ちゃんとしたミード/mead の作り方🍯

ちゃんとしたミード/mead の作り方🍯

こんにちは!ANTELOPEのブルワー谷澤(やざわ)です!

僕が作るミードはこちらから購入できます!

前回、ミードの基本的なことやスタイルについて簡単に説明してきました。今回は、ミードの作り方を紹介していこうと思い〼。残念ながら、日本語の記事では理論的なミードの醸造知識がまとまっているものはありません。商用利用することを前提の内容にしようと思っていますので、是非ご自身の経験や醸造知識と組み合わせて利用してみてください!

では早速行ってみましょう(ミードのスタイルと簡単な説明に関しては☟)。

ミード/mead とは?🍯【解説・味わい】

製造免許的には?

現在、ミードを作ろうと思っている醸造会社、あるいはこれからミードを作ろうと思っている方のためにまずは免許の話からしようと思い〼。既存の免許の範囲内でミードを作るにはどうしたらいいかを考察してみます。商用利用以外で単純に作り方が知りたい方は、進んで飛ばしてください✈

ビール免許

ビール免許の話から行きます。酒税法から引用して、一部分かりやすく編集します。

ビール 次に掲げる酒類でアルコール分が二十度未満のものをいう。
 イ 麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたもの
 ロ 麦芽、ホップ、水及び麦その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの
 ハ イ又はロに掲げる酒類にホップ又は政令で定める物品を加えて発酵させたもの 

ただし、麦芽は原料の2/3以上でないといけないのと、糖分以外の副原材料(フルーツやスパイスなど)は麦芽の重量の5%未満でないといけません。
 

酒税法の定義では、ビールはこのような位置づけです。早速、考えられるミード(あるいは、ブラゴット)のレシピを考えてみましょう。試しに1klのレシピを考えてみます。

  重量(kg) 重量(%) 投入可能量(%)
2-row 300 73% 66~100
ハチミツ 100 24% 20~33(対麦芽)
フルーツ 10 3% 0~5(対麦芽)

これで、OG 1.080~1.090 くらいの麦汁ができると思います。
ハチミツは、~150kg, フルーツは、~15kg 未満まで増やすことができます。ホップは特に最低数量はありません。フルーツの料も少なく、麦芽が閉める割合ももちろん高いので、これをミードと断言して売るのは厳しいとは思います。

もちろんブラゴット/braggot というスタイルとしては成立していますが、mazer cup(ミードコンペ)では少なくともハチミツは全体の20%以上でないといけません。
フルーツは、ミードに対して一般的に150g/L を投入すると強い特徴が出るとされています。つまり、150kg/1kl です。ビール免許の範囲内だと残念ながらフルーツの特徴がしっかり出たブラゴットを作ることは一筋縄ではいかないようです。

発泡酒免許

次は、発泡酒免許。

発泡酒 麦芽又は麦を原料の一部とした酒類で発泡性を有するもの(アルコール分が二十度未満のものに限る。)をいう。

ビール免許よりも10倍も少ない生産量で済むことから免許の申請が非常に増えています。麦芽使用比率が*2/3未満である必要がありますから、オーソドックスなビールは作ることはできませんが、様々な副原材料を駆使したお酒作りが可能です。
(*麦芽使用率が2/3以上でも、副原材料が麦芽の5%以上なら発泡酒)

ビール免許と同様に1klのミードを醸造するレシピを考えてみます。

  重量(kg) 重量(%) 投入可能量(%)
2-row 10 3% 0~66
ハチミツ 300 65% 34~(対麦芽)
フルーツ 150 32% 0~(対麦芽)

フルーツの糖度にもよるのですが、全て発酵前に投入するとしたら、OG 1.070~1.080くらいになるかと思います。ビール免許と異なり、麦芽が少ない分には文句は言われません。フルーツの使用量も特に規制はありません。こうなると、かなり現代のミードらしいものが作れるはずです。度数を上げたい場合には単純にハチミツの量を増やしていけば問題ないです。

果実酒免許

ビールの畑を飛び出ると、次に考えられるのは果実酒免許です。ワインやシードルを作る免許ですが、フルーツ入りのミード(ピメントやサイザーなど)に限定するならば、この免許でも問題ありません。原則的には、麦芽の使用はできませんが、最も自然なミードが作れるとは思います。

