水に溶けずに沈んでしまったりなどがあるからです。この数値は通常は70%~75%のところが多いと思いますが、すげー設備だと80%~90%まで行くんでしょうね。そしてスコットの実験では64%ということで少し少ないです。オーツからはそもそも糖分が取り出しづらいようです。またシリアルマッシュをしないと糖化に時間がかかるようですが、結局シリアルマッシュも事前準備をすることなのでとんとんということですね。マッシュ時間が長くなるとポリフェノールが出る量も増えますから、気になる方はシリアルマッシュをしたほうがよいでしょうね。
Wort Nutrients (FAN)
Free Amino Nitrogen[FAN]は酵母の発行に必要なアミノ酸のことで通常は大麦麦芽から供給されます。大麦麦芽以外の穀物割合が増えるとこのFANが減ってしまい発酵が弱くなってしまう恐れがあります。ある研究では、100%モルトのときは177mg/Lで40%を生のオーツに変えたときには131mg/Lという結果でした。また近年の研究ではこれまでの醸造学で言われていた100mg/LがFANの最低ラインというレベルよりももっと少ない値のFAN値を推奨しているようですが。つまり、オーツを40%も使うことでのFAN低下は一切気にしなくて良いでしょう。
酵母は砂糖だけではなくアミノ酸も成長のために必要にしています。僕たち人間と一緒ですね。このアミノ酸がこれまでは100mg/Lは麦汁に含まれていないと健全な発酵が保てませんよというのがこれまでの流れでした。基本的にアミノ酸は大麦麦芽から供給されますが、それを生のオーツに変えればFAN値が下がってしまうのでは?という疑問は至極当然かと思います。しかし、40%も生のオーツに変えても100mg/LはFAN値が確保できますし、心配いりませんよということですね。そもそも100mg/Lよりも少なくてよいという研究結果も後押ししているようです。ちなみにこのFANが高すぎても高級アルコールというアルコール臭さの原因の一つである物質が発生しすぎるので多ければよいという問題でもないですね。
Ester Production
オーツの量を増やすことととエステル合成の話で迷宮に迷い込んでしまいました。まずはじめに、オーツを増やすことによってFANが少なくなることを学びました。それを踏まえて、酢酸エチルの合成量がFANの減少およびグルコース濃度の減少に伴い減ったという研究を共有したいと思います。したがって、オーツの使用量増加とエステル減少は多量なりとも関連がありそうです。加えてオーツは他の原材料や大麦麦芽と比べても脂質が多い特徴もあります。以下がオーツと外皮を除いた大麦との比較です。
脂質 | オーツ (1 cup) | 大麦[外皮なし] (1 cup) |
総脂質 | 10.8 g | 4.2 g |
飽和脂肪酸 | 1.9 g | 0.9 g |
一不飽和脂肪酸 | 3.4 g | 0.5 g |
多価不飽和脂肪酸 | 4.0 g | 2.0 g |
Omega-3 脂肪酸 | 173 mg | 202 mg |
Omega-6 脂肪酸 | 3781 mg | 1838 mg |
発酵の香り成分で重要なエステルとオーツの関係性の話です。
FANとグルコース量の低下によって酢酸エチル合成量が減る、という研究結果をもとにすればオーツを使用することによりエステル合成量が減るのではないか?と思われます。酢酸エチルといえば、日本酒で"酢エチ"と言われるパイナップル様の香り成分です。そして、オーツが麦芽に比べて脂質が高いという点にも注目していきます。表を見ると、オーツは麦芽の2倍ほどの脂質が含まれていることが分かります。
オーツは他の穀物と比較しても脂質が豊富で、主要な3つの脂肪酸(パルミチン酸、オレイン酸、リノレン酸)も多いです。麦汁内の脂質はエステル合成量に影響するのでとても大切です。全ての脂質は脂肪酸が結合しているので、脂肪酸の測定をすることで総脂質量を予測できる可能性があります。マクドナルドが書いた不飽和脂肪酸(オーツでいうオレイン酸やリノレン酸など)が増えることはエステル量を減らすという研究もあります。これはイーストが不飽和脂肪酸を蓄積するとエステル合成を行う酵素の活動が制限されることに由来します。2011年の研究では、発芽オーツのみで仕込んだビールは大麦モルトのみで仕込んだビールと比較するとエステル量がはっきりと減少していました。具体的には酢酸エチルが50%、酢酸イソアミル(3-methyl-butyl ester)は45%減少したとのこと。
脂肪酸は脂質を構成している物質の1つです。この脂肪酸が多いと総じて脂質が多くなりそうで、脂質の中でも特に不飽和脂肪酸が増えるとエステルの量が減る可能性が高そうだという話ですね。100%オーツモルトで仕込んだビールは酢エチ、酢イソともに半減したデータもあるようです。これは不飽和脂肪酸が酵母のエステル合成酵素を阻害するから、とのことですがこの論文は1984年のものでweb上でも何故か発見できなかったので真偽のほどはわかりません。ただ、脂肪酸とエステル合成の関係性はありそうですね!
