【Super”Dry”】味わいの変化を簡単に考えてみる
こんにちは!やざわです!
今年の抱負は敬愛する「将棋youtuberのてっちゃんと一局指す」に決めたところです。将棋も醸造も邁進していきます。
さて、先日アサヒのSuper Dry(スーパードライ)がフルリニューアルしますよというニュースを見ました。
同商品の特徴である「辛口」のコンセプトはそのままに、キレのよさを維持しながら「飲みごたえ」を向上させた。煮沸の終了直前にホップを投入するレイトホッピング製法による「ほのかなホップの香り」を新たに付与するとともに、発酵開始時の酸素量を制御し酵母の働きを調整することで、発酵由来のビールらしい香りを向上させた。
https://gourmet.watch.impress.co.jp/docs/news/1378740.html
大手のマーケティングや表現方法がどうだとかには全く興味がないので、あくまで醸造学的に今回の改変でどんな味わいの変化が起きそうなのかを簡単に紐解いてみようかと思います。
スーパードライを振り返ってみる
スーパードライはアサヒが発売するビールで、1987年3月に発売されたそうです。やざわは1994年生まれなので、7個上ですか。でも早生まれのようなので学年は6個上でしょうか。
アサヒのHPを参考に原料を見てみます。
麦芽(外国製造又は国内製造(5%未満))、ホップ、米、コーン、スターチ
https://www.asahibeer.co.jp/products/beer/superdry/
原材料表記は、使用した重量順に記載するルールがありますので麦芽が一番多く使われているビールであることがわかります。クラフトビールの世界では麦芽意でなく小麦やオーツ、あるいはフルーツが一番多いレシピもあります。ただ、 スーパードライはいわゆる"生ビール"なので麦芽が中心のレシピのようです。面白いのは、2番目の原材料がホップであることです。Hazy IPAなどのホップを超大量に使用したスタイルは1Lのビールに20gほどのホップを使用することも稀じゃないですが、 スーパードライのようなピルスナー系のスタイルではどれくらいの量のホップを使ってるでしょうか?
スーパードライのホップ使用量を予想してみる
ビールにどれくらいのホップを使用しているのかを予想するのは非常にややこしいのですが、IBUという苦味の単位を元に予測してみたいと思います。IBUというのはInternational Bitterness Unitsの略で、ビールがどれくらい苦いのかを可視化したものです(賛否はあるんだけども)。IBUは使用しているホップのα酸量と相関しています。他にも色々と変数がありますが、簡単にさらってホップ量を仮定してみましょう。IBUの計算方法も色んなのがあるけど、ややこしいのでBrewer's Friendsで紹介してるやつでやりましょう!
IBU
まずはIBUの予測です。色んなサイトを見ると大手のビールはIBU20~25と書いてあるものが多いですが、どこ情報か分かりません。が、よくあるピルスナースタイルはIBU20~35くらいですから、高めにIBU35で仮定してみます。ピルスナーウルケルはIBU35~40くらいですね。
使用してるホップとα酸量(%)
ピルスナーと言えば、テトナンガーやハラタウ、ザーツなどのホップが有名ですね。白い花のような軽い感じで、ちょっと石鹸みたいなニュアンスもあるイメージです。耳馴染みのよいザーツを使っていると仮定しましょう。ザーツのα酸量は平均的に3%くらいですから、3%と仮定します。もしほかのホップのことも知りたかったら、hopslistというサイトが便利なのでどうぞ👐
煮沸時間
ホップ量の推定にもう一つ重要な変数があって、それが煮沸時間です。煮沸時間はホップのα酸が苦味成分にどの程度変化するかに影響します。煮込めば煮込むほど苦くなる(IBUが大きくなる)という認識でokです。ピルスナーのレシピは煮沸時間が60~120分と色々ありますが、ピルスナーウルケルは120分ボイルだと言われているので120分の煮沸時間と仮定します。ちなみにクラフトビールの世界ではどんどん煮沸時間が短くなる方向に進んでる印象ですね。エコだからかな?