果実酒 次に掲げる酒類でアルコール分が20度未満のものをいう。
 イ 果実又は果実及び水を原料として発酵させたもの
 ロ 果実又は果実及び水に糖類を加えて発酵させたもの(この場合、アルコール度数は15度未満)
 
ハチミツは糖類でしょうから、ロの括りになりますから、アルコール度数は15%未満のものしか作れない(かも)です。

その他

果実酒免許でアルコール度数15度~20度のフルーツミードを作りたい!あるいは、トラディショナルなミード(ハチミツと水だけ)しか作りたくない!という方は、「その他の醸造酒」という免許を取るのが良いと思います。その他の発泡酒という括りもありますが、これは税制にのみ関係するもので、「その他の発泡酒醸造免許」というのはありません。あくまで果実酒や清酒などが発泡性、かつアルコール度数が10度未満の場合に適用される酒税というだけです。

また、どうしてもアルコール度数20度以上のものしか作りたくない!というクレイジーブルワーの方は、雑酒免許を取る必要があります。雑酒免許は、アルコール度数が21度を超える場合は、1度高くなる度に酒税が上がります。樽で熟成させていたら水分が抜けてハイアルになって酒税が~的な問題には気をつけてください。

*注意*
国税庁の資料などをもとに作成していますが、時代と共に酒税法や他の制度も変わる可能性があります。

ミードの作り方

これから順を追ってミードの作り方を解説していきます。参考文献として、どんなものを読んだのかという前置きをしておきうます。

  1. The complete guide to making mead
  2. The compleat meadmaker

kindleのリンクを貼りますので、気になった方はどうぞ。2の方が、ミードのバイブルとして評価が高く、1はもう少し簡潔な内容です。最低限の醸造知識があれば、内容は非常にシンプルで分かりやすく、homebrew~商用まで幅広く利用できる知識が手に入ります

0. レシピ作成

レシピを作成しましょう!ということで、まずは最低限必要なものを列挙しておきます。

  1. はちみつ
  2. 副原材料
  3. イースト
  4. 栄養剤(DAP、Fermaid K など)

1~3に関しては好きなものを選んでください。どんな選び方をしてもいいです(僕も経験を積んでる最中です)。イーストに関してだけ気になる人も多いと思いますので、追って流行りなどを解説します。

4の栄養剤が気になるでしょうか。はちみつは、麦芽と異なりタンパク質をあまり含んでいません。窒素の供給源として非常に優秀なタンパク質は、イーストの成長に欠かせません。FAN/ free amino nitrogen と言われるものですが、はちみつだけでは足りませんから、供給してあげる必要があります。良く使われる栄養剤の紹介をします

DAP/リン酸アンモニウム は、窒素化合物としてFANの役割をしてくれます。
Fermaid K は、DAPに加えてアミノ酸、他にも様々な必要成分を混ぜてくれたものです。

1Lのミードに対して、0.25~1gの栄養剤を利用することが多いですので、作る量に見合った量を購入しておきましょう。保存は密閉して湿気を避けておきましょう。

はちみつの糖分量

レシピを作るときに多くの人がOG(初期比重)とFG(最終比重)を決めると思います。アルコール度数、ボディー、甘み、イーストの選択などに関わるからです。ということで、1kgのハチミツからどれくらいの糖分が取れるのかを想定してみたいと思います。

文部科学省によれば、はちみつの水分は20%、炭水化物は79.7%。1kgのはちみつの800gが糖分ということです。はちみつの糖分は、ほとんどがフルクトースとグルコースで構成されています。しかし、5%~10%ほど非発酵性糖分も含まれています。ざっくりとした計算で800gのうち、90%が発酵性糖分だとすると加えたハチミツの70%が糖分となる計算です。

個人的な経験では、3kgの純正はちみつで10Lのマスト(ハチミツと水を合わせた物)を作ったときの比重が1.089となりました。糖度的には約20%ちょいなので、2kg ちょっとの砂糖が溶けてる計算です。3kg*0.7=2.1kgなので、概ねあってそうです。

ということで、はちみつの70%を基準にOGを決めてみて下さい。ちなみに糖度をOGに直すときは、4をかけてやると良いですが、高比重になるとその近似計算もできませんので、どちらかで固定して計るのをお薦めします。