Schnitzenbaumerたちは、全量大麦麦芽の麦汁と比較して生のオーツを多く含んだ麦汁はフルクトースとグルコースの量が50%減っているのを発見しました。フルクトースとグルコースがオーツの麦汁に少ないとすれば、同じ比重の麦芽100%の麦汁よりも酢酸エチルが少ないビールを作れる可能性があります。
追加の研究もあって、彼らはリノレン酸とエステル減少との関係は見つけることができず、"もしマクドナルドが言ったように不飽和脂肪酸が酵素の働きを抑制するのであれば、酵素の抑制と誘導の両方が同じ速度で起きていることをデータで説明してもらう必要がある"と言っています。加えて、なんとSchnitzenbaumerたちは生のオーツを40%使用したビールで比較すると約14%のエステルが増えたことも発見しました。
いよいよスコットが混乱してきた流れが見えてきましたね。これまではオーツの不飽和脂肪酸が多い点やフルクトース、グルコースの量が少ない点から「オーツを使うとエステルが減る」という考えが正しいように思えました。しかし、Schnitzenbaumerたちの研究によると不飽和脂肪酸であるリノレン酸とエステル減少を結びつけるデータが得られませんでした。もし不飽和脂肪酸によってエステル合成酵素の活動が抑制されるのであれば、それと同様に不飽和脂肪酸によってエステル合成酵素の生成が行われていないと不自然だろう!という。追い打ちをかけるようにオーツを40%も使用したビールはエステル総量が増えたというデータも得たようです。
さてオーツはエステルましましビールの味方なのか、あるいは克服すべき課題なのかどちらでしょうか。
Conanのようなエステルをたくさん出すイーストを用いて、高割合のオーツを使用したビールを仕込んでエステル量を比較するのはとても価値のある研究だと思います。もちろんエステルを減らすことがゴールであると限りません!私個人はホッピーなビールにエステルを混ぜ込むのが好きで、なぜかというとエステルがホップのフレーバーとアロマ、そしてエステルたちの境界線をぼやかしてくれるので最終製品のコントロールがしやすいと考えているからです。
結論はまだ出ていないようですが、Conanのような"The Hazy IPA"系に採用されがちなエステルがんがんな酵母で大量のオーツを使用したビールの比較実験をするのはとても面白そうですよね!Conanは、Hazy IPAの祖とも考えられることも多いアルケミストが作ったHeddy Topperに使われたイーストです。Hazyといえば、ConanかLondon Ale Ⅲか、クヴァイクか、Chicoですか(全部やん、、、)。スコットはホップの香りとエステルが共存するとお互いの香りの境界線が曖昧になるので、最終製品のコントロールがしやすいと考えているようです。分かるようで分からない感覚ですが、エステルが重要な要素であることは間違いでしょうね。
Yeast Growth
オーツによる脂質が麦汁に増えることでイーストの成長サイクルにポジティブな結果が出たことがあります。Schnitzenbaumerの研究によればオーツを増やした麦汁は全量麦芽のものと比べてイーストのラグフェーズが短くなり、発酵二日後のイーストの数が94%も高かったんです!また同じ研究で、オーツを40%使用したビールは比較すると最終製品の脂肪酸が60%も減少していたみたいです。おや?これはつまりオーツ由来の豊富な脂質は通常の麦汁よりも多くイーストに消化されるということでしょうか。イーストのラグフェーズが短く、成長率も高いことがオーツを豊富に使用することによって実現できるとすればイーストのスターターにオーツの割合を増やしてみることも大いに有用かもしれません!