その他の変数
初期比重: スーパードライのアルコール度数と最終比重から予測できます。 スーパードライのアルコール度数が5%で、糖質が30g/Lということから最終比重は約1.011~12くらいでしょう。アルコール度数は初期比重と最終比重の差から概算できまして、初期比重(OG)は1.050くらいでしょうか。
ボイル前とボイル後の麦汁量:煮沸によってどれだけ蒸発したかの数値ですが、どうして重要なのかというと煮沸時の比重を出したいからです。初期比重1.050は煮沸後の数字ですから、煮沸前はもっと小さい値なのですね(水分量が減って濃くなったと思ってもらえたら)。煮沸時間が120分だと体積は2/3くらいになります。煮沸時が30Lで、煮沸後が20Lになっているという設定で考えてもらえたらよきかと。
他の変数はガチで細かい設定になるので無視でいきましょう!そんな感じで計算した結果が下の画像のようになります!
Gramと書いてあるのがホップ量です。Brewer's Friendsの計算方法によれば今回の仕込み方法では「20Lのビールに対して72.5gのホップ」を使用するとIBU=35くらいになるということです。これは1Lのビールに約3.6gのホップを使用していそうということになります。アルコール度数5%のビールを作るには約150g/Lの麦芽を使用するので、麦芽に対して2%ほどの重量のホップを使ってそうですね。これは使うホップや煮沸時間が異なればもちろん違う数値になりますね。ピルスナーウルケルが1Lに3.5gのホップを使用するという話を聞くと、まあ遠くない数字かな?という感じです。 スーパードライはウルケルよりも苦味が少ないイメージですから実際にはもう少し少ないかもですね。みなさんの予想も是非聞かせてください👐
ホップよりも少ない使用量の米・コーン・スターチの意義
さて、ホップの使用量は1Lあたりに約3.6gほどであると仮定しました。これは多めに見積もってこんなところですから実際には2~4g/Lくらいの範囲に入ってるのかと思います。原材料表記を再度確認してみます。
麦芽(外国製造又は国内製造(5%未満))、ホップ、米、コーン、スターチ
https://www.asahibeer.co.jp/products/beer/superdry/
ホップよりも少ない使用量に米・コーン・スターチが含まれています。それぞれどのような意義が醸造学にあるのかを簡単に説明します。
米:麦芽よりも主張の少ないニュートラルな味わいはビールを良い意味で"水っぽくする"。また、タンパク質が麦芽の2/3程度なのでビールからボディーを削ることも多少はできる。脂質は麦芽よりも微量に多いけども、コーンなどよりは少ないのでビールからモルト感を減らしたいときの選択肢に選ばれることも多い。ただし、一度火を通してからじゃないと糖化しないのが面倒(厳密に言うと糊化温度が麦芽よりも高いから面倒)
コーン:お米同様にタンパク質が少ないこと、味わい的にニュートラルなところがモルト感を減らしたいときにちょうどよい。お米よりも使いやすい。元々はアメリカで六条大麦がビールで使用されていたときに、二条大麦より六条大麦のタンパク質量をコーンで緩和していたという説もある。タンパク質が多いと濁ったりしやすく(hazyIPAが濁る原因でもある)、クリアな見た目が正義の時代には使いづらかったのでしょう。
スターチ:デンプンそのもの。お米やコーンに比べて余計なものが一切なく、クリアな味わいを作るにはもってこい。ただ、デンプン使うくらいなら砂糖使えば良いとは思う。一応でんぷんの10~15%くらいは限界デキストリンとして発酵されずにビールに残るけど、それを残したいなら最初からデキストリンを入れてしまえってところがほとんどでしょう。
上記3つの原材料に共通することは、「ビールのボディーを薄くする、麦芽の風味を薄くする」ということになります。麦芽は高タンパクでボディーを作りやすかったり、麦特有の風味も特徴的です。それらを薄めたいときに使用する原材料と考えてもよきだと思います。 スーパードライはお米やコーンを使用しているから辛口なんだという意見もよく聞きませんでしょうか。でも、ホップよりも少ない量の使用で果たして味わいにどこまで大きな影響があるのでしょうか。
レシピ的な話
クラフトビールではお米などを使うとき実際どれくらい使用するのでしょうか。色々と調べてみると、Rice Lagerというスタイルならモルト7:お米3くらいのレシピが多かったです。コーンの場合は、Brew Your Ownで紹介されていたレシピはモルト8:コーン1くらいの割合でした。いずれにしてもモルトに対して10%以上の比率で混ぜて使っています。
さきほどホップはモルト量に対して2%ほどであると予想できまして、それよりも米・コーン・スターチは更に少ない量です。モルトに対して1%を切るような量での使用だとすると、味わいに与える影響はかなり薄く他社よりも明らかにすっきりしてる!みたいな味わいにはならないんじゃないかな~という気持ちです。
というわけで、「米とかコーンとか使ってるから スーパードライは辛口」という昔の自分の主張はややピントがずれてそうで、すっきりさを演出するには別な理由がありそうです。作り方とか酵母の選択などで味わいも大きく変わりますから、そっちのほうが重要なんでしょうね。さて、次はいよいよ本題の製法の変化を考察してみたいと思います!