例:糖度10=1.040, 糖度20=1.083
糖度が12以下のときまではほとんど近似できるが、それを超えると少しずつズレてくる。

フルーツの糖分量

フルーツにも果糖が含まれていますので、マストに加えれば糖度を変化させる要員となります。フルーツの糖度が10だと仮定したら、1kgのフルーツには100gの糖分が含まれている計算になります。しかし、もちろん水分も含まれてますので、単純な計算ではありません。

フルーツごとの水分量と糖分量はネットで調べたら出ると思いますし、業者に問い合わせてもいいと思います。例えば、1kgのうち、800gが水分で、100gが果糖で構成されているフルーツをマストに加えるとします。その場合は、以下のような計算方法になります。

糖度=(ハチミツの糖分量+フルーツの糖分量)/(マストの水分量+フルーツの水分量)

フルーツの水分量を無視して糖度設計をしてしまうことがありますが、気をつけて下さい

イーストの選択

広く使われているのは、ワインイースト。良く使用されるのは、lalvin 1122 だったり、lalvin 1118、あるいはlalvin 212 とか。lalvin 1118はシャンパンイーストですが、ハイアルになりがちなミードにはアルコール耐性が高いものを使用することが多いです。
もちろんその中から、発酵温度や求める味わいによってチョイスは変わります。ビール醸造と同様にアルコール耐性がクリアしていたらどんなイーストチョイスしてもらっても大丈夫です。

不安な方は、まずは上記のイースト(あるいは、それに近しい種)を使用してみて下さい。

1. 機具の殺菌

レシピが概ね出来たら、いよいよ作業に移ります。

まずはミードが触れる物全てを殺菌します。ここでは深く言及しませんが、ビール作りで行っている殺菌方法と全く同じ殺菌方法で大丈夫です。ビール作りではokだけど、ミードでは使用しない方がいい薬品はありません(今のところ)。

殺菌方法について全く知らない方は、熱湯・オキシクリーン・スターサンの3つを用意しましょう。綺麗に洗ってから熱湯がいけるものは熱湯10分→スターサン。熱湯がだめなものは洗ってからスターサン。という流れを覚えておきましょう。スターサンは、こちらから購入できます。家庭用なら3年くらい使えると思います。

2. マストを作る

must/マスト は、ハチミツと水を混ぜ合わせたものです。ビールでいうwort/ウォート。意識すべき点は以下の通りです。

  1. 水質
  2. 栄養剤の量
  3. 殺菌方法
  4. 副原材料を使用する場合

早速見ていきましょう。

水質

お酒造りにおいて使用する水質は様々な影響を与えます。水質調整の仕方は、それぞれのやり方があると思いますので、ここでは主要な水質について書いておきます。水質調整剤を入れるタイミングは発酵前ならどこでも良いですが(糖化工程がないので)、最初に入れておくと忘れないと思います。

Ca2+, Mg2+ : 硬度。基本的にはカルシウムだけで問題ないですが、100ppmを基準に調整することをお薦めします。理由は、カルシウムが少ないと発酵中に発生する有機酸でpHが急激に下がり発酵がストップする可能性があるからです。カルシウムはpHが下がったときに、緩衝材としての役割をしてくれます。

Cl-, Na+, SO4(2-):味わいに与える水質。ビールと異なるのはホップがないことですが、Cl-やNa+が与える味わいの膨らみはミードにも同様の効果を与えるはずですし、SO4(2-)が与えるシャープさはフルーツ由来のポリフェノールを強調する役割があるかもしれません。

Zn2+:亜鉛はイーストの成長に重要なイオンです。栄養剤を適宜入れるのでそこまで重要ではないですが、気になる方は入れてみてもいいと思います。大量に入れると発酵が活発になりすぎて、高級アルコール(アルコール臭さ)が豊富になる可能性があるので気をつけて下さい。0.5ppmから段階的にやるのが良いと思います。

栄養剤の量

栄養剤も水質調整剤と一緒に入れてしますのが良いと思います。気になるのは、品種と量ですが、まずはDAPだけでやってみて勉強するのが良いと思います。Fermaid K という総合栄養剤も推奨されていますが、DAPで効果が薄いようならちょっとずつ使用する方が学びが深いと思います。