脂質が麦汁に増えるとラグフェーズ(lag phase)が短くなり、酵母の数も増えるのでピッチ前のスターターにオーツの割合を増やした麦汁を使うのは良さそうですね!という話です。ラグフェーズは簡単に説明すればイーストを投入して発酵が始まるまでの時間のことで、数時間から長くても1日ほどです。この時間が短いことは他の菌に汚染されるリスクが少ないことや健康な発酵の証とみなされることもあり良いことと見なされています。液温や投入酵母数によってもこの時間は短くなったりしますが、ラグフェーズ中の液温があがると過剰にダイアセチルに変化する可能性のある物質が出る可能性があるので、基本的にはラグフェーズを短くするために液音を上げるという考え方はありません(というか聞いたことがないです)。じゃあラグフェーズを短くしたいんだけど、どうしたらいいの?ってときにオーツを使って脂質を増やしてみませんか、と。
麦汁に脂質と聞くと、「脂質の酸化によって劣化リスクも増えるやろ?」って思う方も多いかもしれません。最終製品の残った麦芽由来の脂質などは酸化してT2Nという劣化臭に変化する可能性があります。そのため、基本的にビールに残存した脂質は少ないほうが良いはずです。しかし、発酵初期に豊富に脂質があると、逆に酵母の成長が高まり脂質をもっと代謝してくれて、最終的な脂質残存料は通常のものより減っていたというではありませんか。オーツを40%使用したら、なんと60%も最終的な脂肪酸が減っていたと。発酵初期に脂質を増やすメリットかもしれませんね!👐
オーツに含まれた脂質は古い世代の菌体が多いイーストを使うときにもプラスの影響を与えてくれる可能性があります。何世代にも渡って繰り返し使用されたイーストは徐々に細胞内の不飽和脂肪酸が減っていき、発酵中の成長速度が落ちていきます。過去の研究で脂質(特に不飽和脂肪酸)を供給されたイーストは発酵が活発になることが分かっています。古い世代のイーストが多い場合に発酵を促進するためにもオーツの割合を増やしてみるのも有用で、これもまたオーツをスターターに使用する適切な例であると言えます。
単に発酵を促すだけではなく、何世代にも渡って使用されてきたイーストの老化防止にも脂質が役に立つのではないかと。ビールの世界では一度使用した酵母を何回も再利用することがあります。酵母は活動が終了するとタンクの底の方に沈んでくるので、それを採取して培養して再度別の発酵タンクに使用する感じですね。酵母は生命サイクルの中で娘細胞をどんどん生み出すので、どんどん若い世代に新しい麦汁を発酵させてもらうイメージですが採取されたイーストには何度も娘細胞を生んできた酵母も混じっています。それが何度も繰り返されると採取されたイーストにおばあちゃん世代がどんどん増えていきます。酵母は繰り返す生命サイクルの中で、すこしずつ細胞壁の柔軟性がなくなっていきます。細胞壁はいわば酵母のバリア的なものです。それらの柔軟性がなくなってくると、浸透圧など様々なストレスに耐えることができずにチュドンとなってしまいます。これらの細胞壁はステロール(特に不飽和脂肪酸ステロイドアルコール)によって形成されていまして、発酵初期に酵母は酸素を取り込みつつこのステロールを合成し、丈夫な細胞膜を作っています。だからビール醸造ではエアレーションという麦汁に酸素を混ぜる段階があるんですね(近年はエアレーションの是非も検討されていますがこれはまた別の機会に)。
