【濁り】ヘイジーIPAはどうして濁るのか【解説&考察】
こんにちは!谷澤です。
今日は、【ビールの濁りについて】。私見をふまえつつも、解説していきたいなと思います!流行りのNE IPA(Hazy IPA) などがどうして濁るのかを理解してみましょう。
ではいきましょう!
NE IPA ってなんだ??という方はこちらから☟☟
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今日は濁ったビールHazyIPAの「濁り」について解説してみたいと思います!前回の記事はこちらから!
濁ったビール??
ちょうどクラフトビールに興味を持たれたばかりの方にとっては、そもそも濁ったビールに出会ったことはないかもしれません。それもそのはずで、日本の大手がつくるピルスナー(生中を想像してもらえたら)というビールは、非常に透き通っていて金色をしていますもんね。
でもクラフトビール業界には濁ったビールもたくさんあります。とりあえず透き通った色のビールはいつでもどこでも見ることができますので、濁ったビールの写真を見てみましょう。
とても同じ原料から出来ているビールと思えません。上記画像の左側がまさにヘイジーと言われるビールのジャンルです。濁り度合いも様々ですが、このヘイジーと呼ばれるスタイルの濁りは恐らく群を抜いています。
そもそも濁りって??
まず、濁りって何だろうってとこを簡単に触れていこうと思います。
深くやろうとすると、コロイド科学とか、界面科学という分野に足を突っ込む必要があって複雑です。なので、あくまで簡単に。「濁っている」ということは、グラスの向こう側から目に入ってくる光を何かが防いでいる訳です。つまり、何かしらの大きな塊が豊富にあると、それらが光を遮って濁って見えることがあります。
ヘイジーIPAの濁りは何が原因で濁るのでしょうか。
大きさと数がカギ
何かが濁ってみえるのは、目に見えるほど大きな分子が溶けているか、一つ一つは目に見えないが数が多いので全体として濁っていると表現できそうです。
牛乳を想像してみます。牛乳の脂質やたんぱく質が水の中にたくさん溶けています。それらが大量でかつ均等に散らばっているため、牛乳は濁っています。脂質とたんぱく質というのは高分子ですので、それらがたくさん溶けていると光の遮り(遮りというか、乱反射)がおきて濁りとして認識できます。
だから砂糖を水に完全に溶かすと、濁るかと言われると濁りません。単糖は小さく、それらが分散していても目に見えるほどにはなりません。クリアなビールにもマルトトリオース(三糖類)や、一定の糖分やタンパク質が残っていますが、大きさが小さいから量が少ないから濁って見えません。
ビールの濁りは果たして何か
Hazy IPA と称されるビールは名前の通り濁っています。Haze(濁り)という意味です。
つまり何かしらの物質がある程度の大きさで溶け込んでいるということになります。ニューイングランドが流行りましたから、濁ったビールといえば NE!!と思っている方も多いと思います。
でも、実はもっと前から濁っているビールあるんです。
HefeWeizen
ヘーフェヴァイツェンという小麦ビールは伝統的な白く濁ったビールです。
ヘーフェヴァイツェンとは、無濾過のヴァイツェンのことです。しかし、無濾過ならすべてのビールが濁るかと言われたら決してそうではありません。(後述しますが、もちろん無濾過なら多少は濁ります。)
ヘーフェヴァイツェンやHazyIPA も原料や作り方でその濁りを特徴づけます。
濁りの原因① Yeast: 酵母
ビールにある程度の大きさの物質が溶け込んでいるから、濁ってみえる。おなじ無濾過のビールでもそれよりも大きな物質が溶け込んでいるわけです。
ではそれは何か、という解説をしていきます。
一つ目の原因は『酵母』です。酵母は発酵する前に、培養というか数をどんどんと増やしていきます。数が多いことが分かったので、次は砂糖(グルコース)と大きさを比較してみましょう。
酵母がグルコースをエネルギーにすると考えたら酵母の方が大きいのが想像できそうですが、
