【ミード】添加物について
こんにちは!谷澤です。
今日からANTELOPEでミード教室っていうプロジェクトをやってみようと思って。ミードの醸造学を発信するようなページ。せっかくだし、自分のブログでも触れておこうと思って。僕のブログはもう少し深いところまで行ってみようかなと思っていますので、なんとなく差別化できたらいいなと思っています。
今日のテーマは、「ミードと添加物の関係性について」です。
添加物というより、本質的には原材料と水と酵母以外の「何か」を足すことについてです。
醸造と「何か」の関係性
そもそもお酒と添加物の関係性はとても古く、古代ローマ時代まで遡るとも言われています。賛否は置いておくとして、みなさんが最初に想像するお酒に使われる添加物といえばなんでしょうか?
「亜硫酸ナトリウム」
と聞けば大抵の人がワインに入っているものという認識があると思います。酸化防止あるいは、微生物の育成を抑える働きを持つものでワインの品質向上に大きく貢献してきた化学成分です。また、ビールの世界では酵素剤や消泡剤といった添加物を使うことも当たり前の世界になってきています。
もちろん醸造という面で偉大なメリットがあるものですが、体に合う合わない可能性をはらむという問題があるのも一つの事実ですから、あえて使わずに作るという考え方もあります。これは造り手側の哲学と、飲み手側の哲学と両方ありますのでどちらが正しいもありません。
しいて言うなら、自分の好きなものを好きなように飲む、これが正解のような気もします。すこし脱線しましたが、ミードにもこの亜硫酸ナトリウムが使用されることがあります。採用率が高いのは、ピロ亜硫酸カリウムという薬品ですが効能は似たようなものです。これらの微生物の育成を抑えるものだったり、他にも様々なケミカルを必要とするミード醸造についてゆっくり解説していきたいと思います。
ミードで採用率の高いもの
発酵補助剤として使用するもの。
蜂蜜には麦や米、ブドウやリンゴほど豊富な栄養素を持っていません。健全な発酵と呼べるレベルにするためには蜂蜜以外のアイテムが必要となります。
- DAP
- Fermaid O
- Fermaid K
- Go Ferm
以下は品質保持のために使用するものです。ミードは他の醸造酒と圧倒的に異なる点として、やはり残糖の多さです。アルコール度数が高く、イーストも栄養不足でへたりやすい、という環境が整っていて残糖(しかも単糖)があり、一部の酵母が活性だった場合には瓶詰め後に大惨事を引き起こしません。大惨事を何度も起こしている僕が偉そうにいうのもなんですが、人の失敗はありがたく踏むものなので、これからミードを作る人は参考にしてみてください。
- ピロ亜硫酸カリウム
- Pectic Enzyme
多いのですが、まずは発酵補助剤について見ていきましょう。
DAP
アンモニアを効率よく酵母に補給できる薬品です。そもそも発酵には酵母の働きが必要不可欠です。そしてその酵母が発酵を行うために必要とする栄養素は、アンモニア、アルギニン、尿素の3つとされています。このうちアンモニアと尿素は似たような部分があり、これらをDAPで補給することが可能です。もともとお米や麦には豊富な栄養素があるので、これらの薬品を必要とせずとも発酵が順調に進みますが蜂蜜には糖分以外の栄養素がほぼありません。ですので、これらを足してあげながら効率よく発酵をすすめることができます。
DAPは安価で効率よく発酵を進めることができますが、効果が高すぎて発酵温度が高くなりマニュキュアのような香りが出やすくなるという欠点もあります。また、アルコール度数10%以上での添加、あるいは高温下での使用はエチルカルバメートを生成するリスクが高まります。
エチルカルバメートは発がん性のリスクを高める可能性がある(まだ実証はされていません)とされています。エチルカルバメートは欧州ではアルコールに含有される上限の量が決まっていたりします。リスクがまったくないとは考えられていない証拠で、醸造家も責任を持って対処すべき数字ではあると思います。
適切な使用を行う限り、酵母が効率よくDAPを消化するのでリスクはほぼありません。
では適切な使用ではないのはどのような場合でしょうか?