さて、このステロールですが酸素を取り込んでわざわざ合成していますが、不飽和脂肪酸が麦汁に含まれていると直接的に細胞壁を健康に戻してくれる可能性があるようですね。細胞壁のステロールが不飽和脂肪酸ステロイドアルコールという仰々しい成分が中心になって作られていることに原因があるかもしれません。酵母が健康であることはとても良いことで、その理由も簡潔に説明すると3つあります。
- オフが出づらい
- イーストの死滅による影響が減る
- 酵母のハウスイースト化が加速する
1つずつ説明すると果てしないので軽く。健康な酵母は発酵も健康になります。健康な発酵とはダイアセチルが全て還元されている、アセトアルデヒドもすべて還元されている、死滅して肉っぽい味わいが出てないことに繋がります。ハウスイースト化とは、酵母が少しずつ麦汁の環境に合った遺伝子変化をするという仮説に基づいて検証されているものです。何度も同じレシピで仕込むならばその麦汁の環境に適応したイーストのほうがストレスが少なく健康な発酵になるのでは?というものです。何度も繰り返しイーストを培養しては仕込み、を繰り返すうちに適応したイーストの濃度が濃くなっていきます。何世代にも渡って酵母が活動する条件の重要な要素は細胞壁が健全であることなので、これを脂質がサポートしてくれるなら最高ですね。
Head Retention
TSN(総可溶性窒素源)がオーツを豊富に使用した麦汁で減っていることが分かってきた。オーツモルトの分析では窒素(タンパク質)の溶け具合がとても低く、可溶性窒素源が少ないことに繋がります。ボイル後にはオーツを豊富に使用した麦汁には本来のたったの10%の窒素源しか残っていませんでした。Taylorもまたオーツを使用するとビールの泡持ちが悪くなることを発見しました。しかし、「可溶性窒素源が少ないことが原因であって、オーツによってもたらされる脂質とはあまり関係がないように思える」とのことでした。このことはオーツにより豊富にもとらされた脂質が発酵初期の酵母の活動によって最終的なビールの脂質量を減らしているという説と同じ方向性を向いているように思えます。この説は豊富な脂質が泡持ちを悪くするという一般的な説とは異なっていますが、それもそのはずで、最終的なビールには脂質が残っていないんだから!
麦芽にはFANと呼ばれる窒素源があること、それが発酵に重要な成分であることを先に説明しました。オーツモルトにはその窒素源が少ないようですね。窒素源は基本的にアミノ酸から供給されまして、オーツにはアミノ酸が重合したタンパク質が多いので一見すると窒素源は豊富なように思えます。通常、穀物がモルト化していくなかで麦芽の酵素が働きタンパク質をアミノ酸に分解していきまして、この酵素によって物質が細かくなっていくことを"溶ける"と表現することもあります。オーツモルトはこのタンパク質の溶けが悪いようで、最終的な窒素源が少ないということみたいですね。そしてこの窒素源が少ないと泡持ちが悪いという研究結果がTaylorさんによって発見されたみたいです。初耳。泡持ちが悪い理由は色々考えられるんですがオーツとなるとやっぱり脂質に目が行きそうなものです。グラスに注いだビールから泡があふれるときに口をちょっとつけると泡がシュッと収まってる映像ってなんとなくイメージできませんか?これは口についた油分がビールの泡持ちに非常にネガティブな作用があるからです。科学的な話でいうと疎水性だなんだってなるので興味が在る方は調べてみて下さい。オーツは脂質が多いので、この脂質が泡持ちと関係してるのでは?と思うのですが、先の研究で既にオーツの脂質は発酵初期に酵母に取り込まれて最終製品にはあまり残らないということでしたので、原因は窒素源の少なさでは?ということですね。真偽のほどはいかに。