製法の変化1:レイトホッピング
レイトホッピングとは、Late Hoppingのことです。ビールは麦芽のお粥を作り、水分のみを分離し、その水分を煮沸する工程を挟むのが一般的です。煮沸時にはホップを投入することが多く、その中心的な理由はホップから苦味成分を抽出することと香り付けです。それ以外にも余分なタンパク質の沈殿、雑菌汚染リスクの低下などが挙げられます。ホップは煮込めば煮込むほどIBUが上昇しますので、苦味を付けたい場合には煮沸開始時期に投入して煮沸時間を長く取るのが普通です。
そして、煮沸開始時と比較して"Late(遅れた)"なタイミングでホップをホップを投入することをレイトホッピングと呼びます。煮沸終了15分前から5分前までのものが多いイメージですが、規定はありません。その他にも煮沸を終えてから投入するもの(Flameout)、ワールプール中に投入するもの(WH)、発酵タンクに投入するもの(Dry Hop)など色んな方法があります。
味わいに起こりうる変化
もし仮にリニューアル前とホップの使用量が同じものだと仮定して、一部をレイトホッピングに回すとどうなるでしょうか。
煮沸の終了直前にホップを投入するレイトホッピング製法による「ほのかなホップの香り」を新たに付与する
【起こるうる変化】
苦味成分の低下
いわゆるホッピーな匂いの増加
煮沸時間が一部短くなることで全体のIBUが低下します。IBUを一定に保つレシピ設計の場合は自ずとホップ使用量が増えます。もしも使用するホップ量が同じだった場合は今回のレイトホッピングに回されたホップ分の苦味が減る可能性があります。どうでしょうか。
香り成分はよく「煮沸すれば揮発してしますので、煮込めば煮込むほどホッピーな匂いは薄れる」という認識をされているように思えます。間違ってはいないのですが、全ての香り成分が煮込むことで消えてしまうのかというとそうではありません。煮込むことで性質が変化し、水溶性になる成分もあったりするみたいですから。ただし、全体的にIPAなどで強く感じる「ホッピー」な匂いは熱によって飛んでしまう場合が多いのでレイトホッピングによって、ホップの香りが追加されるのは大いにありえると思います。ただし、使用するホップにそもそもホッピーな成分が多く含まれているかどうかも重要で、ザーツなどのホップはいわゆるホッピーな成分も含んでいるのですが量がとても少ないんですね。なので大量に使えばホッピーになる可能性はありますが、ちょこっとレイトホッピングに回すだけだとなんとも言えません。
製法の変化2:発酵開始時の酸素量の制御
発酵初期の酸素量を制御したことにより発酵らしい匂いが増えましたとのこと。ビールって酸素大敵じゃないの?って思う方もたくさんいると思いますのでまずは酸素の役割について簡単に踏み込んでみます。
酸素のデメリット
酸素がビールにもたらす最大のデメリットは酸化です。定義的には電子を失う反応のことですが、現実世界において意味が全く分かりません。シンプルに考えると「物質に変化を与える」ということでしょうか。有機物(炭水化物や酸、脂質など)の酸化には酸素が必要で、これらは酸化すると別の物質に変化します。この反応は温度や光の有無によっても大きく影響し、ホップの成分などは紫外線のエネルギーによって酸化してしまうことも分かっています。要はもともと良いものだったのが、酸素があって酸化してしまうことで別のものに変わってしまう。その変わったものが大体嫌な印象のものが多いので、なるべく酸化しないほうが良いよね、って話です。
酸素のメリット
