スタック/stuck とは【予防と解決策】

スタック/stuck とは【予防と解決策】

こんにちは!やざわです。

今日は、ビール醸造で発生したらめっちゃ萎えると噂のマッシング中のスタックについて解説していきたいと思います!どういう現象なのかを理解した後に、どうやって予防するのか、または起きたときにどうやって対処するのかまで踏み込めたらなと思います!

では行ってみましょう。

2種類あるスタック/stuck

まず一口にスタックと言っても使われ方には、2種類あります。
発酵中のスタックと、マッシング中のスタックです。そもそも、stuckという言葉が「張り付いてしまって、動かない」みたいなニュアンスを含んでいますから、どちらも何かが止まってしまったという意味です。

発酵中のスタックは、そのまんまで発酵が止まってしまったと言うことです。こちらも大問題ですが、今回は「マッシング中のスタック」に焦点を当てて解説していきます。

マッシング中のスタックは、lautering/麦汁の濾過 が止まってしまったという意味です。コーヒーをハンドドリップしてるときに、コーヒーがフィルターの上に溜まってるだけで落ちてこないみたいな感じです。コーヒーならまた挽けばいいやですが、ビールはマッシングという60分くらいかけて行った糖化作業があるし、その前のモルト計量~ミルもあるから大変な手間がかかっていて、やり直しは絶対に避けたいところです。

スタックの恐ろしさを理解してもらったところで、どうやってそれを予防して、起きてしまったときにはどうしたらいいのか、その後の対応はどうすべきかを考えていきましょう。

なぜスタックするのか

まずは、スタックの原因から考えてみます。

  1. husk(穀皮)の量と細かさ
  2. 麦汁の粘度

大きく分けてしまえば、この2つです。huskが多いグレインベッド(麦層)で、麦汁の粘度も低ければスタックすることはありません。逆にhuskが少なくて、麦汁の粘度も高ければスタックする可能性が大いに上がります。

マッシングする機械の性能によっても異なるでしょうが、よっぽど大きな工場にならない限りその辺は気にしなくていいです。大きな工場だと何を気にするのかというと、マッシングタンのブレードによる先端力とかうんぬんとかでしょうか。

ということで、この2つを解決してしまえば、スタックは防げます。しかし、それぞれにはトレードオフももちろんあります。それも踏まえた上で問題解決にアプローチしてみましょう。

スタック予防:huskの量と細かさ

huskの量が減るときは、もみ殻で足す

huskとは、麦芽などの穀物についている穀皮と呼ばれる皮です。これらが麦汁の濾過層であるグレインベッドに適切な隙間を作り、濾過をスムーズに行ってくれます。このhuskは大麦麦芽ならついていますが、他のモルトや穀物は持っていないこともあります。

huskがないやつ代表:
小麦、ライ麦、オーツ

これらのhulk-less なモルトなどを使用すると、全体のhusk量はもちろん減ります。ですので、これらのモルトバランスが増えたレシピを作るときは、huskを増やしてあげるか別の方法でスタックを防いでやる必要があります。

huskの増やし方:
米のもみ殻をマッシュに投入する(10g/L)

どんな穀物のhuskを投入してもいいのですが、huskにはポリフェノールが含まれていますので、余計に入れた場合は最終的な渋味を演出することになりえます。米のもみ殻はポリフェノールが比較的少ない(らしい)ので、採用されることが多いです。渋味が気になる場合は、マッシングの最期のステップで投入してあげれば◎だと思います!pHの調整、ウォートとのコンタクト時間も短いので、ポリフェノールの抽出量は少ないはずです。

投入量は大体1Lの仕上がりに10gの籾がらと言われています。これを基準に調整してみて下さい。
もみ殻は近くの精米機を持っているところに相談しに行けば、たくさんくれると思います。注意すべきは野外においてある奴の場合は石やその他のゴミも大量に混ざっている可能性があることです。綺麗なもみ殻を用意しておきましょう。

huskを大きく残す方法

モルトを挽き目の細かいミルにかけると、huskも細かくなってしまう可能性があります。その場合、グレインベッドに適切な隙間が出来ずに、いくらhuskがあってもスタックの原因となります。

huskを細かくしない方法:
挽き目を粗くする
ローラーの数が多いミルにする
wet milling する

  • 挽き目を粗くする:ミルの挽き目を気持ち粗くしてみては、出てきたgrist(挽いたモルト)を確認していきましょう。gristの荒さと取れる糖分量は相関性がありますが、現代の質の良いモルトならそこまで気にならないと思います。