・酵母⇒約10μm
・グルコース⇒約1nm
1μmは1000nmですので、約1万倍くらい酵母の方が大きいですね。
リファレンス(参考文献):
http://book.bionumbers.org/how-big-is-a-budding-yeast-cell/
人間の食事として、例を出してみます。170cmに対して、食事0.17mm。米粒が5mmとすれば、米粒30分の1。わかりやすいかどうかは置いておいて、いかに酵母が砂糖に比べて大きいか理解できるでしょうか。
つまり発酵開始に備えて、酵母が数を指数関数的に増やしていきますのでビールは濁ります。発酵が終わりますと、酵母は沈殿していきますのでこれを取り除いてあげることで酵母による濁りというのは除去できます。澱引きと呼ばれる作業ですね。
これは余談になりますが、先ほど紹介したビール HefeWeizen の Hefe というのはドイツ語で【酵母】を指します。無濾過なヘフェヴァイツェンは酵母による濁りも大きな原因です。
しかし、酵母というのは活動を終えて餌がなくなると休眠状態に入ります。それをずっと放置しておくと、自己分解を始めます。こうなると不快な香りが発生しますので、本来ならば活動を全うした酵母は取り除き次のビールに使ってあげるのがベストです。しかし、この酵母自体が味の特徴となるケースもありますので、すべてのビールがきちんと酵母を取り除く必要はありません。また、活動中の酵母はビールの酸化を抑えてくれる他、オフフレーバーの原因を取り除いてくれます。無濾過のビールなどはその辺も考慮して作られているはずです。では、次の濁りの原因に行きましょう。
酵母の自己融解臭については、こちらから☟
ビールの香り【Autolysed/自己融解臭】
濁りの原因② Protein: たんぱく質
二つ目のキーワードはたんぱく質。
今回の最も重要なアイテムとなるのがこのたんぱく質で、いろんなビールの濁りに関係しています。たんぱく質というのは、高分子であり、分解されるとアミノ酸になります。高分子というわけですので、形はいろいろありますが、これがたくさんあれば濁る要因になります。
では、ビールのたんぱく質というのはどこからやってくるのでしょうか。
基本は麦由来
ビール作りにおけるたんぱく質というのは、基本的に麦からやってきます。麦芽だけじゃなくて、麦芽化していない大麦や小麦などもたんぱく質を含みます。むしろ、たんぱく質が豊富なのは後者の方です。植物の生長にアミノ酸が必要で、それを補うために発芽するときにタンパク質をアミノ酸に分解するからです。
たんぱく質含有量の高い原料を豊富に使用すると、濁る原因になりそうですから、それらを見ていくことにします。
たんぱく質の多い原料
ビール作りをする際に使われるもので、たんぱく質が比較的多いものを紹介します。
①小麦麦芽
→大麦麦芽よりも多くのたんぱく質を含む代表的原材料
②オーツ麦
→ニューイングラド系やオートミールスタウトの流行りにより注目を集めているホットな原料
③ non-malted
→麦芽化していない原料はたんぱく質含有量が高いことが多い、発芽していない小麦を使う代表的なビールがベルジャンウィット
と、こんなところです。
以上の原料をたくさん使用した場合は大麦麦芽だけで作ったビールよりもたんぱく質の含有量は多くなります。
たんぱく質が与える味わいの影響
たんぱく質というのは、ボディーや口当たりに影響を与えます。
どうしてかっていうと、分子量が大きいし、口当たりとして重くなるからだと考えています。ねっとりというか、なめらかというか、そんな感じ!
また、口当たり(ボディー)に影響を与えるのはそれ以外にも、
・糖分(多いとねっとりしてくる)
・炭酸の度合い
が考えられます。残糖が多かったり、炭酸が少なかったりすると口当たりが重くなってきます。ぬるいコーラよりもキンキンに冷えたコーラの方がドライに感じますよね。逆にぬるいコーラの方が甘く感じることはないでしょうか。あれがボディーと思ってもらえたら!
たんぱく質は濁る?
