Hopを科学的に選択するために

Hopを科学的に選択するために

こんにちは!谷澤です。

最近学んだホップについての知識を自分の考えも交えながら、紹介してみようと思います。
今回のテーマは【科学的にホップをチョイスする】です。
ホップをチョイスするとき、こういう選択の基準のことも多くないでしょうか。

好きな醸造所が作っているレシピのクローン
好きな香りのホップを混ぜたい
新しいホップの香りが知りたい

最高。どれも本当に最高。でもこんな経験もないですか?

『前作ったバッチよりも、シトラス感強めたいんだけど、どうしたらいいかな。とりあえずCitraぶちこんどくか』

同じようなことはなくても、
求めている味わいと選択したホップが果たしてマッチングしているかを判断するときに、科学的な根拠が介入していないことがありませんか

科学的論拠がないとダメだ!と主張したいわけでは全くなくて、科学的にチョイスするという新しい一面を僭越ながら紹介させていただけたらと思います👀

a-acid以外が意味不明すぎる

ホップを購入するところから選択は始まっています。

最近よく聞くホップを購入してみたい
まだ使ったことのないホップを使ってみたい
a-acidsがなるべく高いやつを使ってみたい

など。

新しい洋服を買ったとき、ドキドキするのと一緒で、新しいホップに出会うとワクワクします。
ただ洋服を買うときには、買うそれなりの理由があって、値段だったり、原産地だったり、編み方、生地などなどを入念に調べてから購入している人も多いかと思います。

ホップのときはどうでしょうか?
みなさんはどんな情報を利用して、ホップを購入していますか?

僕は、hopslistというサイトを中心に、購入したいホップの個体値アベレージを調べたりしているんですが、悩みがありました。それが、a-acidと、hop oilの欄以外の数値を活用できない

共感してくれる人が多いでしょうか。
なんなら、hop oil が多かったとしても、ホッピーになるんやろうなーくらいでした。明確に利用するのは、a-acidくらいですが、どうしてもa-acidの数値は利用できるのでしょうか。

答えは一つで、利用する方法を知っているからです。
他の数値は利用する方法、あるいは作用する意味を上手く理解できなかったからです(僕は)。ですので、今回の記事では、他の要素についての利用方法などを考察してみたいと思います!

ホップの要素【一部】

brewswagより

では、hopslistに載っているホップの要素を上げてみて、それがどういう意味を持つのか考察してみたいと思います。
長いのでスキップしてもらっても結構です笑

【hopslist のホップ要素】
Cascade(アメリカ産)のデータ例

Also Known As  
Characteristics Floral, with elements of citrus and notes of grapefruit
Purpose Bittering & Aroma
Alpha Acid Composition 4.5%-8.9%
Beta Acid Composition 3.6%-7.5%
Co-Humulone Composition 33%-40%
Country US
Cone Size Medium
Cone Density Compact
Seasonal Maturity Mid
Yield Amount 2017-2465 kg/hectare (1800-2200 lbs/acre)
Growth Rate Moderate to high
Resistant to  
Susceptible to Some resistance to downy mildew and verticillium wilt
Storability Retains 48%-52% alpha acid after 6 months storage at 20ºC (68ºF)
Ease of Harvest Difficult
Total Oil Composition 0.8-1.5 mL/100g
Myrcene Oil Composition 45%-60%
Humulene Oil Composition 8%-16%
Caryophyllene Oil 4%-6%
Farnesene Oil 4%-8%
Substitutes CentennialAmarilloColumbusAhtanum
Style Guide