  • ローラーの多いミルにする:良いミルは良いgristを作る、ということですね。huskはそのままに、中のデンプンは細かくするために設計されたミルを使用すれば、収率を下げずにhuskを傷つけずに残せます。

  • wet millingする:wet millig とは、温水でモルトを20分程度浸し、huskの水分量を15%ほどにしてから挽くテクニック。粉塵が出ないことや、huskが綺麗に残ることから現代のテクニックとしてかなり見直されています。興味があれば、採用してみてはいかがでしょうか◎
    詳細

gristの状態を何度も見るのは手間ですが、とても重要なプロセスです。ちょっと濾過に時間がかかりすぎてるな、と感じた場合は挽き目を変えるか、ミルを変えるか、ミルの方法を変えるかしてみて下さい◎

スタック予防:麦汁の粘度


そもそも粘度って?

という疑問はいつでもありますが、これは難しい質問なので割愛します。わかりません。ただ、液体の粘度は温度が高くなると小さくなり、低くなると大きくなることが分かっています。

粘度の要因:β-glucan

一番よく出てくるスタックの原因は、このβ-glucan。麦をモルトにする一番の理由は、こいつを溶かすことと言っても過言ではありません。

そもそもβ-glucanとは何かというと、大麦のデンプン質を覆っている壁です。グルコースが結合しているので、でんぷんと似たようなものですが、結合の仕方が特殊なのでアミラーゼでは分解することが出来ません。β-glucanaseという酵素が分解してくるのですが、この酵素は失活温度が低く、製麦の乾燥工程で大概が失活します。つまり、マッシング中にβ-glucanを溶かすことは普通のマッシングでは難しいです。

昔のモルトは、このβ-glucanが豊富に残ったまま(溶けの悪い麦芽)で、マッシュに多く残ることが多かったようです。このβ-glucanは、粘度が高く、ゲル状になります。フィルターの上のコーヒーがフルーチェみたいになってしまったと思うと、これ以上濾過が進むのは不可能であるのは容易に想像できます。

β-glucanを減らす方法
品質の良いモルトを使う
*低温のステップを踏む

  •  品質の良いモルトを使う:現代のモルトは品質が良いので、β-glucanは良く溶けていることが多いです。ですが、気になる場合はより高級なベースモルトに変更してもいいかもしれません。また、中には、あえて製麦工程で酵素を早めに失活させるモルトもあります。これはタンパク質などを多めに残し、泡持ちを良くしたりする狙いがあるモルトです。もしそういったモルトを豊富に使っているなら、減らしてもいいかもしれません。Chit malt などは代表例ですね。

  • *低温のステップを踏む45℃付近のステップを取ると、β-glucanase が作用し、β-glucanが溶けるということは考えられます。しかし、先ほども言ったように大体のb-glucanaseは麦芽の乾燥工程で失活することが多いです。淡色のモルトならば、いくらか残っているかもしれませんが、どこまで有益に働くか保証できません。

    ただ、β-glucanaseはpentosanesという多糖類も分解し、フェルラ酸を遊離させることもできます。フェルラ酸は、4-VGというクローブ香のもとになる成分の前駆体なので、粘度も下げたいし、4-VGも豊富にさせたいスタイルの場合は積極的に挟んでもいいと思います(効果は保証できません)。

粘度の要因:タンパク質

大きなタンパク質は、ウォートの粘度を上げる原因になります。そのため、タンパク質が豊富な穀物を多く使うとスタックする可能性が上がります。特に、huskがない小麦やライ麦、オーツなどを大量に使用したマッシングは要注意です。

スタックが怖い場合は、プロテアーゼを働かせるステップを踏むのが良いと思います!ライ麦でスタックするケースは、特にタンパク質が豊富になりすぎるケースが多いので、気をつけて下さい。

