お久しぶりです!Ble_こと谷澤(やざわ)です。
特に本名を公開することに抵抗はなかったのですが、愛着がある名前なのでそのまま使いたいというのもあるし、大学の後輩に同一人物と認識されてなかったこともあり、本名を公開することにしました。
SNSでは公開しているのでそんなに影響はないのですが。すこしでも知人たちに”矢沢””矢澤”ではないよ、ということが広まれば幸いです。
さて、今回は僕よりも若い世代に向けて、あるいは、近々醸造家になりたいなと志している方々に向けての記事になります。現状のクラフトビール業界についてのアンチテーゼみたいな内容になるかもしれませんし、気分を害する方もいるかもしれません。なるべくそうはしたくないのですが。
僕個人としては、新しい世代が常にハイクオリティなビールを醸造できる環境を作れるように少しでも僕の経験が役に立てばいいな、と願ってやみません。
そこで、今回は醸造家になりたいな、と思っている方が、スムーズな動きをできるように個人的なアドバイスをできたらいいかなと。
考える点⓪: 醸造研修をする必要性
そもそも醸造研修をする必要が、こと日本で必要かどうかということを議論してみたいと思います。
僕個人の意見は、”Yes”
それも圧倒的にです。なぜなら、そもそも醸造研修はいらないというスタンスに立っていた僕が、今は絶対にやるべきだなと思っているからです。ただ、一つ注意する点は何年もやることが絶対的な正義じゃないはずです。語弊があるかもしれませんので、補足をしておくと、何年も醸造を経験せずにお手伝いをするだけのアシスタントなら正直あまり独立に役立つか自信がありません、僕は。
とはいえ、醸造研修は必要です。今から長ったらしく語ります。
ポイントは3つで、
👉死の危険性
👉機械を扱うということ
👉”提供する”ということ
1⃣死の危険性
本当にこれ。自分のこと、仲間のことを考えるなら、これがまず大事。
homebrewと実際の醸造は、工程としてはほとんど変わりません。なんなら、頭の中だけなら、ほとんど一緒の流れで作業ができるはずです。しかし、扱うものが単純に大きくなると、homebrewでは考えなかったことがときに人の命を奪う大事故を起こすこともあります。
原因は僕もわかりませんが、自身の愛でるものに命を奪われる切ない事故は、日本でも世界でも何度も起きてほしくありません。切なすぎます。
もし、しっかりとした知識や危険要因を理解していたら、このような事故は起きなかったはずです。
例えば、小規模のブルワリーですら起きる可能性のある事故を想像してみます。
”発酵タンクなどを中に入って掃除するときの二酸化炭素中毒”などでしょうか。あるいは、”薬品の危険性を理解しておらず、目に入ってしまう”もありえます。
特に二酸化炭素は本当に気を付けないといけません。
homebrewで発生した二酸化炭素で死亡、などは到底おきないと思うし、そもそも意識すらしてませんでした僕は。
ですが、その意識で工場を建てて、手が届かないから掃除したろ、と空いたばかりの発酵タンクに体を突っ込み掃除するとどうなるでしょうか。
きっと、一撃です。
ドイツでもそういった事故はあるみたいですし、火のついたろうそくをタンクの下までおろして火が消えなかったら掃除をする、などするとこもあるようです。それくらい醸造所において二酸化炭素は危険な物質です。
そういった事例も踏まえて、まずは工場で死の危険性について聞くべきです。聞かないと教えてくれないこともあるし、積極的に聞いた方がいいです。そこでうーん、どうやろーと悩むブルワーさんがヘッドをやっているところなら、運が悪かったと思ってきっぱり研修は止めちゃった方がいいかなと思います。
2⃣機会を扱うということ
これは特別言う必要もないかと思いますが、日本のhomebrewでは機械をフル装備して100L仕込み持ってます!っていう人はなかなかいないと思います。たぶん大体が鍋と発酵容器をそれぞれ自分たちなりにDIYしたりして、使っているのかなと思っています。
それが工場になると、バルブを使ったり、スチームボイルを使ったりとなります(寸胴でやっているところもありますが、かなり考慮しないといけない点も多く、ここでは割愛します)。
そうなると、普段と違う動きを求められます。温度の上昇がどんなもんか、チラーの温度が下がる速度はどんなもんか、などなど。家庭の動きをそのままデッカクしただけじゃなくなります。
こんなことはどうでもいいんですけど、例えばタンク一つにしても、家庭用の鍋は液体に対して表面積が非常に大きいです。しかし、規模がでかくなればなるほど、液体に対するタンクの表面積は小さくなります。そうなると、外部からの温度変化の影響や、逆に外部から与えてやる変化に対して液体の感受性が鈍くなります。もちろん家のバーナーで鍋を温める方なら、メイラード反応が同じように起きるとは限りません。