①アルコール度数9%以上でのDAPの投入:アルコール度数が高い状態ではDAPの利用率が落ちることが報告されているようで、これらはイーストのアルコール耐性ともよく相談するべき内容です。常に9%を参考にするのではなく、US05のような低アルコール耐性しかない酵母の場合はalc. 7%の場合でもDAPの使用は懸念したほうがいいと個人的には思います。
②火入れを行う場合:尿素とエタノールによるエチルカルバメートの生成は熱により生成速度が高まるとされています。ミードを亜硫酸などの薬品で発酵を止めるのではなく、熱処理を採用する場合は発酵後期にDAPを入れることは一つの懸念事項として頭にいれておくといいと思います。厳密にDAPの消費量を各ブルワリーが負うのは正直無理なので、この辺は日頃の感覚を大切にし、注意深く醸造に望むべきとしか言いようがありません。
Fermaid O
Lallemandという酵母製造メーカーから出ているオーガニックな発酵補助剤です。原材料は未活性酵母を加工したものです。酵母にはとても豊富な栄養素が多く、アマチュアの間ではパン用の乾燥酵母を煮込んだ液体を発酵補助剤として利用することが一般的です。ミード以外でもセルツァーの醸造でよく採用される有名なテクニックですね。
Boiled Bread Yeast、略してBBYと呼ばれていることは知りませんでした。ただ、もちろんパン用のイーストが安価なだけで他の酵母でも同様の効果は得られます。
Fermaid Oはそれをより効率的で、手軽に行える栄養剤です。
窒素源が豊富でDAPより穏やかで健やかなイーストの成長を促進します。
Fermaid K
Fermaid OにDAPを配合した栄養剤。
その他にもアルファアミノ窒素、硫酸マグネシウム、チアミン、葉酸、ナイアシン、ビオチン、パントテン酸カルシウムを含みます。これらは酵母の細胞壁を健康な状態にするのに役立ちます。
窒素源という観点で見れば、Fermaid Oに軍配があがりますが総合力という点ではこちらのほうが勝ります。しかし、現代の培養酵母も非常に性能がたかく、Kのみを採用することはあまり聞きません。
Fermaid OもKもどちらもどれくらい使用するのかはTOSNAというサイトで計算するのが近道で、必要量の25%ずつをピッチ後の24, 48, 72時間後に投入します。最後の25%は、発酵させる糖分量が1/3になった場合か、7日間後のどちらか早く来たタイミングで使用します。
ちなみに僕たちは発酵スピードを上げるほど在庫管理に逼迫されていないので、どの栄養剤も使わずにオーガニックに発酵を促しています。スタックしそうな瞬間もないことはないですが、発酵中の薬品ピッチをするのがマストだとも思っていません。
Go Ferm
こちらは成分が不明ですが、酵母を投入する前に使う栄養剤です。お酒を作るにはジュースに酵母をいれて、発酵を行ってもらうわけです。そのジュースに入れるまえの段階で酵母を水でふやかして、準備運動させてあげてから投入することがあります。これを加水活性と呼びます。
そのときに水に混ぜる栄養剤がこのGo Fermで、発酵が起きるまでの時間が短くなったり、勢いのある発酵になるなどミード作りにおいては欠かせない添加物の一つです。
これら4つの栄養剤がメインです。僕たちはGo Fermのみを現在採用しており、その他の栄養剤はフルーツから取るか、麦から取るか、あるいは澱引きした酵母を煮沸してFermaid Oの代用としたりすることもあります。Go Fermがないと冬場は発酵熱が出なすぎて液温がどんどん下がり、発酵が止まってしまいます。酒質も良いなと感じるので、夏でも採用はし続けると思います。
つぎは品質保持の添加物についてです。
ピロ亜硫酸カリウム/Potassium Metabisulfite