Barley Wine, American Pale Ale, Ale, Lager

データ引用:hopslist

  • As know as: 別名。雑学程度でよろし。
  • Characteristics: ホップの香りを表現してくれています。どうしてそんな特徴になるのかを検討するのが今回の本旨。
  • Purpose: α酸の高さで向いている用途を薦めてくれてます。現代の使い方は自由なので、無視します。
  • Alpha Acid Composition: α酸。購入するときにも必ず書いてあるし、説明は不要でしょうか。苦みの直接的な要因。
  • Beta Acid Composition: β酸。見向きがあまりされないけど、lagaringを長く取るビールでは重要。
  • Co-Humulone Composition: 昔から、嫌な苦みと言われている。諸説あり。やざわはむしろ逆だと思っている。
  • Country: 産地。地域性はもちろん出るだろうが、そこまで気にするなら、現地まで行ったほうが良さそう。
  • Cone Size: 毬花の大きさ。ホールホップで使うなら、ビールの収量に影響はないことなさそう。ポリフェノールも多そう。
  • Cone Density: 実が詰まってる!から何なのか。食べるなら参考になるかも。
  • Seasonal Maturity: 収穫時期を左右する。栽培をしたい人や、現地の収穫に行きたい人はマスト。ちなみに、収穫時期が遅い方がhoppy like aromaになるというデータもある。面白いよね。
  • Yield Amount: 平均出来高。今年の収量と比較したりして、豊作かどうかの確認にはなるか。
  • Growth Rate: 栽培を始める人は、これがhighなものを選べんでみては?
  • Resistant to: ホップは病気に非常に脆い。耐性があるものなら、栽培もしやすいし、品質も安定しやすい。
  • Susceptible to: 逆に脆い方。
  • Storability: 6ヵ月後にα酸がどれくらい低下するかの指標。ここが実は奥深い。
  • Ease of Harvest: 『栽培するのがとても難しかったです』栽培難易度の有無に関わらず、生産者に感謝!
  • Total Oil Composition: 香り成分の指標。多ければ、多いほど良さそうだろうか。求めていない香りが強い場合もある。
  • Myrcene Oil Composition: herbal/grassy な香り。揮発性が非常に高い。agingと関係が深い。
  • Humulene Oil Composition: 正式には、α-humulene と表記した方がいい。woody なフレーバー。ビタリングホップをチョイスするときにはマスト。異性体は、β-caryophyllene。
  • Caryophyllene Oil: 正式には、β-caryophylleneと表記した方がいい。α-humulene 同様な香りで、ビタリングホップをちょいするときにはマストで✔。ややこしいが、α-caryophyllene=α-humulene。
  • Farnesene Oil: herbal/spicy だが、floral と表現されることも。noble hop の香りといえば、これ。
  • Substitutes: 似たような性質のホップをチョイスしてくれている。冷蔵庫になかったときは、これがあるか確認。
  • Style Guide: お薦めのスタイル。何度でもお伝えしますが、ビールの良いところは自由なところ。

はい!
そしたら、今度はこれから特に醸造に影響を与える部分をピックアップして説明してみようかと思います。

β-acid

α酸に関しては、詳しい人が多いと思います。
あまり知られてないのは、長期熟成していくと苦み成分が薄らいでいくことでしょうか。分解されるのか、はたまた、何か別の減少が起きているのか分からないけど。

β酸はどうでしょうか。
普通の醸造プロセスでは、β酸は苦くなりません。では、どうして気にする必要があるのか。

それは、長期熟成することで徐々にβ酸は苦みを帯びてくることが予測されているからです。それも下に残りやすく、渋い苦み。特にラガービールなどを醸造するときには気をつけてみる必要があります。

α酸との比率は大体2:1 とされていますが、noble hop 系だと1:1 だったり、simcoeだと3:1だったりなど様々です。
ただ、まだまだβ酸については分かっていないことが多く、今後も観察を続けることが大切です。

Storability

常温で半年おいたときに、α酸がどれくらい減るかの指標。これがいわゆるaging。

これだけ見ると、storabilityが高いホップはずっとフレッシュで、低いと劣化が早いという印象になりそうですね。でもそう結論づけるのはまだ早いんです。
そもそもα酸が減少すると、醸造において、影響が出るのはどこでしょうか?

苦みです。

同じ量のホップを使ったときに、狙ったIBUを出すのに多くのホップが必要になります。煮沸時の苦みに関してだけ言えば、あまり良くない影響です。
では、Whirlpool hopping に関しては、どうでしょうか。香り成分だけ取りだして、苦みはなるべく出したくないという考えの人も多くないでしょうか。そのときに、agingしたホップならα酸が減っているので有用じゃないですか?

ここで、「agingしたhopは香り成分も飛ぶからダメでしょ」となった方!一緒!笑

僕もそう思ってました。実際、時間経ったホップって嗅ぐとめっちゃ臭いし。でも、このさも常識かと思われるところに新しい常識が詰まってて楽しすぎるんです。別な記事で必ず紹介します🎈

Total Oil Composition

これに関しては、多い少ないだけで良いはず。
特にlate-hopping, whirlpool hopping, dry hopping の際には、綿密にデータを取るのがいいかもしれない。ml/100gなので計算もしやすい。

しかし、この成分がどのような構成になっているのかを理解しないと、結局どんな香りを与えてくれるのかを理解できません。同じカロリーでも、何によるカロリーかで全然身体に与える影響が違うのと一緒で。

これからそれらの説明に入ります。

簡単な hop oil 分類

ホップオイルはざっくり3つの枠組みに分けられまして、以下のようになります。

Hydrocarbon compounds←今日の主役
Oxygenated compounds
Sulfur-containing compounds

このうち、全体の40~80%を占めるのがHydrocarbon compoundsです。これから紹介するmyrcene, humulene, caryophyllene, farneseneも全てこれに属します。

