【milk】ちょっとしっかり目なチーズの話【解説/考察】

【milk】ちょっとしっかり目なチーズの話【解説/考察】

こんにちは!谷澤です。

前回、バターの話をしました!ビールと関係はないんですが、乳酸菌や別な菌についても勉強しておくことは損にならないかな~と思います。何より、バターやチーズ、自分で作ってみたいじゃないですか。ということで、チーズの作り方の話にフォーカスしてみます。

では、いきましょう。

チーズとは

チーズとは、乳製品の一種で、水牛山羊ヤクなど鯨偶蹄目反芻をする家畜から得られるを原料とし、乳酸発酵柑橘果汁の添加で酸乳化した後に加熱し固形分(主としてカゼイン)を濾しとる方法や、酵素レンネット)添加により凝固体(カード)となったものをカットやクラッシュしてから布などで濾し、液体成分(ホエー)と分離してさらに脱水して製造した食品

wikipedia

いつもここから。

チーズとは、反芻をする家畜から得られる乳を酸っぱくするか、あるいは酵素を添加して誕生した固形物のようですね。反芻は、かみ砕いて飲み込んだものをまた胃から口に戻してムシャムシャして飲み込むのをくり返すことですね。消化の悪い食事をする牛さんなんかは、4個胃があって反芻をたくさんします。だから焼き肉やさんでも色んなホルモンがありますね。

脱線しました。なぜ反芻してる動物限定なのかは分かりませんが、そこはあまり問題じゃないですね。

チーズ:
乳を酸っぱくして固形物(タンパク質)にする
or /and
乳に酵素を添加して固形物(タンパク質)にす

バター:
乳脂肪を覆っている膜【MFGM】を傷つけて、漏れた乳脂肪同士をくっつけて固形物にする

バターは脂肪分を中心に集めたものに対して、チーズはたんぱく質(カゼイン)を中心に集めたものです。

【milk】とっても短いバターの話【ちょっと解説】

牛乳の成分を確認

バター、チーズの原料になる牛乳というものを確認しておきます。

普通牛乳[1]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 280 kJ (67 kcal)
4.8 g
3.8 g
3.3 g

wikipediaより抜粋しました。
100gあたり、5gほどの炭水化物があります。これらのほとんど乳糖(ラクトース)と呼ばれるもので構成されています。たんぱく質は、80%がカゼイン、20%くらいがホエイというたんぱく質で出来ています。脂肪分は、トリアシルグリセロールという脂質です。この脂質は、表面をMFGMという膜で覆われています。

80%以上が水分で構成されている牛乳が果たしてどのように固形物になっていくのかを見ていきます。

ざっくりとしたチーズができる流れ

非常にざっくりとしたチーズができるまでの流れを図にしてみます。

牛乳のたんぱく質は、カゼインとホエイに分けられます。チーズになるのは基本的にカゼインの方です。カゼイン同士が集合して大きくなって、脂質などを取り込んで固形物になったのがcurd/カードと呼ばれる固体です。これを熟成させるか(ハードチーズ)、あるいはすぐ食べてしまう(フレッシュチーズ)かに分けられます。

ホエイの方は凝固されず、水分と共に分離されます。このホエイが溶け込んだ液体のことを、そのままホエイ/乳清と呼びます。ヨーグルトの表面に浮いてる液体がこれです。この水溶液にはたんぱく質だけでなく、ビタミンなども非常に豊富で健康に良いとされています。筋トレをしたときに飲むプロテインなんかもホエイプロテインが多いですね。

昔はほとんどが廃棄されてたホエイですが、今は様残な用途に再利用されているようです。リコッタチーズはホエイからもう一度ひねり出したチーズです

固形物(カード/curd)の仕組み

乳から固形物を取り出すという点はバターと一緒で、チーズも変わりません。チーズにおいて固形物を取り出す2つのアプローチを見ていくことにします。2点ともタンパク質(カゼイン)を凝固させて、固めるというプロセスです。

pHを下げて固形物を取り出す仕組み

まずは、酸を加えて固形物を取り出す方法です。
少し温めた牛乳にレモン汁などのpHが低い液体(酸っぱい液体)を入れると白いぼやぼやした塊が浮いてきた経験はないでしょうか。僕は、小さい頃にレモン汁を沢山絞ったハイビスカスティーでミルクティーを作ろうとしたら、電子レンジから出てきた飲み物に驚愕したのを今でも覚えています。