一見するとなるべくビールには酸素がないほうが良さそうに思えます。ただ、これまでの醸造では特定の期間においてのみ酸素が必要とされていました。それが発酵初期です。発酵初期とは麦汁に酵母を入れ始めた段階という認識でokです。どうして発酵初期に酸素が必要なのかというと、酵母の細胞膜を構成するステロールや不飽和脂肪酸を作る活動のために酸素を必要とするからです。丈夫な細胞膜が作れていないイーストは外部からのストレスに負けて破れてしまいます。発酵が遅くなる以外にも、細胞膜から流出した成分でpHが上がったり・・・と色んな影響があります(投げやり)。発酵初期には8ppmの酸素が存在するのが理想的と長い間されてきました。これらの酸素は全て使用されるので発酵中に麦汁に悪影響を与えることは少なく、冷えた麦汁に酸素を溶かしてから酵母を入れることが通例でした。
さて、メリットもあるような発酵初期の酸素量ですが制御したことによって出る影響を考えてみます。
エステル量との関係
1975年の論文で、酸素と窒素のエアレーションを比較して発酵時間やエステル量を比較する実験が行われました。その中で、6種類の酵母が使用されましたがいずれも酵母が添加されてから酸素が麦汁に溶け込む量が多いとエステル量が減っているように思えます。この中で検証されたエステルは、酢酸エチルと酢酸イソアミルでした。パイナップルだとかバナナだとか言われる香りです。
この論文から読み取ろうとすると、酸素の供給はイーストの数が増えるからエステル量が減っているという可能性がありそうです。発酵初期のイーストの量が少ないほどエステル量が多く形成されるのは色んなところで紹介されいているのですが、発酵初期時の酵母量が酸素を制御することによって減って、結果としてエステル量が増加するてきな。
ただ、発酵初期時の酸素量が香気成分に影響するという話は非常にニッチで、色々と漁ってみたんですが1975年のこの論文くらいしか手あたりがありませんでした。今後分かり次第、別の記事で更新しようと思います!今回の スーパードライの「発酵開始時の酸素量を制御し酵母の働きを調整することで、発酵由来のビールらしい香りを向上させた」は、独自の研究によるものかもですね。しらんけど。そもそもビールらしい香りってなんだろね。
まとめ
スーパードライの改良による味わいの変化の予想
- ちょっとくらいはホッピーになりそう
- 苦味ちょっとは減りそう
- 酢酸エチルと酢酸イソアミルちょっとは増えそう
そもそも淡白な味わいのビールですから、製法をリニューアルしたところで味わいに大きな変化が起きるかと言われると微妙かも。レイトホッピングはホップらしい香りが添加されるのはクラフトビールの世界では多くの方が既に実証済みだとは思いますが、発酵開始時の酸素量を制御すると"ビールらしい香り"が増加するというのはスタイルによっては試してみても良いかもですね。例えばラガースタイルだったり、ヴァイツェンなどのいわゆる酵母らしさ満点のスタイルのときにもエアレーションを絞ってみたり、あるいは全くエアレーションをしないという方法も面白いかも知れませんね。Sufはエアレーション非推奨ですが、whitelabは推奨しているので使用している酵母会社に聞いてみてからやるのが一番良いとは思います!
さてさて、ちょっと味が変わるというだけでも楽しみですが、結局2本目から味なんてわからなくっちゃう僕ですが翌々月からリニューアルされるスーパードライを飲むのが非常に楽しみです。ワイワイしたいだけなんですけどね👐みなさんもスーパードライの味わいの変化に気づいたらどしどしコメントください!またね~👐
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