大体発酵に必要なFANというのは、300ppmくらいが理想的とされています。DAPは1g/Lで258ppmの窒素を供給するようですので、最初は1g/LでDAPを添加してみてはいかがでしょうか。他の栄養剤も最初から使いたい!という方のために、推奨されている組み合わせを紹介します。

1L のミードに対して:
DAP 0.4g、Fermaid K 0.2g

ただし、はちみつの品種によっても栄養素(FANなど)の量が異なります。1966年の論文ではありますが、色の濃いハチミツの方が色の薄いハチミツよりも発酵がスムーズにいったというデータがあるようです。同じレシピでも使うハチミツによって、栄養剤は0.1g/L単位で微調整するのが良いかもしれません。

殺菌方法

ビールの製造では、よっぽど特殊な製造方法以外ではwortの煮沸工程を挟みます。理由はホップの苦みを抽出すること、タンパク質などをホットブレイクすること、殺菌、糖度の調整などなど。

ことミード作りにおいては、そもそもタンパク質も少なければ、ホップも普通は入りません(もちろん入れてもいいです)。では重要なことと言うと、マストの殺菌です。はちみつの抗菌作用もマヌカハニーくらいにしか認められないのでは?という論文もありますので、しっかり殺菌はした方がいいと思います。

では、煮沸がいいのかというと、個人的な結論はNoです。煮沸により香気成分が飛んでいってしまうことと、数少ないタンパク質がホットブレイク(沈殿)してしまう恐れがあるのがよろしくないかなと。ということで、低温殺菌の方法をお薦めします。

60℃で22分間、65℃なら5秒ではちみつの殺菌が十分という研究があるようです。水と混ぜるので、果たしてその温度でいいのか?とも思いますが、牛乳が65℃で30分間という殺菌基準がありますね。結論、65℃で20分くらいがちょうど良いかと

副原材料を使用する場合

殺菌に合わせて、気をつけたいのは副原材料の投入タイミングです。

フルーツなどは熱を加えることで香り成分が飛んでしまったり、果皮が含まれていればポリフェノールが抽出されやすくなります。また、スパイスは逆に熱を加えないと出ない香り成分もあれば、揮発してしまう香りもあります。入れる副原材料の香り成分などを調べるのが結局一番てっとりはやいと思います。他のレシピもきっとありますから、参考にしてみて下さい。

また、特殊なのはモルトを含めた穀物を使う場合です。煮沸工程までは普通にマッシングして、加熱を止めてからハチミツを入れるという流れが推奨されています。良く混ざったら、冷却して発酵タンクに入れていきます。

3. イーストピッチ

栄養剤を入れたマストが出来上がったら、冷却してイーストを入れるところまでいきます。
冷却方法は、汚染のリスクがあるので速いに越したことはありません。商用なら熱交換器ですし、家庭なら冷やした滅菌水を予め計算して濃く作ったマストに足してもよいと思います。コンビニで売ってる水なんかは熱殺菌されてから売られているはずなので、そのまま投入しても問題はないと思います(水質は変わるので、それが嫌じゃないなら楽で良いはず)。

そんなことより重要なのは、スターターの作成と、ピッチ温度です。

スターターの作成

冷やしたマストに、酵母をそのままピッチングしてもいいですが、醸造書ではスターターを作ることをお薦めしています。スターターは、あらかじめ酵母をマストと似たような環境で準備運動させてやることが目的です。

スターターを用意しましょう、という真意は次のところにあります(と、思っています)

  1. 酵母の数を増やしておき、高比重の環境でも耐えられるようにしておく
  2. 酵母が立ち上がるまでの時間(lag phase☞fermentation phase)を短くすること:コンタミの確立が減る
  3. イーストは使い始めより3代目くらいからの方が調子が良い(という普遍的な経験論)
【10~20Lミード用スターター】
・酵母を投入する1~2日に準備
・滅菌した三角フラスコに100mlの熱湯を加える(割れないように注意)
・熱湯を40℃まで冷まし、砂糖を5g、DAPを0.1gずつ加える
・イーストを10g加えて攪拌
・20分放置(管理できるならそれ以上放置してもいい)
・ピッチする前に再度攪拌し、投入