Schnitzenbaumerの研究では泡持ちについても調べていました。オーツを10%混ぜても泡持ちに大きな影響はありませんでしたが、10%を超えたあたりから顕著に影響が出てくるようです。特に30-40%混ぜたときが一番泡持ちが悪くなったようです。これまで私がホームブリューしたビールは0-5点で泡持ちを点数つけしていて、その中でオーツの使用比率が10%を超えているもの17つでグラフを作ってみました。この表を見るに、オーツの使用比率と泡持ちは負の相関関係があると言えます。
スコット自身によるオーツと泡持ち評価のグラフです。オーツを10%以上使用しているレシピ17個をそれぞれ比較すると、たしかにオーツの使用量と泡持ちは負の関係性があると思われます。10~20%の範囲内でこんな感じの泡持ちなので40%使用したら、どうなっちゃうんでしょうね。
オーツをたくさん使用するビールで泡持ちを良くするための方法は実にたくさんあります。一つはウィートやスペルト小麦のようなタンパク質を豊富に含むモルトを混ぜてみることです。ベースモルトにタンパク質量の多い6-rowを選ぶのもありです。アルコール度数も極端に低いor高いものを避けるのも手です。IBUsを増やすのも泡持ちをよくしてくれます。もっと考えるならコフムロンが少ないタイプのホップを使用してあげると少し泡持ちの改善に繋がります。泡持ちに関してはそれに関するもっと詳しい記事があるので、そちらをご覧ください。
オーツをたくさん使用すると泡持ちが悪くなるようですから、それらを解決する方法を簡単に紹介してくれています。
〈泡持ちを良くする方法例〉
- ウィートモルトやスペルト小麦を混ぜる
- ベースモルトを6-rowにしてみる
- 極端な低アルコール, あるいは高アルコールを避ける
- IBUsを高める
- コフムロンが少ないタイプのホップを使用する
詳しい解説はスコットの別記事を読むかなんかしてくれとのことですね!👐笑
pH and Fermentability
外皮のついたオーツも外皮のついてないオーツもマッシング中の窒素化合物の明確な減少を導くのでマッシュのpHをあげてしまいます。そのため、オーツをたくさん使用する場合はマッシュのpHを調整してあげる必要があります。BothとSchnitzenbaumerの両者の研究でモルト化されてるオーツもしてないオーツでもpHが上昇したことを発見しました。特にオーツを30%混ぜたときにとても顕著に出ました。
オーツからマッシュに供給される窒素化合物が少ないことはFANのところでも触れました。それが今度はマッシング中のpHに作用するのは知りませんでした!(ほんとか?...笑)
もとの論文を読むと、たしかにオーツの使用量が10%までは特に大きな変化はないのですが20%を超えると一気に0.1~0.2くらいpHが上がっています。考察としてはアスパラギン酸などの酸が結合しているペプチドの数が相対的に少なく、それらが乖離してないからpHが上がっているのでは?という感じです。オーツ品種20種くらいで全量オーツモルトの麦汁を比較した別の論文も読んでみると、全体的にpH5.0前後で中には5.5超えるやつとかもあるって感じでした。真偽のほどはわかりませんので、この辺は皆さんとオーツをたくさん使用した麦汁のpHを共有させてください!
〈オーツの情報共有お願い👐〉
・オーツの使用量(全体のモルトに対して何%)
・マッシング中のpH
・水質、乳酸、サワーモルトの有無などあれば是非👐
・仕込み時の肌感なども大歓迎です
メールでもDMでもコメントでもなんでも良いのでいただければ1本の記事にしてみます!