プロにはPotassium Metabisulfiteと言ったほうが分かりやすい薬品です。効能としては微生物の育成を抑える働きがあるのと、酵母の活動を止めて瓶詰め後の再発酵を防止する役割があります。ミードの醸造を勉強すると最初に「なんだこれ?」と調べる物質リストNo.1です。それくらいみなさん必須で使用しています。むしろ使用しないなんて怖すぎてありえない、って感じだと思います。
ピロ亜硫酸カリウムは酵母や菌の増殖する活動を抑制する効果があり、残糖と酵母が残った状態のミードが瓶内で再発酵して爆発する事故を防止してくれます。亜硫酸ナトリウム同様にお酒には350ppmまでの利用が日本で許可されています。亜硫酸ナトリウムよりもこちらのほうが採用率が高いのは、効果が高いのだろうなと思います。特に根拠はないです。
ミードは発酵が終わりきってないところに、このピロ亜硫酸カリウムなどをいれて発酵を止めることがあります。発酵が見た目上完全に終わっていても樽内での熟成時には雑菌防止のために使用することも多くあります。経験がものを言う世界で、僕たちは失敗が怖いので熱処理を施して再発酵を防いでいます。添加物は使うのが「当然」というのがミードの世界です。そういう文化ですし、残糖を残し蜂蜜感を演出する場面があることが多いのも事実で、そういった作りの場合には安全性のために薬品を使うことがよくあります。
Pectic Enzyme
フルーツに含まれるペクチンを分解する酵素剤です。ビールの世界でも一般的に使われます。ペクチンは液体を濁らせてしまう効果があり、ペクチンの物質も一緒に液体に舞わせてしまう可能性があります。透き通った液体は美味しい液体と考える作り手が多いように、ミードも個人的には同じレシピなら透き通ってるほうが美味しいと考えています。ただ、これは僕たちだけかもですが、透き通ってるミードは特殊なオフを出すときがあって、それがなんなのかずっとわかっていません。
ペクチンが味わいにもたらす効果がどれほどのものかはわかっていませんが、濁りが少ないほうが時間とともに劣化するスピードが遅いとされています。体感的にもほぼ間違っていない説だと思います。海外のミーダリーでも積極的に採用していますが、話を聞いたところ、濁りを取り除く以外の意味はなく味わいに変化を感じたことはないそうです。芸術の世界?
ただ、この濁りがペクチンによる濁りなのか、他のミスによる濁りなのかの判定がつかないですから。ペクチンを分解する酵素剤をいれて、ペクチンによる濁りを取り除きたい造り手も多いはずです。
まとめ
今回はミードに使われる添加物についてかなり深いところまで説明しました!
添加物と聞くと、NO!!となる人も多いと思います。実際、作っている人たちでもどこまで理解して「無添加」を謳っているのか怪しいなと思うときもあります。
ミードは添加物を使う理由がたくさんあるお酒です。
(他のお酒はこんなに発酵補助剤いらない)
添加物の有る無しは醸造家の哲学ですから、みなさんも疑問に思ったことがあればいつでも質問してみましょう。僕たちもいつでも質問大歓迎です👏
それではまた!
COMMENTS
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こんにちは。いつもブログを拝見させてもらっています!
亜硫酸について、日本でミードで使用できるのは30ppmまでだったかと思いますが、
静菌作用を期待するには十分な量ではないように感じます。
蜂蜜はpHも低いですし、適切な量を使用できれば随分効果が見込めるお酒だと思うのですが、、、
ありがとうございます!確かに表記の仕方が間違っていますね。訂正しておきます!
使用料としてはもっと多くてよくて、最終残存量が300ppm以下であればいいに変更しておきますね!
確かに30ppmだと酵母が排出する量とも近いのでほぼ効果は期待できないですね。
蜂蜜はpH高くて、ミードも一般的には3.8~4.1くらいでまとまりますね。
適切な量〉それはもちろんそのとおりですね!海外でも使うのが基本ですね!ただ、正直使わなくても全然作れます!