牛乳に含まれているタンパク質は、カゼインというものが80%含まれています。このカゼインは、牛乳の中でカルシウムとリン酸とくっついて、集合体となっています(ミセルと呼ばれます、詳しいことはググってね!笑)。
このカゼイン集合体(カゼインミセル)は、本当は周りの仲間とくっつきたいんです(くっついた方が物質として安定するから)。でも、カゼインミセルは、くっついているリン酸が外側を向いていて、それらが同じ電荷をもっているのでくっつくことができません。磁石でいうところの、NとN(SとS)。だから、普通の牛乳ではこのカゼインは凝固しないでそれぞれが単独で安定的に動き回っていて、なにも存在しない環境で放っておいてもタンパク質が凝固することはありません。

しかし、このカゼインのリン酸は牛乳のpHが一定値以下になると電荷を持たなくなります。細かくなりますが、今回の場合で言うと、pH4.6以下です。お互いを離す障壁がなくなったので、無事にカゼインミセルたちは結合して大きくなることができます。これがpHを下げたことによって発生するカゼインの凝固です。こうして、牛乳のpHが下がると、カゼインと一緒に脂肪分も取り込んで固体ができます。これをCurd(カード)と呼びます。このカードを絞って、水分を抜いていくことで、チーズというものはできてきます。あとはどれくらい熟成させるのかという問題ですね。

では、pHを下げる方法を2つ紹介します。

  1. 酸っぱいものを加える
  2. 酸っぱいものを発生させる

pHを下げる方法|酸っぱいものを加える

もっとも直感的な方法。pHを下げると言うこと酸っぱくするということと捉えて問題ないはずです。pHが3.0付近になると酸味を感じるとか、同じpHでも物質によって感じ方はあるとか色々ありますが、解明されてないことが多いようです(2020/04現在)。

難しいことは置いておいて、レモン汁の pHが2.0、牛乳がpH 7.0のとき、1L の牛乳に5mlのレモン汁を加えるとpHは4.3となります。pH3.0のすっぱいものならば、1Lの牛乳に26ml加えるとカゼインが凝固し始めるようです。参考にしたのは、pH計算機というウェブで、めっちゃ便利なので使ってみて下さい。
なんでも酸っぱい奴ならいけそうですね。酸っぱいと感じるのがpH3.0からという説がほとんど合っているとしたら、大体のすっぱいやつは26ml/L以上入れて上げると固まると言うことですね。

基本の原料がミルクとレモン汁(すっぱいもの)で作られたチーズはFarmer's Cheese と呼ばれているものや、Cottage Cheese / カッテージチーズ などのフレッシュチーズがあるようです。フレッシュチーズというのは、絞った瞬間から食べられるやつですね。Cheese.com というサイトでは簡単な説明で色んなチーズの話が載っているので、英語の勉強がてら読んでも楽しいと思いますよ。

Cheese.com - World's Greatest Cheese Resource

All textures of cheeses

pHを下げる方法|酸っぱいものを発生させる

さっきは、直接pHを下げる方法でした。次の方法は、間接的にpHを。下げる方法です。
もしかしたら知ってる方も多いかも知れませんが、その正体は乳酸菌です。ビールでも乳酸菌を使った、サワービールというスタイルがあります。知らない方に簡単に説明すると、酸っぱいビールのことで、普通のビールイーストに加えて、乳酸菌も使用して発酵を行います。

乳酸菌は、環境が整うと乳酸発酵という代謝活動をします。これは、グルコールを食べて乳酸を出す活動だと簡単に考えてください(ビール醸造ではホモ、ヘテロも大事)。乳酸と言うのは、酸ですから増えるとどんどんpHが下がります。pHが一定値を下回ると先ほど説明したことと同じことが起きて、牛乳からカードを取り出すことができます。

