解説&考察【Decoction Mash Techniques】
こんばんは!!Ble_です。
今日はツイッターでみなさんが気になることを募集して記事にすることにしました!
そして、本日のお題は『デコクション』について。
ブルワー志望の方や homebrew 経験者なら概要はもちろんのこと、ざっくりとしたことはほとんどご存知ではないでしょうか。
しかし、この分かっていそうなことというのが、意外に落とし穴なことも多いです。
「じゃあプロコンとか詳しいこととか説明してよ」
って言われると、現ブルワーの方でも自信をもって回答しますよ!という方、何パーセントおられるでしょうか。
というわけで、今回はそんなデコクションについて私見を交えながら解説していきたいと思います🍺
もちろん、ビール作りに全く興味のない方にも「面白い!!」と思ってもらえるように頑張りますので、最後までお付き合いお願いできたらなと思います!
では早速行きましょう!
そもそもデコクションってなに??
まず根本的にビールを飲むのが好きな方は、
「デコクション」という言葉自体に馴染みがないと思いますので、簡単に内容を説明していきたいと思います。
デコクションは麦ジュースの作り方の1つ?
Decoction: 煮出すこと、煎じ薬、
直訳すると、Decoction というのは煮出すことや煎じ薬を意味するようです。
つまりビール業界において例えると、
麦芽を煮出して麦ジュースをつくるということでしょうか。
が、すべてのビールは麦芽を煮出して麦ジュースを作る必要があるので、これだけでは不十分です。
Decoction というのは、正確に言うと、Decoction Mashing のことです。
Mashing というのは麦ジュースを作ることを差しますので、
Decoction と呼ばれる麦ジュースの作り方が今回のデコクションが指すところです。
では、いったいどんな作り方なんでしょうか。
麦ジュースの作り方は大きく分けて2つ
実は麦ジュースの作り方【Mashing】には、大きく分けると2つの代表的なものがあります。
1つ目は、もちろん今回紹介する Decoction【デコクション】
2つ目は、Infusion 【インフュージョン】
では、それぞれがどんな特徴を持つのか、簡単に説明したいと思います!
Decoction の簡単な説明
デコクションというのは、麦ジュースの作り方の代表的な方法の1つです。
詳しいことは後半でしっかり描写しますが、今回はインフュージョンとの対比ということで簡単に書いていきます。
【デコクションの特徴】
①麦ジュースの一部を別の容器に移す
②その一部をがんがん沸騰させる
③それを元のジュースに戻して、全体の温度を上げる
④何度か繰り返す
はい。これが、デコクションという麦ジュースの作り方です。
わかりやすく想像してもらえるように、例を出してみます。
【デコクション的お風呂の沸かし方】
①お風呂に水を張る
②その中の一部を鍋にかけ、沸騰させる
③お風呂にそのお湯を混ぜる
④ぬるいので、またその一部を取り出し、鍋にかけ、また入れる(以下、繰り返し)
はい。ちょっとわかりやすいでしょうか。
なんだかちょっと面倒ですよね?笑
実際に面倒で、めちゃくちゃ時間がかかるんですね、この方法は。
なので現代のホームブリューや一般のブルワリーでも採用するところは少なくなっていると思います。
これがそのイメージ図なんですが、
点線で書かれているのが、取り出された一部の麦ジュースです。
実線が全体の麦ジュースの温度で、沸騰したものと合わさることで少しずつ温度が上がっていっています。
ちなみに数字は縦が温度で、横が時間です。
温度の読み方は ℃/℉ となっていますね。低いほうが℃なので、日本生まれの人はこれを参考にしてください。
と、こんな感じの作り方がデコクションと呼ばれるものです。
お次はインフュージョン。
Infusion の簡単な説明
Infusion: 注入、煎じること、
え??
インフュージョンも煎じること?