とか、そういうのを肌感覚で学べるのが醸造所です。僕は300Lの仕込み設備でしか経験してないですが、2Kとかになればまた違うと思います。
3⃣”提供する”ということ
お客様に出すとなると不安なことはたくさんあります。
「あれ?homebrewだと瓶詰しかしないけど、ケグ詰めするのってどうやんの?」
「あれ、タンクの掃除ってこれで十分?」
「検査に出したら嫌気性の雑菌が入ってると報告あったけど、なにそれ?」
この辺は工場で研修すると3か月もいれば、学べます。でも、一切工場に入らないと人様に飲み物を”提供する”という責任の重さを理解しづらいと思います。僕はそうでした。
人の口に入るものですので、もちろん何かあってはいけません。毒物でなければ、正直な話”コンタミ”と片付けることができるし、なんなら”野生酵母で醸した”などと謳ってしまうところもあるかもしれません(推奨はしていません、もちろん)。とにかく安全に。安全に。よく傾聴し、質問し、自分でやるならどうするだろうと常に想像を働かせてみる。僕もできていないですが、そういうことが自然にできるようになると得られるものも多いと思います。
ただこの辺は色々な人の意見が異なると思います。勉強したバックボーンが違えば、出てくる結論も違って当然とは思います。バラバラでいいのかよ!と言われると、うーん、自信がありません笑
考える点❶:醸造研修先のチョイス
僕も経験が少ないですが、やってみた経験から伝えられることは全て伝えたいと思います。
やりたい規模感は?
ブルワーになりたいな、と考えている人に向けてと思うとどうしても”独立”という言葉がちらついてしまいます。
僕も独立したいですが、その理由は【自分の作りたいビールを作りたい】というところに帰着するのでしょうか。
その中で、じゃあ自分がヘッドブルワーとしてやりたいとなったら、醸造所はどれくらいの大きさかな、と想像しておくのはかなり重要かなと思います。というのも、やりたい規模感を掴んでくると研修先を選びやすいからです。
僕は500Lくらいで何種類も様々なものを作りたいというのがあります。
あんまりデカくしてもなあーという気持ちがあります。でも300Lはさすがに小さい。実際に300Lだと綺麗に損失なく詰めたとして15Lケグが20本です。僕はパブを絶対にやりたいので、そこで1か月つなぎ続けたら5本は少なくとも出るだろうなと考えています。そしたら外販に回るのは15本。たったの15本です。かなり販路も限られますし、得意先だけになることも多いのかなーと想像しています。加えて損失なく詰められることはありえないので、実際にはもう少し少なかったりすることも全然あります。
今度は規模を2kくらいで想像してみると、一度の仕込みに使うモルトはどれくらいでしょうか。
ペールエールあたりなら400kgくらいでしょうか。モルトの袋が丸々16袋。ミル、マッシュインなどを手作業でやるとなると、相当な労力になるのは目に見えています。
そうなると、オートメーション化されるのが当然になってきます。機械投資産業と結われる所以です。
また、ケグの数もロスなく詰めるとすると15Lケグが130本以上です。これは自分には too much かなと。
どっちが好みに合うかは人それぞれだと思います。僕は小規模でやりたいだけです。
とにかく、工場見学や1日だけお手伝いしてみるとかを通じてやりたい規模感を想像してみて、その規模感の醸造所で研修してみるのが理想的かなと僕は考えいます。実際に僕は300Lのところ2つを通じることで500Lでやりたいなと考えることになりました。
醸造学校を出た人をチョイスするのは正義
日本には様々なブルワーさんがいます。海外で勉強された方、ホームブリューから上がった方、日本の醸造所で色々な経験を積んだ方。
どんな経歴を踏んで、いまどういう哲学や姿勢でビールを醸造しているのか、これを知っておくことは超大事だと僕は思います。僕は割と考えが固いので、醸造学校で学んだ方や海外の文献をたくさん読んで勉強している方や、とにかく色んな角度から勉強するブルワーさんが好きです。好きというか、そういう人たちが引っ張っていくべきじゃないといけないと感じます。
なので醸造をするがために海外の大学を選び、勉強された方はまさにそれに当てはまると思います。
僕は2つの醸造所でしか研修していませんが、どちらのヘッドも海外で修了されていて、知識量はそれはもう素晴らしいです。分からないことや細かいところなどもかなり引き出しが多く、色んな回答をしてくれます。