オーツをたくさん使用した麦汁のもう一つの懸念材料は発酵具合です。麦汁の発酵具合は外皮の有無によらずオーツ麦の割合が増えればしっかりと落ち込んでいきます。Kloseの研究では全量オーツ麦芽と全量大麦麦芽で仕込んだビールを比較してみるとオーツの方はアルコール度数が11%も落ちました。これはオーツをたくさん使用するとハイアルコールのビールのようなボディー感を保ちながらセッションスタイルのビールが作れる可能性を示唆してくれていますね。
ただしいつでも発酵具合が低いというわけではありません。別の研究では70%を商業的なオーツ麦粉に変えた場合は糖分収率が上がり、attenuationも通常のビールと同じ程度のところまできました。もちろん70%もオーツ麦粉を使用することは別な問題を引き起こしますがマッシュフィルターや他の解決策があるなら使用できないことはないかもしれません。そして私自身もまだオーツを粉にして使用して発酵具合が良くなるかどうかの実験をしていません。
これまで粘度だったりpHだったりといろんな問題をみてきましたが、ようやく糖分について触ってくれました。発酵具合(Fementability)が高いとドライになるし、低いと残糖が多くなるという認識で良きですが分解して考えてみると麦汁中の糖分構成に影響が出ますよという話ですね。オーツを使用すれば通常の麦汁と比較して発酵されずに残るでんぷん質などが増えるようですね。オーツのでんぷん質はこちらの研究で、米やトウモロコシのでんぷん質と比較して脂質やペプチドが結合している炭水化物の割合も高いようです。モルトにこれらを分解する酵素がないか、酵母にこれを分解する酵素がないので最終的に分解されずにビールに残るようです。これらの残糖が残ると甘いとは言い切れないのですが、ボディー感は強まるのは間違いないです。水溶き片栗粉は飲んでも甘くないですけど、口当たりは滑らかですよね(気持ち悪くなります)。オーツを増やすことによって非発酵性の糖分を増やせれば本来なら8%くらいのビールになるやつも5%くらいまで落とせるかもですね。そんな簡単な問題でもないと思いますが。
オーツを粉にして大量に使用したときには発酵性が上昇したみたいですが、糖分よりも大事な問題が山積みになると思うので無視します。Attenuationは初期糖度がどれくらい発酵に利用されたのかの指標です。
もう一度自分がフレークドオーツを使用したレシピを見返して、オーツの使用量とFGを比較してみました。セゾンやサワーイーストのような"clean ale"用のイーストを使ったレシピを除いて、16個のレシピを比較しました。オーツの使用量とFGには正の相関関係があって、オーツの使用量が増えるとFGも上昇すると見て取れます。
スコットが再度自身のオーツを使ったレシピを見返して、オーツの量とFGを比較してくれました。clean ale用のイーストとは、通常のビールイーストでは利用することのできない糖分も利用でき、ドライでクリーンな味わいになるタイプのイーストです。S. cereviae var. diastaticusとか、Brettanomycesなどなど。これらを使用していないレシピで比較すると、たしかにオーツの使用量が増えると最終比重も増える傾向にあるようでうすね。もちろんマッシング方法や他のモルトバランスの違いもあるでしょうから一概にこう!とは言えませんが、理屈的にうなずける結果なのかなと思います。ボディー感を維持しつつ、アルコール打数を下げたいときの解決策にオーツ入れてみてはどうですか?(ロイターリングで詰まらないようにだけご注意を⚠)
Off Flavors
アセトアルデヒドはビールのアロマでもフレーバーでも見つけることができます。基本的にはあまりよろしくないことで、青りんごやラテックスのような匂いがします。アセトアルデヒドは若いビールにもっと多く存在してますが、通常は発酵が終了すると消えていきます。知覚できる閾値は5-20mg/Lで、6~8mg/L程度なら私にはフルーティーに感じます。それより強いと青りんご様の特徴が強くなっていきます。Schnitzenbaumerの研究ではモルト化してないオーツを40%混ぜるとアセトアルデヒドが11.05mg/Lから7.10mg/Lまで減少したようです(私にはフルーティーだと感じるレベルまで落ちました)。この結果は、別の研究からも整合性が強められています。その研究は、イーストの不飽和脂肪酸(オーツに豊富に含まれているもの)を生成する代謝経路を制御し、不飽和脂肪酸が欠如している状態での発酵はアセトアルデヒド、SO2、DMSが豊富に出たというものです。加えて、Kloseの研究では全量オーツモルトで仕込んだビールは全量大麦麦芽で仕込んだものに比べてアセトアルデヒドが60%も少なかったとのことです。また一つオーツの評価があがってしまいましたね!