しかし、牛乳の糖分はほとんどがラクトースで構成されていて、グルコースはほとんどありません。ではどのようにして乳酸発酵をすることができるのでしょうか。それは乳酸菌のlacZという酵素がラクトースをガラクトースとグルコースに分解するためです。

[ラクトース図] 

グルコースが支給されるので、それを発酵してエネルギーに変えます。その代謝物として乳酸が出てきます。では、ガラクトースはどうなんですかというと、これはガラクトースを分解して乳酸に変える経路がある乳酸菌ならば利用することできるようです(参考:Galactose Fermentation and Classification of Thermophilic Lactobacilli)。

ということで、まとめると、

  1. 乳糖発酵でラクトース(乳糖)が乳酸に変わる
  2. 乳酸によって牛乳のpHが下がる
  3. カゼインが凝固してカードになる

これで酸を利用してpHを下げるところは終わりです。次は、別な方法でカードを取り出す方法です。

酵素を利用して固形物を取り出す仕組み|Rennet

pHを下げるとどうして牛乳が固まるかは、カゼインの周りを覆っているリン酸が磁石としての役割を果たさなくなるからでした。実は、この酵素を使用する方法も似たようなプロセスを利用しています。

チーズ製造で一般的に使用される酵素液は、rennet/レンネット と呼ばれます。本来は、仔牛の第四胃から採取される酵素液ですが、動物由来のものが食べることのできない人のために植物由来のrennetなども開発されるようになりました。rennetは酵素の名前ではなく、酵素を含んだ液体です。本来のrennetには、renninとpepsinという酵素が豊富に含まれていて、これらが作用します(メインは、rennin)。 

このrennetは、カゼインとリン酸の結合を切ることができます。リン酸を失ったカゼイン集合体は、妨げるものがいないのでどんどん合体して大きくなります。これがカードになって、ホエイと分離することができます。晴れて、分離されたカードがチーズになります。

乳酸発酵とrennetの併用が多い

では、負担食べているチーズはどちらの製法でカードを作っているのかというと、ぱらぱらとレシピを漁りましたが、乳酸菌とrennetを併用するレシピが多かったです。これを理解するには、pHを下げる方法、酵素を使用する方法それぞれの特徴を簡単に整理します。

(かなり私的な意見が入るので、疑って読んでもらったら幸いです)

酸っぱいものを加えるのみ

farmer's cheeseなどと呼ばれるこのチーズは、レモン汁などを加えただけで作られます。そして、熟成と言う過程を踏まずにフレッシュチーズで食されることが多いです。

どうしてでしょうか。
これは僕の完全な持論なのですが、pHは低いが糖分が豊富に残っている状態なので別な菌による汚染リスクが高いからではないでしょうか。ただ、塩をよく揉み込んで脱水させて熟成させていくのであまり汚染しない可能性もありそうですが。となると、味わいでしょうか。すっきりしていて、あまり複雑な味わいを求めるタイプの味わいではないからかもしれません。

乳酸発酵させるのみ

では、今度は乳酸発酵のみの場合はどうでしょうか。
pHも下がるし、糖分も切れるので発酵食品として熟成させる方法として最も適しているはずです。ただ、こちらのレシピも基本的にはフレッシュチーズが多く、あまり熟成させているレシピが見つかりませんでした。ハードチーズには、rennetという酵素も用いることが豊富なレシピが多いのは何か理由がありそうです。

一つは、糖分が逆に少なすぎるという点がありそうです。
カードに含まれている糖分はほとんどがラクトース(乳糖)ですから、乳酸菌の活動があればどんどん発酵が進行し、糖分がなくなっていきます。ラクトースは、グルコースの0.4倍ほどの甘さですが、十分な甘みがあります。ビールでもミルクシェイクと言って、ラクトースをふんだんに使用したビールのスタイルがありますが、うぉおってなるくらい甘いものもあります。

とはいえ、糖分が残っている状態で発酵を止めてしまえば、今度はカードの硬度が柔らかすぎる可能性もあります。あるいは、糖分が少なすぎるチーズは味わいとしてコクが少ないと考えられている説は十分考えられます。他にも、熟成させていく中で微量の糖分を残し、別の菌を繁殖させるという狙いもあるのかもしれません。この辺りより深彫りすると、チーズ屋さんブログになってしまうので止めます(..)

