日本でBrewerになりたいときに考える3つのこと【後半】

日本でBrewerになりたいときに考える3つのこと【後半】

こんにちは!Ble_です。
谷澤です、と紹介するのも面倒になってきたので、やっぱり君を使うことにする。

さて、前回は醸造先のチョイスについて自身の経験を踏まえて、有益であったことをまとめてみました。全てが全てピックアップされてほしいとは思ってなくて、みなさんの中で”あっ!”となるポイントが1つでもあれば幸いです。
では、今日はその続きで、日本でBrewerになりたいときに考える3つのことの残り2つを紹介していきます。

考えること❷:homebrewに割ける時間は何時間?
考えること❸:≪ビールは科学≫という事実とどう向き合うか

では早速行きましょう。
前回の記事はこちらから☟☟

日本でBrewerになりたいときに考える3つのこと【前半】

お久しぶりです!Ble_こと谷澤(やざわ)です。特に本名を公開することに抵抗はなかったのですが、愛着がある名前なのでそのまま使いたいというのもあるし、大学の後輩に同一人物と認識されてなかったこともあり、本名を公開することにしました。SNSでは公開しているのでそんなに影響はないのですが。すこしでも知人たちに"矢沢""矢澤"ではないよ、ということが広まれば幸いです。 ...

考えること❷:homebrewに割ける時間は何時間?

あっ!!違法だ!違法だ!と声を荒げないでくれると嬉しいです。美味しいビールを日本で簡単に飲めるようにするには、多少のリスクも必要です。こっそりと応援してくれると嬉しいです。
(ご家庭でビールをアルコール度数1%以上で醸造するのは、違法行為です。お家でやる際には、近くの交番などにおすそ分けしないことを強くお勧めします。)

さて、日本で本気でブルワーとしてやっていきたい方は、homebrewについても色んな話をよく聞いていると思います。
結論から言うと、homebrewをしないで自分のレシピを作りたい、ヘッドブルワーになりたいというのは難しいかもしれません。もちろん、今までのヘッドの方のレシピを少し改良してみる、今までのレシピのホップスケジュールちょっと変えてみるかくらいなら出来ます。
でも、自分の作りたいビールを実現する場は家庭以外に想像がつきません。働いているところに試験用バッチがあるならすべて解決するんですけどね!笑

多くを語るのもバカバカしいので、前提としてやることとして、homebrewに割ける時間がどれくらいあるか計算してみましょう。

月に60時間割ける??

まず、1日1バッチの場合。

準備:1時間
マッシュインまで:1時間
マッシュアウトまで:1~2.0時間
ボイル:1.5時間~2.0時間
冷却するまで:0.5時間
ピッチ:~0.5時間

ふむ、こんなかんじですか。昇温にかかる時間などによってかなりブレはあると思いますが、結構すぱすぱやっても5時間くらいはかかります(僕は)。かなり効率的に動かないと、研修を終えて(または仕事終わりに)homebrewを行おうとすると、夜が更けてきます。
とはいっても、集中する場面がポイントごとにあるだけなので、そこまで実際疲れませんが。加えて慣れが出てきて、効率よく前日の夜から準備をこまごましておくなどで時間は短縮できるとは思います。

では、2バッチ分を仕込んでみようとなると、これは単純に倍時間がかかるかと言われたら、そんなこともありません。もちろん家が広くて、スペースがあればどんなバッチ数でも同じ量の設備を同時に動かせばいいだけなので、ほとんど時間は変わりません。
現実的にはそんなことはなかなか無いと思いますが、2バッチ分を同時にやることはできそうです。コンロと鍋がもうワンセットあればいいだけですので。
*発酵を管理するスペースも倍量になることをきちんと想像することが大切です。温度変化をきちんと管理できなければ、いくら麦汁を仕込んでも深い経験にはなりづらいです。