タンパク質が豊富だと濁るのは間違いないのですが、問題は濁りの程度です。
たしかにヴァイツェンもヘイジーIPAも濁ってますが、濁りの程度が段違いです。タンパク質の量とイーストだけでなく、もう一歩踏み込んで濁りについて考えてみましょう。
濁りの原因④ Polyphenols/ポリフェノール
ポリフェノールもビールの大きく濁りに関与します。
大麦のたんぱく質は、Hordein /ホルデインと呼ばれます。このたんぱく質は、ポリフェノール君と非常にくっつきたがります。普通はこのたんぱく質はマッシング(麦ジュース作り)の過程で酵素により分解されることが多いのですが、伝統的な作り方や、わざと分解しない方法でつくったマッシュにはタンパク質が残ります。
また、小麦のたんぱく質はGluten/グルテンです。これもホルデインと似た構造をしていますので、同様にポリフェノールにアタックして合体しようとします。
たんぱく質とポリフェノールは合体して、とても大きな形を作ります。
つまり、大量の穀物由来のたんぱく質とポリフェノールが存在すれば、ビールには濁り成分が溢れるということです。また、この合体した物質は温度が下がるとともに結合が激しくなります。これが色んなブルワーを悩ます Chill Haze(チルヘイズ)と呼ばれるものです。これらは水溶液中に分散していたとしても、隠れることはできず可視化されます。
これがたんぱく質と濁りの関係です。次は糖分による濁りです。
濁りの原因④ Starch: でんぷん
デンプンとは、グルコースが沢山結合して大きな集合体を作っているものです。
大麦麦芽由来の酵素によって、基本的には分子量の多い糖分というのはマッシング中に分解されていきます。しかし、マッシングの方法によっては大きなデンプン質が残る場合もあります。これらはボディーを強める上に、濁り成分としてビールに残ります。また、これらによる濁りを、Opalescent Sheen(/Shine)と呼びます。あまり見かける表現ではないですが、豆知識としてどうぞ。
オパールのように輝くようなイメージなんでしょうね。キラキラして。この糖分による濁り方はイーストやたんぱく質の濁りと区別されているように感じます。伝統的なビールはマッシング方法が独特なので、この濁りが起きる場合がありますね。
また、これらの糖分は発酵終了時に加えられることで濁りの成分としても存在します。代表的なのが、フルーツピューレに含まれるペクチン。フルーツビールなどに加えられるピューレなども大きな分子量のペクチンをビールに残すので、それによる濁りが発生します。
どんなビールが濁る??
長いことかかって、どういう成分がビールに濁りを与えるのか、説明してきました。次はどういった作り方をしたビールが濁りやすいかです。今までの成分的な話をすると、
【濁りやすいビールの成分】
①無濾過で酵母が内在している
②たんぱく質とポリフェノールの量が多い
③未発酵の糖分が多い
では、どうしたら上記の特徴を持つビールが生まれるでしょうか。①に関しては、無濾過!ってことでいいですので省きます。
原料の使い方
②のたんぱく質とポリフェノールはどうしたら増えるのか。
まず、たんぱく質の多い原料を豊富に使うことでビールにタンパク質を多く含ませることができます。小麦麦芽や、オーツ、バーレイなどですね。
次はポリフェノールです。ビールに内在するポリフェノールは2つの原因があります
ポリフェノールの要因① ホップ
一つ目のポリフェノールは、ホップ由来です。
ポリフェノールは植物部分に多いので、ホールホップの方がポリフェノール抽出量は多くなります。ポリフェノールを多く出さないようにホップオイルだけを抽出したものなども販売されています。
ドライホップとボイリングでのポリフェノールの抽出量ははっきり分かりませんが、温度やpHの観点からみてもドライホップするときの方が抽出量は低そうです。ポリフェノールの抽出量は、pHと温度に相関を持ちます。発酵中の方がpHと温度の両方が低いので、抽出量も下がるはずです。
大量のホップをホットサイドで突っ込むと、ポリフェノールは多くなりそうです。
しかし、ホットサイドで抽出されたポリフェノールは、ホットブレイクといってタンパク質と結合して、ワールプール中に不純物として取り除かれてしまいます。つまり、ホットサイドのホップ投入が濁りの直接的な原因になるかと言われるとちょっと怪しいですね。