また、考え方を少し捻ると、ヨーグルトの存在も出てきます。ヨーグルトは、乳に乳酸菌を投与して作りますが、rennetなどの酵素は使用しません。ヨーグルトにも砂糖をかけて食べる人が多いのも、乳糖が少なく、味わいとしてドライだからかもしれませんね。

rennetのみ

では、今度は酵素のみでチーズを作る場合はどうでしょうか。
今度はpHも高く、pHも高いので熟成させるには一番不向きなような気もしなくないですね。実際に、これが一番レシピとして見つからなかったですね。

また、rennetで主要な役割を果たす、renninという酵素ですが、適正なpHが3.5くらいということで普通に牛乳に入れるだけでは効率良く働いてくれない可能性も高そうです(参考:Study the influence of culture conditions on rennin production by Rhizomucor miehei using solid-state fermentations)

つまり|併用がベスト?

乳酸発酵を途中で止めて、糖分を残したい!でも、そしたらカードが柔らかいかも!ならばrennetも使おう!

ということが何だかんだ僕はしっくりきました。一旦は、こんなところでチーズの話は落ち着けてみます。発酵の世界に生きていく中で学べること、出会いなど沢山あるはずなので更新は引き続きやっていきたいと思います🧀

まとめ

なが~くなりました!バターとの差ほんとひどい笑
作る過程もバターに比べると遥かに複雑ですので、色々と考える部分がありました。ただ、バターは単純だからチーズに劣っているかという全くそんなこと有りません。シンプルな製法で上質を極めていくという行為は途方もなく、むしろ修羅の道のように感じてしょうがないです。

本当は乳酸の理解がいつかビールに活きるかなという目的で始めたバター、チーズ研究ですが、ただ乳製品に対する愛を深めることに終始してしまいました。こういう記事もいいですね。
今度は、おうちでバター、チーズを作ろうという記事を書いてみようと思います!🐀🐁

ご精読ありがとうございました!
番外編として、調べたけど乗っけなかった話をメモ程度にのっけて置きます。

番外|乳酸菌の種類

ビールに使われる乳酸菌では、Lactobacillus plantarumとか、Lactobacillus brevisとかいう品種なんかを使ったりすることも多いのですが、チーズではどうでしょうか。

【代表的な乳酸菌】
Mesophilic, Thermophilic

mesophilic:中温菌(28~30℃で活動)
hermophilic:好熱菌(40℃で活動)

使い分けに関しては、次の実際に作るときの記事で考えてみます。ビール醸造で使うのは、mesophilicタイプが多いでしょうか。ケトルサワーという方法では、30~35℃くらいで放置することがインターン中は多かったからという印象ですが、調べないとですね。

番外|mold

mold :かび

むしろこっちの方がみなさんのチーズの印象に強そうですね。特定のスタイルのチーズには、カビを添加することも大いにありえます。白カビを使用したカマンベールやブリー、青カビを使用したブルーチーズなどですね。

Penicillium Camemberti white mold spores are used for making Camembert and Brie cheeses and are essential in the ripening process of cheeses with white surface mold.

Penicillium Roqueforti mold spores are used for making Blue Cheese and are essential in the ripening process.

https://www.culturesforhealth.com/learn/cheese/overview-cheese-starter-cultures/

上から白カビ、青カビの代表的な品種のようです。興味がある方は是非、digってみてください。

ANTELOPEブルワー谷澤 優気
お酒が好きで醸造の世界に入る。日本各地での研修期間を経て、2020年3月滋賀県野洲市で国内初のクラフトミードハウス・ANTELOPE株式会社を共同創立。
「ちょっと深く知るとお酒はもっと楽しい」をテーマに醸造学を発信中。

志賀→浜松→掛川→滋賀県野洲市[now!!]

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