プロテインレスト50℃、20分

温度にはシビアになりつつ、時間はどれくらい分解したいかによって調整してみて下さい。これらのタンパク質は最終的にビールにとろっとした口当たりを与えることになりますので、味わいに影響を与えることも多いからです。特にhazy IPAなどは代表的な例です。

Hazy IPA についての記事は☟

NE IPA/Hazy IPA の特徴3つ【解説】

粘度の要因:マッシアウトの有無

マッシングは糖化工程が終われば、あとは濾過に移るのですが、その間にマッシュアウトという工程を挟むか挟まない問題があります。マッシュアウトとは、マッシングの最期に78℃くらいで10分ほど放置する作業

マッシュアウトの元々の目的は、全ての酵素を失活させること。そうすることで、濾過中にウォートの糖分構成が変わることを防ぎます。ただ、マッシュアウトの効果はそれだけではありません。麦汁の温度を上げることで、粘度は下がりますから濾過がスムーズになります

マッシュアウトをやらない作り方も主流になっているので、もしマッシュアウトしないで濾過に困っている場合はマッシュアウトを挟んでみても良いかもしれません!

スタック予防:テクニカルな話

ここまで理論的なところに基づいて、スタックの予防に関してまとめてきました。しかし、実際には現場での仕事は機械との呼吸も有り、なかなか上手くいきません。特に、濾過の工程は僕もインターン中に何度も苦労しました。ということで、実践的な話もここではまとめてみます。

  1. 濾過前にきちんと麦層形成する時間を取る
    糖化が終了したら、20~30分ほど静置させて、きちんと麦層を作りましょう。焦っても麦層は出来ません。麦層は掻き出し棒などで平らにしてあげると収率があがるとプロから教わりました。

  2. 濾過のスピードは上げすぎない
    海外のhomebrewでは、0.5~1L/分 が一つの基準のようですが、これはブリューハウスの大きさによっても変わるので、あくまで参考までに。濾過の最初だけ、基準スピードの3倍ほどの強さで引いて、false bottom(グレインベッドの下にある網)の下に溜まった大きな汚れを引き出しましょう。その後は、一定にして、じっくり待ちましょう。

  3. 濾過のスピードが遅くなっても、無理にスピードを上げようとしない
    ポンプで同一の速度でやっていても、急に濾過のスピードが弱まることがありますが、ここで流速を無理に戻そうとするのは良くありません。グレインベッドに負荷をかけて、より詰まりやすくなります。じっくり待ちましょう。

  4. 流速が遅くなりすぎたときは、優しく切り込みを入れる
    余りにも流速が遅くなりすぎたときは、長いヘラなどで、麦層にひし形を描くように優しく切れ込みを入れてあげましょう。ただし、グレインベッドの底までは切らないように。ゆっくりゆっくりと。

  5. 何をしてもダメなら、やり直し
    完全にスタックして、万事休すのときは、ポンプを止めて、全ての出口を閉じます。そして、レーキを回して麦層を崩しましょう。もう一度、麦層を作るところからやり直しみましょう。その差に、麦汁の温度を何度か上げてみるのも良しです。ただし、ポリフェノールが多くで増すので、乳酸などを添加し、pHを低めにしておくと◎

まとめ

お疲れ様でした!
今回はマッシングでのstuck/スタックについて色々と説明してきました!ここに書いてあるのは、一般的なことですので、他にも色んな策はあると思います!

お金があるなら、マッシュフィルターを買えばいくらでもミルは細かく挽けますし、良いミルを買ってもいいです。機械との呼吸次第ではポンプをいじったり、false bottomをいじってみたりするのも良いかもしれません。

原因の分からないスタックにぶつかったら、この記事を見直してもらえたら何か発見があるかもしれません!解決したらば、幸いです🎈
疑問やコメントなど大いに歓迎です。何でも教えて下さい🎈
では、今日はここまでです!

ANTELOPEブルワー谷澤 優気
お酒が好きで醸造の世界に入る。日本各地での研修期間を経て、2020年3月滋賀県野洲市で国内初のクラフトミードハウス・ANTELOPE株式会社を共同創立。
「ちょっと深く知るとお酒はもっと楽しい」をテーマに醸造学を発信中。

志賀→浜松→掛川→滋賀県野洲市[now!!]

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