休日の日に2バッチ仕込み、平日になんとか1バッチ仕込むと、月に12バッチ仕込むことができます。
割く時間は、50~60時間ほどでしょうか。慣れてなければ、それこそ100時間くらいかかっても不思議じゃないです。
年に100回以上仕込めますので、醸造所と遜色ない経験を積むことができるはずです。ただし、休息というものがあるのかは不明です。笑

というわけで、とりあえず月のスケジュールで60時間を目安にhomebrewに割いてあげる予定を組んでみるのはどうでしょうか。年720時間。どんなことも1万時間勉強すれば、その分野のプロフェッショナルになれると京大の青谷さんがよく言っておりましたが、このスケジュールなら14年。うーん。道は長いぞ??笑

試行錯誤の回数を増やすには??

では、とりあえず月に12バッチ分の麦汁を仕込むとします。
できあがるビールは12バッチ分でしょうか?それとも多くできるでしょうか。

僕は”50以上は全然いける”派です。
重要なのは、麦汁の組成は12種類(こちらも本当はもっと増やせるのですが、必要になるアイテムが増えすぎるので割愛)で、その後の分岐は比較的容易に増やすことができるということです。

一番単純なのは、発酵容器の数を増やすこと。
ドライホップする種類を変える、酵母を変える、ピッチレートを変える、温度を変える、Adjunctsの有無、colt steep したモルト水を入れてみる、などそれら諸々を1バッチ分の麦汁を複数の発酵容器に分岐することで出来上がるビールを異なるものにできます。更により一層分岐させるなら、ラッキングするときにもホップやadjunctsを入れてみるのはどうでしょうか。
ここまで来ると醸造というより、料理の域に近いでしょうか。理論は座学で身に付きますが、”センス”は理論と実践の狭間で身についていくと信じ、何事もやってみるのが良いと思います。気づくと月に100種類以上のビールを生み出すことができるかもです。

ただ、ラッキングするビールは少なくとも同じもので5本くらいはあった方がいいと思います。プライミングをするなら、瓶の中で熟成が進む過程を学べる良い機会です。ビミョーやなーという仕上がりも、冷暗所に1か月ほど放置しておいて、改めて飲んでみると美味しくなってるということも良くあります。時間ごとに比較する癖をつけるのも大事なことです。

考えること❸:≪ビールは科学≫という事実とどう向き合うか

ビールは科学、は”ビールは科学的な考察が非常に重要”という意味にします。

なんでも科学だろ!という佐々木投手ばりのストレートは投げないでください。バットが折れるので。
ビールは科学という事実に、これからブルワーになりたい人はどう向き合うべきでしょうか。あくまで僕の持論で、小中高と勉強しかしてこなかった僕の偏った見方でもあります。しかし、クラフトビールシーンを活発にしていくには必要なことと思っていますので、大いに議論できたらなと思います。

”最先端は日本じゃない”

クラフトビールという括りにすれば、最先端はアメリカでしょうか。それともベルギー?デンマーク?色んな意見が飛び交うはずです。でも、【日本】という答えは待てど暮らせど出てこないと思います。どうしてかというと、ビール醸造を研究する土台がないからです。もちろん悪いことじゃないし、海外に日本酒を研究する土台がなくても不思議に思わないのと一緒です。

ただ、その事実に対して、日本でブルワーになりたい今、どう向き合うかが大切ではないでしょうか。

”なんだじゃあアメリカで勉強するわ”
”英語の文献たくさん読みたいけど、わからないから英語の勉強から始めるわ”
”とりあえず日本の文献から読むことにして、あとは実践を繰り返すわ”
”実践あるのみ。何もわからないけど、ブルワー研修ずっとするわ”

どれも向き合った結果なら、それが正解です。不正解はありません。
ただ、これだけは本当に言わせてほしいのですが、自分のビールにブラッシュアップを常にかけていきたいと考えているならば、科学を勉強することは絶対に必要になります。あまり絶対という言葉は使いたくないし、使うべきじゃないとは思っています。しかし、科学を学ぼうという姿勢を持ってアンテナを張り続けておかないと成長するスピードが上がらないと思うんです。