では、一体どこでホップのポリフェノールが出てるかというと、実はドライホップです。先にポリフェノールが抽出されづらい環境であることは説明しました。ですので、これまでのビールではあまりドライホップによる濁りは問題視されてませんでした。しかし、ヘイジーIPAはこれまでのドライホップの数倍以上のホップを投入します。
まとめ:ドライホップも大量に投入すると、ポリフェノールが抽出されて、めっちゃ濁る可能性がある
HUSKs: 穀皮
もう一つ、ビールの原料でポリフェノールを有するのが穀皮です。
大麦麦芽は穀皮をもっていまして、高いpHや高い温度でより多くのポリフェノールをビールに与えます。また、小麦は穀皮をもっていないので、ポリフェノールが大麦に比べて非常に少ないです。
②のまとめ
たんぱく質の多い原料とポリフェノールの多い原料をミックスすると、濁りやすくなるとしました。
たんぱく質:小麦やオーツなど多い
ポリフェノール:ホップや穀皮など多い
小麦は穀皮をもたないので、小麦を大量に使用したビールはたんぱく質は多いのですが、ポリフェノールが少ないため逆にあまり濁らなくなります。ならばということで、ホップを大量に投入してやることでポリフェノール量は非常に増加し、結果として濁り成分となります。
そうして作られたのが、 NE IPA です。NE IPA は小麦やオーツを使用していることが多く、大量のドライホップによる香りも特徴の一つです。濁りというのは味わいを求めたうえで、くっついてきた特徴なんです。
濁りが特徴の一つだ!!といって無理に濁らせてポリフェノールの渋みだけが残ってしまっては元も子もありません。加えてアメリカのBrewers Associationでは、hazy or juicy というスタイル名になっています。味わいも重要な要素としてみられます。
お次は③の糖類です。
③は、製法がポイント
②が原料の配合だったのに対して、③の糖分は製法にポイントにあります。
先も発酵が終了した後で加えるフルーツピューレが濁りの原因になると話したように、ビールにいかに糖分を残すかが濁りに直結します。
糖分の残し方は大きく分けて2つあります。
酵素の働きを抑制する
酵素が大きな糖分を分解して、酵母に食べてもらえるようにします。そこで酵素の働きを抑えてしまえば、ある程度おおきな糖分がビールに残ります。
酵素の失活は温度と関係します。ビールの酵素は温度があがりすぎるとみんな活動を放棄します。つまり麦ジュースを作る際に、酵素が活動する時間を短くして、あとは沸騰させてしまえば糖分が残ります。
☞あくまで「濁る原因」として列挙しているだけで、濁らせたいからこのマッシングを取るのはちょっと違うかなと思います。
発酵が終了したあとに、糖分を入れる
これもかなり採用率が高いですね。
発酵後にフルーツピューレなどをいれるとそのまま残りますので濁りの原因になります。
ちなみに NE IPA にはラクトース(乳糖)を入れて甘みを与えていることがあります。ラクトースは酵母に分解されないので、甘みをビールに与えることになります。しかしラクトースは二糖類で非常に小さいので、濁りの原因にはまったくなりません。ただ、ラクトースを入れたら、なんでか知らないけど濁ったという声を聞いたことがありまして、発酵に影響を及ぼして何らかの影響を与える可能性はなくはないかもです。
ビールの濁りまとめ
長いこと長いこと、ご精読ありがとうございました。
今回は【ビールの濁り】について解説してきました。
いろんなところで製法について触れましたが、あくまで”濁るには”というところに注目しました。ニューイングIPAも濁らせようとして濁ったわけではなくて、味わいの追求が結果としてHAZEとして現れました。
もし Hazy なビールを飲む際には原料や作り方に想いを馳せてから味わってみてはいかがでしょうか。きっと何か面白い発見になると思います。ビアフェスなどで醸造担当などに質問するのも楽しいはずですよ。
ホップはホールホップですか?
麦芽は何を使ってますか?
フルーツはどのタイミングでいれましたか?
醸造している方も聞かれたら嬉しいはずですよ。少なくとも僕ならうれしいです!ではこのへんで。
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