はいそうです。実は直訳でいえば、インフュージョンも煎じて香味や成分を抽出することです。
とはいえ、デコクションとは違う麦ジュースの作り方なのは間違いありません。
【インフュージョンの特徴】
①一つの鍋(大体マッシュタンと呼びます)で麦ジュースを作る
②一定の温度帯に全体を加熱
③段階的に温度を調節する
(複数回に分けるものをステップ・インフュージョンと呼ぶ、
単にインフュージョンといえば、温度は1段階)。
こちらもデコクションと同様にお風呂で例えますと、
【インフュージョン的お風呂の沸かし方】
①お風呂に水を張ります。
②お風呂に火をかけます。(ドラム缶風呂を想像してください)
③全体をかき混ぜて、温度を調整します。
④ぬるいときはまた火にかけ、温度を上げます。
(例えば、38℃で30分⇒41℃で15分⇒43℃で5分、
のように段階的にお風呂の温度を上げる方法がステップ・インフュージョン的お風呂の沸かし方です。)
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冗談はその辺にして、
二つの麦ジュースの作り方の違いがなんとなく理解できたでしょうか。
一部を加熱してから全体に戻すことで温度を上昇させるデコクション
全体を一気に過熱するインフュージョン
今回は上のデコクションについてまとめてみます。
Decoction 誕生の背景
さて、2つの麦ジュースの作り方を紹介しましたが、
メリットや時代背景なども踏まえて細かく説明していこうと思います。
もともと、このデコクションという方法はチェコやドイツのお家芸のようなものでした。
どうしてかというと、【ドイツやチェコ周辺で収穫される麦芽は質が悪かった】からです。
ここで2つの疑問が沸くでしょうか。
①質が悪いとはどういうことか
②なぜ質の悪い麦芽はデコクションという方法を用いられたのか
一つずつ行きましょう。
質が悪いとは??
そもそも麦芽の質が悪いとはいったいどういうことを指しているのでしょうか。
この表現はわかりやすいのですが、様々な誤解を招く可能性があるのでここで別の表現に変えます。
【質の悪い麦芽】 ⇒ 【溶けの悪い麦芽】
いかがでしょうか。
もっと訳がわからなくなってしまったかと思います。
ここでいう溶けが悪いというのは、【『β-グルカン』の溶けが悪い麦芽】ということです。
一個一個簡単に説明していきます。
β-グルカン??溶けが悪い??
β-グルカンは、グルコースの多結合分子です。
具体的にビールにどう関係しているかというと、【大麦内の細胞壁のような働き】をしています。
大麦が麦芽になっていく過程《モルティングと呼びます》で、このβ-グルカンは溶けていきます。
溶けていくというか、壊れていきます。
このβ-グルカンが溶けることで、内包されている糖分が麦ジュースとして抽出されていきます。
つまり、きちんと溶けていない麦芽というのは、
β-グルカンがまだ糖分を内包していて、糖分が上手に抽出されないわけです。
これはビールを作るうえでは非常にピンチで、
なおかつキレが大事なピルスナーなどでは糖分が残ってしまうのはあまり出来の良いものとされません。
発酵性の糖分が多く抽出できないと非発酵性糖分の割合が増えますからね。
そこで登場したのが、デコクション。
なぜ溶けの悪い麦芽にデコクション??
ではどうして溶けの悪い麦芽にデコクションが採用されていたんでしょうか。
最も大きい理由は、【β-グルカンを熱で強制的に壊し、内在する糖分を抽出する】ためです。
⇒しかし、本当に熱でβ-グルカンが壊れるのかどうかのリファレンスは確認していません。化学に詳しい人、専門家の人がいましたらご教授お願いします。
また、溶けの悪いが多かったことに加えて、BrewYourOwnによれば、質が一定じゃない麦芽がたくさんあったことも大きな理由じゃないかと。
なるほど。
質が判別できないから、もう全部ぶっこしわちゃえ!てきな感じかな。笑
ではそろそろデコクションのプロコン(メリットとデメリット)について私的な意見も加えて検証していきましょう。
Decoction の Pros and Cons
デコクションのプロコンということで、賛否が色々あると思います。
ということで、まず私見と言いますか、自分が考えるデコクションの良い点・改善すべき点を表明しておきたいと思います。
そのうえで、海外のサイトを紹介し、ブラッシュアップを試みてみようと思います!!
【Ble_の考えるデコクションのプロコン】
- Pros①溶けの悪い麦芽でも、一定以上の発酵性糖分を引き出すことができる。
- Pros②段階的に温度を上げていくため、様々な酵素が働き、糖化効率が良い。
- Pros③部分的に煮沸させることで、メイラード反応が起きてコクがでる。
- Cons①部分的に酵素の活性が完全に失われてしまう。
- Cons②とにかく糖化に時間がかかる。
- Cons③マッシュタン以外に設備が必要。(例えば、おっきな寸胴とか?)