お次はオフです。オーツを大量に使用するとオフがどうなるのかも気になりますね。結果としてはアセトアルデヒドが減る説が有力なようです。原因は明確ではないですが、オーツに豊富に含まれる不飽和脂肪酸が関係している可能性がありますね。不飽和脂肪酸が不足している状態ではアセトアルデヒド、SO2、DMSとビールのオフ代表格みたいなやつらが豊富に出るようです。健全な細胞膜を作ってあげることが健康な発酵には不可欠なのは間違いないようです。従来のエアレーションよりも不飽和脂肪酸を添加するほうが効果的かもですね。昔、エアレーションではなくオリーブオイルを添加する研究がありましたね...
SO2もオフの一種です。20ppmを超える濃度だと燃えたマッチのような匂いになります。他にも硫黄臭と言えば、腐った卵、腐った野菜、スカンキー、燃えたゴムなどなど。通常の発酵でもSO2は微量にでます(ラガーイーストならもう少し多く出ます)が、発酵が終わる頃にはほとんど揮発しています。ここでまたオーツのメリットの話に移りましょう。研究で脂質を供給されたイーストは発酵中のSO2が減ったとのことで、最終的に脂質を添加した方は64.3%ものSO2が減少したと報告しています。麦汁に脂質を追加したのではなく、イーストに直接脂質を供給したところを指摘する必要があるかもですがどちらにせよ脂質がイーストの硫黄臭を減らしてくれる可能性はありそうです。
アセトアルデヒドの次は、SO2です。腐った卵の匂いとして代表的で超微量でも感じ取れると有名なやつですね。低濃度でもあまり許容される例はなく(聞いたことない)、長いラガーリングや活発な一次発酵を通じて揮発していくのが通常です。ラガーイーストはエールイーストよりもSO2を豊富に出すのでラガーリングも長めにとりがちですね。さて、オーツがもとらす脂質はSO2にも効果があるようです。健全な細胞膜が健全な発酵を促すので、そもそもSO2の発生量が少ないし、発酵も活発になるから揮発しやすいとかもありそうですね。オーツっていうか脂質、神じゃない?笑
アセトアルデヒドに関しては別な記事でもまとめてますので、興味がある方は以下からどうぞ👐
Beer Stability
オーツの別の利点はビールの安定性を高めることです。TaylorとHumphreyの研究で、オーツで作ったビールに香りの安定性に一切の欠如が見つけられなかったようです(同一のビールを最大12ヶ月まで瓶で保管して比較)。Schnitzenbaumerの研究に戻ってみると、オーツを30-40%混ぜたビールには経年劣化をする成分が明らかに減っていましたよね。彼らは熱劣化の度合いも経年劣化同様に大幅に減少することも示しました。高いものでは79-83%まで減少したものもありました。Kloseの研究では、全量オーツモルトのビールは全量大麦モルトのものより熱劣化、酸化劣化、経年劣化の全てにおいて少ないレベルだったことを示しました。繰り返しになりますが、オーツの割合を増やせば劣化成分が減るということです!