そして、このHydrocarbon compoundsも3つのグループに分けることができます。

Monoterpenes: C10
Sesquiterpenes: C15
Aliphatic: 脂肪族

となります。研究が進んでいるのはC10, C15です。C10は炭素が10個で構成されているという意味。

Myrcene

Myrceneは先ほどの分類に分けると、hydrocarbon compounds の monoterpenesになります。

他にもα-pinene, β-pinene などがあります。
特徴としては、herbal/spicy, green note とされています。日本語にすると、松ヤニっぽいなんて表現されますね。

揮発性が非常に高く、10分のboilで50%が揮発し、60分のboilではほとんどいなくなります。
そんなmyrceneも、whirlpool や、dry hopping では香りに影響を与えます。フレッシュホップを使用したビールを飲まれた方は「草っぽい」感じの印象持ったことないでしょうか。

あれは、かなりmyrceneが影響していることがあります。
もちろん品種によってmyrceneの含有量が違いますが、cascadeやcitraなんかは65~70%くらいがmyrceneで構成されています。

あの青臭い感じを出したくない、もっとフルーティーな香りを出したいときはmyrceneはなるべく少なくするのが良いかも。whirlpool での使用も一つ。そもそも含有量が少ない物をdry hoppingするのもひとつ。他にも思いつくでしょうか?

Hint: aging

Humulene & Caryophyllene

一つにまとめたのは、両者ともに名前こそ違えど、かなり近い特徴を持っているからです。

両者ともに、Hydrocarbon compoundsのsesquiterpenesに属します。
この成分はビタリングにおいて、非常に面白い働きをします。融点がmyrceneよりも高いので、比較すれば揮発性は若干低め。

ビタリングというと、苦みだけが注目されて、香り成分はあまり注目されないですね。どうしてかというと、香り成分の(量的に)大部分を占めているhydrocarbon compoundsの揮発性が非常に高いからです。
だから、余っているホップで、α酸が高いもの使っとけばええやろーとなりがちです。

2011年の研究では、ビタリングで使用したホップでも特徴がはっきり出ることが分かってきました。それに起因するのがこの2つ、humulene, caryophyllene です。
この二つは熱を加えることで、酸化してspicy/earthyな香り成分になって、最終的なビールに残存することが分かりました。これらの酸化物が顕著に増加しだすのは煮沸してから20分経過したあとのようです。

つまり、humulene, caryophylleneを多く含有するホップを20分以上煮沸すると、よりはっきりしたspicy/earthyな特徴が乗っかる可能性が高まります。

ちなみに、かるーく酸化したホップの場合、この酸化物に変化する効率も高まるみたい。
かるーく酸化って、agingだよね👀

Farnesene

この成分はこれまでのものに比べると少しキャラが薄い。
Hydrocarbon compoundsのsesquiterpenesに属していて、揮発性もmyrceneほど高くはありません。

Noble hop の香りの中心成分であって、総じて多めに入っています。
Saaz, Tettnanger, Styrian golding など。

もしこの香りを前面に出したいなら、やはり揮発させない方がいいかもしれない。
ただ、(どの文献で読んだのか思い出せないんだけど)farneseneが閾値を下回っていても、その微量さが他の物質の閾値を下げることに起因して、traditional lagerに感じるflowery な香りになるというのも聞いたことがある。だから、noble hopは90分煮込みなさいみたいな感じだったような👀

うーん。情報が薄くて申し訳ないです!随時更新します。

まとめ

これでいったんはhopslistに記載されている情報で、なおかつ醸造に絡みそうなところを説明してみました。
hopslistのデータをまとめたspread sheet も作ってみましたので、よかったら使った見てください。デスクトップで使う方が見やすいかも😂

難しい反面、もしかしたら、ホップをチョイスするときのヒントになるでしょうか。
僕自身にも非常に学びが深い記事になったのは、間違いなくて、随時更新しないとなと思います。

特に、hop oilの成分にはまだまだ色んな重要なものがありますね。linalool, geraniol, などなど。
どこのホップを買うかによっても記載されているデータは異なるでしょうが、『数値からホップを選ぶ』という観点も今後のレシピ作りに組み込んでみても面白いかなーと🎈

このデータ何なの?などあれば、いつでも更新させてもらいます!
次は、agingについての記事を書こうかな!面白く出来るといいのですが。。

こんなところで!おやすみなさい!

ANTELOPEブルワー谷澤 優気
お酒が好きで醸造の世界に入る。日本各地での研修期間を経て、2020年3月滋賀県野洲市で国内初のクラフトミードハウス・ANTELOPE株式会社を共同創立。
「ちょっと深く知るとお酒はもっと楽しい」をテーマに醸造学を発信中。

志賀→浜松→掛川→滋賀県野洲市[now!!]

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