ふむ。こんなところでしょうか。
特にPros③のメイラード反応が基本的に現代でデコクションを採用している大きな理由じゃないでしょうか。
【メイラード反応の簡単な説明】
メイラード反応というの簡単に説明します。
反応するアイテムは2つ。『糖分』と『アミノ酸』。
熱が一定以上になると発生する。
麦芽にはこの2つがもともと備わっていますので、煮沸させることで少しずつメイラード反応が発生します。
この反応は玉ねぎを炒めると茶色くなるのと同じ反応です。
で、メイラード反応が起きると何が起きるかというと、
①色が濃くなる。⇒メラノイジンの発生。
②非発酵性糖分の増加⇒糖分とアミノ酸が複雑に結合。コクとなる。
メラノイジンという物質のせいで玉ねぎが茶色くなります。
また、この成分は酸化を抑えることができますので、ビールの品質向上に一役買うでしょうか。
こんな感じがメイラード反応です。
ではでは、海外ではどんなメリットからデコクションを採用しているのでしょうか。
ということで、参考にするのはやっぱり【Brew Your Own】
有料会員ですからね、使わないと!笑
Home - Brew Your Own
Poblano Wit (5 gallons/19 L, all-grain) OG = 1.064 FG = 1.012 IBU = 15 SRM = 4 ABV = 6.6% I've made this beer over a dozen times and most of Tired of brewing other people's recipes? Learn the basics of recipe formulations, from making an ingredient list to choosing the right techniques.
BYOの考える Decoction の Pros and Cons
BYO とは、Brew Your Own の略です。
ちなみにいろーーーーんなレシピや記事がありますので、暇つぶしと英語の勉強にはもってこいです。
と、早速紹介していきます。
今回のリファレンスはこちら☟☟
Decoction Mashing Techniques
【BYO の考えるプロコン】
- Pros①タンニンがインフュージョンよりも適度に抽出され、それが独特の味わいになる。
- Pros②メイラード反応が活発に起きる。濃色ビールには適している。
- Pros③よくかき混ぜるため、糖化効率がインフュージョンよりあがる。感覚的には5%ほど。
- Pros④DMSを減らす(煮沸する時間が相対的に長いからだろうか)
- Pros⑤温度計の発達していなかった時代には、温度調節が分かりやすかった。
- Cons①酵素の失活を引き起こす。煮沸温度ではすべての酵素が働かなかくなる。
- Cons②とにかく時間と労力がかかる
- Cons③淡色系のビールには長時間のボイルはいけない
あとは、賛否かわからないが、たんぱく質の分解が少ない、ゲル化が進みやすいということがあげられていた。
⇒ちょっと時間が足りず、なぜそうなのかまで言及できていない。
かならずいつか更新しようと思う。
ひとつ注意したいのが、タンニンの抽出。
タンニンはモルトの穀皮に含まれており、過剰だと渋みのもととなる。
抽出は水の温度とpHに依存する。
温度が高く、pHも高いときには多くのタンニンが抽出される。
(ちなみに、potential of HydrogenなのでpHだそうです。原子名は大文字で表記するため、Hです。)
すなわち、麦芽を取り除く前に煮沸するデコクションはタンニンがそれだけ抽出されやすいことになる。
しかし、それではあまりにも抽出されすぎないか?とも思える。
ポイントはマッシュ(麦ジュース)のpH。
麦ジュースを作る過程で、勝手に全体のpHというのは化学反応により下がっていく。
そのため、デコクションの際に取り出した一部を煮沸してもそこまで多量のタンニンが抽出されないというわけである。
この適量のタンニンがビールに特徴を与えているというのだから、面白い🍺
また、温度計の発展の有無というのも非常に面白い。
マッシングの際にもっとも気を付けるのが『温度』のため、温度計の発展の有無は確かに色々と影響を与えたに違いない。
デコクションは、一定の割合を煮沸させて全体に戻すことで温度を調節する。
煮沸するときの温度というのは誰が見ても一定であるから、全体の温度調整は【どれくらいの割合を煮沸させるか】というところに収束する。
すなわち、温度計がなくても、重さや割合を計れればある程度の温度は推測することができるのである。
確かにこれはデコクションにしかないメリットであるし、
インフュージョンが古来より進展していなかったのか理解できる。
⇒追記(2019/7/10)
おそらくたんぱく質の分解が少ないのは、プロテアーゼが部分的に失活するから。ただこれも同じ時間、同じ温度のインフュージョンと比べてたらばの話でしょうか。
ゲル化といえば、βグルカンでしょうか。デコクションは煮沸する一部のマッシュを戻すときに昔は手でガンガン混ぜていたのでしょうか。それによって先端力がマッシュにかかり、残存したβグルカンがゲル化を起こしスタックした、など考えられます。しかし、僕個人としては人が手でまぜまぜする程度のレベルでβグルカンがゲル化するとは思えません。あくまで大きなサイズの工場の場合はすこし注意してみてもいいのかもしれません。
どっか大きな工場にインタビューしてみよっと。
Triple Decoction Mashing の手順解説
ではここでデコクションの方法で最も有名なトリプルデコクションを紹介する。
ピルスナーウルケルという有名なビールはこの方法で作られている。
ちなみにトリプルデコクションということは、ポットに取り分けて温度調整を3回行うということである。
つまり、全体の温度変化(正確に言えば、レスト)が4段階あるということだ。
百聞は一見に如かずなので、とりあえず手順を見ていこう。
【トリプルデコクションの手順解説】
手順①37℃で15分レストする。
⇒ここでは、マッシュのpHを下げるのが目的である。この温度帯で活動する酵素の力で自然と全体のPhは低下していく。
さらに下げたい人は何時間も放置していいだろう。
でも昔の人はどうしてこの温度から始めていたのだろうか?と思いませんか。
さては既に酵素の力を理解していた??