ポリフェノールはビールの安定性にネガティブな影響を与える可能性があります。特にポリフェノールはフリーラジカル反応を促進し、ビールの劣化を早めてしまいます。ある研究でオーツを20%以上混ぜると麦汁中のポリフェノールがはっきりと減少したことが示されました。これはもう熟成されるタイプのビール(サワーとかバーレイワインとか)を作るときにオーツの重量を増やす実験をすることもすごい意義深そうです。
最後はStability/安定性です。時間とともに色が悪くなったりだとか、風味が悪くなったりとか、泡持ちが悪くなったとか。そういう変化が起きやすいのかどうか、という指標です。オーツを使用するとStabilityが増す可能性があるようです。まずはTaylorとHumphreyの研究では最大12ヶ月保持してもオーツで作ったビールには香りの変化はなかったようですから、香りの安定性は◎。次にSchnitzenbaumerの研究ですが、劣化の原因となる物質が明らかに減っていた、というのはビール中に残った脂質の話でしょうね。劣化臭の代表といえばT2N(Trans-2-Nonenal)という脂質の酸化による古紙っぽい匂いです。それらの元となる脂質はオーツを使うと発酵初期は多いけど、最終的にはめっちゃ少なくなってるよという研究でしたね。脂質の少ないビールはT2Nの心配も少ないです。加えて、熱劣化にも強いようですのでオーツを豊富に使用したビールに関しては常温保管でも可とかあるかもですね。そしてKloseの研究では100%オーツモルトの場合は熱劣化、酸化劣化、経年劣化すべてにおいて優秀だったそうですから、長期熟成系のビールにはオーツを使うっていうのが一つの常識にまでなるかもですね。もちろん長期熟成による"良い劣化"もあるはずですから、作りたい味わいの方向性などと照らし合わせる必要がありますね。
最後はポリフェノールについてです。ポリフェノールは抗酸化作用があって酸化防止に役立ちそうなんですが、フリーラジカル反応が促進されてビールの劣化を早めてしまうようです。色々調べたんだけど、あんまりピンときてないので説明できないのですが麦汁のボイリング段階までは抗酸化作用が機能してるっぽいんですけど熟成期間に入るとポリフェノールが分解されてきて、その分解されたやつらがフリーラジカル反応を促進するっぽいんだけど超自信ないのであてにしないでください汗汗。でもオーツを増やすと麦汁内のポリフェノール量が減って、渋みを抑えてくれる役割は果たしてくれそうです。ポリフェノールと劣化の関係は化学のレベルがグン!って上がってお手上げです、詳しい方是非教えて下さい。
Final Thoughts
まとめの再掲です!(見方変わったりしますでしょうか?笑)
- オーツから滑らかな口当たりを期待するなら使用量を全体の18%まで上げたほうが良い可能性があります。
- オーツを大量に使用した麦汁はβグルカンによって粘度が高まっています。それの対処法としてはマッシュフィルター、粘度の低いベースモルト(6-rowなど)を使う、酵素を直接添加する、米の籾殻を入れる、低温のレストを挟む、などです。
- 生のオーツを挽いて使用するとき、マッシング温度が高いならシリアルマッシュをする必要はありません。私は生のオーツを挽き割りにしたものを40%使用して、64%のマッシング効率を2時間かけて得ました(オーツを粉にして使用すればもっと収率は上がる可能性があります)。
- オーツを大量に使用したビールはエステル生成が制限されてしまう可能性があるけど、まだはっきりとは分からない
- モルト化されてないオーツをスターターの麦汁用に使用するのはイーストの健康状態を改善するのに役立つ可能性があります、特に何世代にも渡って使用したイーストにおいては効果が高そうです。
- オーツを大量に使用したビールは泡持ちが悪くなる可能性があります。
- 100%大麦麦芽のビールに比べてオーツを使用したビールは発酵具合が落ちるでしょう。オーツの使用割合が高まるほど、FGも上昇すると予想できます。
- オーツを大量に使用したビールは一般的なオフフレーバーを減らしてくれる可能性を秘めていて、同様にビールの安定性向上にも期待が持てます。
お疲れさまでした!!
今回のオーツに関しての話はオーツというよりも脂質(特に不飽和脂肪酸)がもたらす役割に近いのかな?って気もしますが、ポリフェノールの話だったり、不飽和脂肪酸に限らずとも有用な話もたくさんありました!スコット自身もまだエステルとオーツの関係性については実験してみないとわからないということでしたので、今後の研究が非常に楽しみであります、、、!
口当たりに関しての話も非常に意義深いですよね。あ~やっぱり醸造って本当にまだまだ知らないことが多くて、なんて魅力的な学問/体験なんだろうなって毎日想うばかりです。わからないことや、疑問に思ったこと、翻訳の仕方が間違っているなどあればDMでもメールでもコメントでもどしどし教えてくださると幸いです👐
最後にスコットの記事に乗っていた参考文献をこちらでも貼っておきますね!👐
参考文献
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