ポイントは、温度管理とDAPを加えることです。20℃でスターターを作っても問題はないと思いますが、酵母量が60%ほどになるということです。ちなみにこの温度管理に関しては、色んな議論がまだあって、20℃でスターター作る方がいいっていう考え方もあります。経験論と重ね合わせて、チョイスしていって下さい。
また、取り消し線を入れた部分について補足します('21/2/11)。スターターの時点でDAPを入れて、イーストの成長を促進してあげることはLallemend社(有名なイースト会社)の研究によって疑問視されているようです。その理由は、スターター時にDAPを足すのはやりすぎで、高級アルコールの生成を助長するという結果が出たかららしい。この辺も経験と組み合わせながら、最適なやり方を考えてみて下さい。

高比重なミードのマストでは、発酵期間が長く、スターターなしでピッチングすると代謝活動が多くなります。その分、イーストの副生成物(エステル、高級アルコール、などなど)も豊富になります。それが良い方向に転ぶこともあるとは思い〼。ただ、やはり高比重な液体はイーストに強く圧力をかけるので、イーストが耐え切れず発酵しないということも考えられます。スターターを作る方が安全と言えば安全です。

補足:
ミード作りはマストのOGが1.100を超えることも多く、イーストにとってストレスのかかる環境であるのは間違いありません。浸透圧が強くかかるからと言われてます。そのため、ドライイーストの場合は、ストレスの少ない状態で健全な細胞膜を作るという大義名分がスターター作りにあります。しかし、Safというドライイーストを扱う会社の研究結果では、エアレーションなし、スターターなしでも発酵後の酒はイーストの形態によらず同じようなものができましたよ!という報告もあります。ですので、必ずスターターを作りましょう!という訳でありません。やらなくても同じ結果になるなら、面倒かつ、汚染リスクがあることはやらない方がいいと僕は思ってます。

ピッチ温度

冷却したマストを何度まで冷ますということですが、使用する酵母の品種やどんなミードを作りたいかによって変わってきます。ビールと同様に温度が高ければ、エステルや高級アルコールも増えます。逆に低温で行えば、よりクリーンな印象になります。

ただ、高OGのマストを発酵させる場合には発酵温度をぎりぎりまで下げてしまうと、ストレスがかかりすぎる可能性もあります。The compleat meadmaker では、16~21℃。The complete guide to making mead では、17~24℃。どちらもビール醸造ほど経験が溜まっているわけではないのか、明確にこの温度!という指定はありません。はじめは20℃で様子をみるのが良いかと思い〼。

4. Staggered Nutrient Addition(SNA)

SNAと略される技術ですが、stagger というのが「よろめく・千鳥足」などと評される表現です。栄養素を発酵の途中で断片的に投入することです。投入する栄養剤は、DAPやFermaid K などです。はちみつにはFANが少ないので、そのまま発酵を続けていても酵母の栄養素が足りずに、発酵が止まってしまう可能性があります。それを阻止するために断片的に栄養素を加えて発酵を促してあげる行為です。

混ぜる栄養素ですが、DAPとFermaid K を0.5:1~2:1 の割合で混ぜて投入することが見受けられます。The complete guide to making mead では、DAP : Fermaid K = 2 : 1 を推奨しています。DAPだけでやってみてもいいと思います。

肝心な量とタイミングですが、発酵初日から3日目、5日目、7日目というように2日ごとに加えることが多いようです。加える量は1g/10LのDAPを基準にしてみると良いと思い〼。Fermaid K は、最初はなしでやってみると良いと個人的には思いますが、使用するなら、0.5g/10Lから調整するのが良いと思います。というのは、Fermaid Kは、DAPだけじゃなくて色んな栄養素も含んでいるので発酵が過剰になるリスクがあります。

フルーツミードとして最高評価を受けているPips meadery の Blue Suede Shoes は、SNAのタイミングを変えてからフルーツの香りがすんごい良くなったと言っています。どう変えたらそうなるのかは分かりませんが、ミード作りにおいて重要なファクターであることは示唆されます。