じゃあお前も海外でやれよ!というのは切れ味が鋭すぎて僕の心が持たないので。笑
良いとわかっていても、踏み出せないことってあるやん?笑
そんな僕の同志に捧げるのは、【勉強した人から真摯に学ぶ】
以上!笑
別の醸造所にアクセスはしやすいか
これも実はめっちゃ大事。
僕は近くにけっこう醸造所があったので、かなり恩恵を受けています。
homebrewしたかったり、新しい生活で色んな出会いがあるかなと思っている人も多いでしょうから、大多数の人が研修先の近くでお家を借りて研修するのかなと思います。あ、社員寮とかあるか。
で、そうなると、醸造所が近くに1つしかありませんよ、となると別のところで勉強してみたいとなったときに気軽に研修先を変えることが難しいです。引っ越し費用も本当にバカにならないからです。
が、これが近くにぽつぽつとあると、非常に良い。
考えが煮詰まることだってあるし、単純作業ばっかりで学べることが少なくなってきたなと感じるときだってある。そんなときに別の醸造所で1日研修してみるとどうなるか。今までとは違う刺激があったり、別の規模感だったり、別のセンスが溢れていたりとウキウキが止まりません。
僕はそれに負けてひょいっと研修先を変えてしまったのですが、変えずに戻ってその知識を共有したり、アイデアとしてガンガン出していっても面白いと思います。
もし研修先で良い!と思うところがあったら、別の醸造所がアクセスしやすいところにあるのかなとチェックしてみてはいかが?✅
直営店があるか
重要度でいうとそんなに大きなわけではないんですが、自分が立ち会って完成したビールの直接の感想を聞ける場所として直営店はもってこいです。
『甘すぎますか?』『名前のわりに香り大人しすぎますか?』『僕はめっちゃ好きなんですけど、どうですか?』など疑問をぶつけてみてください。ビールが好きなお客さんは醸造の話まで聞けると、面白がってくれる人も多いです。
”僕はもう少しドライな方が好きだなー”
”香りがトロピカルだから、もっとこってりした味わいかと思ったけど、結構ドライだね”
”これは食事と合わせるのは難しそうだね”
など色んな意見が返ってきます。ときには、気づかなかった視点、可能性を頂くことだってあります。その経験はどれも貴重で、必ず将来の役に立つはずです。
さて、直営店の☑はもう済んだかな??
まとめ
研修先を選ぶ時に考慮すべき点は、
【規模感】
【ヘッドの経歴】
【近くに他の醸造所があるか】
【直営店があるか】
の4つでまとめました。
もちろん、研修先を選ぶときの細かい話はもっとあると思います。
給料はどうか、休みは何日だ、などなど。ただ、研修となると給料はもらえないかもですし、休みも確定でいつ休みというのもないことが多いかもです。色々と話を聞いたうえで、最終的にはチョイスするのが良いはずです。
何か役に立つことが少しでもあれば幸いです。
ここまで長く長く真剣にお読みしてくださり、本当にありがとうございます。
後半も良かったら覗いみてください👀
こんにちは。非常に勉強になりまさした。
実際、給料出してくれて働けるような会社も結構あるのでしょうか?
出来るなら生活費でも貰えるところで勉強したいのが本音です。
ハリーさん
こんにちは。コメントありがとうございます!
早速本題に入ります。
給料が出るところももちろんあります。むしろ日本のほとんどのブルワーさんが給料をもらいながら勉強してきたのではと思います。
ただ、ビールの醸造するという仕事自体は一つのブルワリーに一人で十分なことが多く、多くは掃除や雑用などの”あればより楽”な仕事を多く任されることになるのかなと思います。
もちろんそういった雑用などもブルワーの仕事として貴重な経験ですが、何年もやる必要があるかは疑問です。アルバイトでもできますので。
残念ながら日本はまだ醸造技術を学ぶ場として恵まれているとは言えません。お金を削って、研修という”醸造しか学びません”という効率的な学びを取るか、
時間を削って従業員として”お金をもらいながらゆっくり学ぶ”という選択肢になってくるのかなと。
折衷案自体は絶対にありますし、他の方法もあるはずですが、ぱっと思いつきません(..)
非常に濃い内容の記事で、大変勉強になりました。経験に裏付けされているので説得力が違いますね。
後半の記事も楽しみにしております!
しま彦さん!!!
コメントありがとうございます。ちょっとした経験をさもベテランのような経験に書いてるだけなのです。笑
でもでも、本当に嬉しいです。自分の発信した情報に興味を持ってもらうことはたまらなく嬉しいです。
いま記事書いてますので、よかったら目を通してくれると嬉しいです