それも日本が最先端じゃないという認知を持って、です。
無理にでも海外の文献を読むべきだ!と言っているわけではなくて、海外の先行くブルワーたちは今どのステップにいて、どんな情報を駆使しながらどんなビールを醸造しているのか、というアンテナを張っておいてはどうですか、と提案しているのであります。

”偶然”と”必然”のコントラスト

科学を勉強し、真摯に学びを続けていても、全てがうまくいくとは限りません。
数式一つで全てを解明できるほど単純な構造ではないですし、色んなことが組み合わさって一つのビールが出来上がります。確かに難しく、複雑。勉強したことがまんまその通り行くことの方が少ないです。

しかし、何度も醸造を重ねるうちに”素晴らしい出来”のビールに出会うこともあります。
狙った通りの香り、ボディー感、mouthfeel、全てが概ね狙ったラインに着地したぞ!となったときに、果たしてそれは”偶然”なのでしょうか。”必然”なのでしょうか。

僕自身の答えは、”偶然と必然の間のどこか”です。かっこいいでしょ。
全て勉強したことを活かして、すべて管理して、すべてこうなった!となっても”必然より”なだけだと考えています。なんでかっていうと、全部のバッチで上手くいっているわけでないなら、それはどこかに偶発的な要素が組み合わさっているか、考慮していなかった点があったわけと思うからです。
くそでけー工場ですげー人数で最新鋭の機械を投入して、ようやく大手は常に画一の味のビールを生み出すことに成功したわけです。それでもまだ研究を続けるわけです。
つまり大手もかなり必然よりにいるだけで、まだ研鑽を続けています。

小さな規模のブルワリーでは、もっと偶然寄りになってしまいます。それを科学的な勉強をして、経験を積み、考慮できる範囲が広がってくると”偶然と必然のコントラスト”が少しずつ変わっていくと信じています。

ただ一人だとつらいのが勉強です。笑
なんとか勉強会や意見を交換できる場を作りたいと考えいます。何かアイデアややってみたいことがありましたら、コメントやDMでどっしどし送ってもらえると嬉しいです。
一人でも大丈夫。みんななら大丈夫。頑張りましょう。

英語ができることは最強のツール

最後に、一つだけ。それは英語が聞ける、読める、は日本のブルワリー市場では最強のツールになります。

論文の数も桁違いですし、それ以上に海外のブルワーさんと直接コミュニケーションや繋がりを持てることのメリットがとんでもないです。あとは、Podcastですね。これがオニ。本当にオニ。
ラジオでヤキマのチーフが1時間無料で色んなことを語ってくれるんです。僕も頑張って聞いてますが、正直な話、4割も分かっていません。これが100%理解出来る人がどんどん出てきたら、震えます。
ブルワーの研修を一度やってみるとわかるのですが、時間が空くことって非常に多いんですよ。単純作業も多いし。そのときに、耳だけはラジオで海外の最先端情報を聞き続けたらどうなるでしょうか。

ね?オニでしょ。オニすぎる。

まとめ

なんだか今回は割とすっきりした内容になりました。お酒が入ってないからでしょうか。笑
ただ本当に思いを吐露した内容になっていますので、まんま受け取らずに皆さんが有益だなとおもったところだけを掻い摘んでもらえればと思います。

まだまだ若い文化ですから、夢を大きく持って、真摯に取り組んで、頑張りましょう☺

ANTELOPEブルワー谷澤 優気
お酒が好きで醸造の世界に入る。日本各地での研修期間を経て、2020年3月滋賀県野洲市で国内初のクラフトミードハウス・ANTELOPE株式会社を共同創立。
「ちょっと深く知るとお酒はもっと楽しい」をテーマに醸造学を発信中。

志賀→浜松→掛川→滋賀県野洲市[now!!]

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