いやいや、温度計も発展していない時代ですから実はそんなことはなくて、
【体温に近くて、温度の調節が簡単】だったからなんです。
あつくもなく、つめたくもない。
人体の温度に近い水の温度から始めることで一定の品質のビールが安定して作れるというわけだったんです。
手順②一部分をとって、66℃で15~20分放置。その後、煮沸して戻す。
⇒1/3くらいをとる。
⇒ボイルする前に糖化工程を踏む。酵素が失活する前に、アミラーゼたちに働いてもらう。
現代の溶けの良い麦芽の場合は、この時点でほとんど糖化は終了する。
ボイルするが、淡色ビールの場合は15分程度で。
褐色系ビールの場合は40分ほど煮沸してもいい。(40分以上は推奨されていない)
また、このとき『かき混ぜる』ことが必須。
そうしないと、糖分が糊化してしまう。
また、タンニンの抽出をおさえるために、この部分的なマッシュに炭酸カルシウムや塩化カルシウムを少しいれてPhを下げてもいい。
手順③全体を52℃程度にしてプロテインレストする。
⇒現代ではβ-グルカナーゼレストといってもいいだろうか。
溶けの良い麦芽を使用する場合はこの工程は飛ばして、次のデコクションにいってもいい。
⇒15~20分ほどレストして、②を繰り返す。
手順④全体を65℃にして、糖化を促進
⇒インフュージョンでもこの温度帯でやる。
基本的には1時間とるが、溶けの良い麦芽なら30分に短縮してもいい。
その際には、ヨードテストをした方がいい(でんぷんが残っていたら、ヨードは紫色になる。理科の実験)。
その後、また②を繰り返す。
手順⑤全体を77℃にして、マッシュアウト。
⇒この手順を踏むことで、ロイターリングが楽になる。
具体的には15~20分したら、マッシュアウト。
以上で、トリプルデコクションの一例である。
37℃⇒(52℃)⇒65℃⇒77℃
と四段階のステップを踏む。
とこんな感じで今回のデコクション講座はいったん終わりにする!
まとめ
いかがだったでしょうか。
デコクションについてのいろんなことを見てきました。
おそらく、ビール作りに全く興味のない方は単調であまり面白くなかったでしょうか。
また後半駆け足になってしまってもうしわけないです。
でも、温度計の発展の有無や、人体の温度と近い水を使っていたとか歴史的な側面を感じることのできるところも説明させてもらいました。
僕個人として非常に勉強になりました。
今回のテーマを与えてくださったフォロワーのみなさんに感謝したいです🍺
デコクションのメリットとデメリットをもう一度ざっくり整理すると、
メリット①溶けのわるい麦芽を糖化させやすい
②タンニンが良くも悪くも特徴を作る
③よくかき混ぜることで糖化効率があがる
デメリット①手間がかかる
こんなところでしょうか。
とにかく面倒くさいというのが本音で、メリットと比べるとインフュージョン法をとるブルワーの人が多いのが現実となっているようです。
と、僕個人も実はデコクションでhomebrewしたことってなくて、賛否については意見がまだありません。
今回を機に、一度デコクションでやってみてもたのしいかもしれません笑
一日かかりそうですが笑
みなさんも今回を機にデコクションで仕込んでみて、お披露目会をしてみてはいかがでしょうか。
楽しみにしています!!
では今日はこの辺で。
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