5. 定期的なマストの攪拌

SNAと似たような趣旨ですが、定期的にマストを攪拌することが推奨されています。理由は以下の通り。

  1. 凝集したイーストをマストに舞わせて発酵を促す
  2. マストに酸素を混ぜることで、発酵を促す
  3. マスト内の二酸化炭素濃度を下げる

OGが高いので、発酵がスタックしてしまう可能性が高いミードゆえに生まれたテクニックのように思えます。ビール醸造などでは恐怖すら感じるテクニックですが、ホップを使用していないこと、栄養素が少なく根本的に発酵が止まりやすい可能性があることなどを考慮すると納得できそうです。三つ目の二酸化炭素を抜く行為ですが、これはフルーツなどを使用することが多いミードで考慮される点です。果実や果皮を多く含んだ状態の果汁を多く投入することで、それらが液面上面を覆ってしまうことがあります。そうなると二酸化炭素が抜けずにマスト内で高濃度になってしまいます。二酸化炭素は一応イーストのストレス要因なので、抜けるものは抜いておこうという感じです。

攪拌する方法としては、ホームブリューなら発酵容器をぐりぐり優しく揺すってあげる。商用なら、タンクの底から酸素を注入するという方法が考えられます。

タイミングは、発酵開始から8時間ごとに一回を7日間続けるThe complete guide to making mead では紹介されています。めっちゃ大変!笑
ただし、注意してほしいのが発酵が終了してからも酸素を投入するのは止めましょう。酸化はアセトアルデヒドを生む可能性もありますし、望んでいない味わいになってしまう可能性もあります。常にFGへの達成率を気にしながら行うようにするのがベターです。

補足:
酸素を安定的に供給するのは、基本的には酸化による劣化リスクとかみ合っています。発酵がスタックするなどの問題が起きてから、酸素の供給(あるいは二酸化炭素の排出)を考えるという流れが正しいのかなと思っています。

6. 熟成

ビール同様にミードも熟成期間を取ります。
期間としては、2週間がミニマムで、長いものだと数か月に及びます。熟成温度は14~18℃くらいで2週間置くのが個人的にはいいのかなと。それ以降は2℃くらいまで冷やして熟成させても良いと思い〼。主発酵が終わってからボトリングして、瓶二次で熟成させてもいいですし、BBTなどで熟成させてもいいと思います。
【瓶二次でプライミングシュガーを使う場合、量を間違えると、最悪の場合、瓶が爆発する可能性がありますので気を付けてください。】

熟成させることで起きる変化としては、まず高級アルコールの減少が考えられます。高級アルコールは、Acetyl-CoAという物質と結びつくと高級エステルになる(らしい)。高級アルコールは、アルコール臭さのもととなることが多いので、なるべく減った方が好ましいことが多いです。長い熟成期間の間に徐々に高級エステルに変化していくことが望まれます。

もう一つは、清澄。ビールと異なり、ホップ由来のchill hazeなどが起きませんから温度さえ下げてしまえば、クリアにはなりやすいです。クリアにしたい場合は長めの熟成期間が必要です。

最後は、やっぱり熟成させることでより美味しくなるということですね。どうしてなのかを言及していくとパンクしますかが、長期間熟成させた方が美味しい!という意見がこれだけ先人たちから出てるので、美味しいはずなのです。理由はともかかくまずは2週間熟成させてみて、様子を見ていきましょう(経験少なくて、多くを語れず申し訳ないです)。

*今回は記述しませんが、ミードはバレルでエイジングするものが多いです。バレルエイジの場合は、より長い熟成期間を取ることも多いです。

7. 味見して出荷!

熟成も経て、イケる!となったら出荷となります。この辺は、ビール醸造と同じです。ただ、ミードは度数も高く、国内だとケグ出荷の場合、ビールほど回転速度が速くないかもしれません。

でも結局美味しかったらなんでもすぐ回転しますからね!どんな形態でも自信を持って出してあげるのがいいのかなと!

まとめ

長かった!最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
適宜つまんでもらっても何か醸造に活かせるようにと、細かく説明したつもりです。

比較してしまえば、まだまだ醸造技術の蓄積が浅いお酒ですので、これから新しいテクニックが生まれてくると思います。新しいことがあれば適宜更新しますので、よければ定期的に確認してもらえると嬉しいです☺

ということで、今回ははちみつを使ったお酒・ミードの作り方を説明しました!

ANTELOPEブルワー谷澤 優気
お酒が好きで醸造の世界に入る。日本各地での研修期間を経て、2020年3月滋賀県野洲市で国内初のクラフトミードハウス・ANTELOPE株式会社を共同創立。
「ちょっと深く知るとお酒はもっと楽しい」をテーマに醸造学を発信中。

志賀→浜松→掛川→滋賀県野洲市[now!!]

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