【初めて聞く??】ホッホクルツ製法【考察&解説】
こんにちは!ANTELOPEのブルワー谷澤(やざわ)です!
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今日はホッホクルツ/hochkruzというものすごくニッチなマッシング(麦ジュースの作り方)について紹介したいと思います。
では、早速いきましょう!
概要
おそらくほとんどの人が全く聞いたことがないと思います。
このホッホクルツ製法というドイツの伝統的なマッシングを推したビールが国内には北海道限定のサッポロクラシックくらい。
では、このホッホクルツ製法というのは何か?をまずざっくりと説明したいと思います。
直訳は高温短時間製法
このホッホクルツというのは、ドイツ語表記だと "Hochkurz"となります。
Hochは『高い』、kurzは『短い』を意味するドイツの単語ですので、高温短時間の、が直訳になります。
ちなみに発音的にはとてもホッホクルツと言っているようには聞こえませんでした。
また、このホッホクルツ製法というのはマッシングの一つの方法です。
マッシングというのは麦芽を煮込み、ビールの元(マッシュとか、マイシェとか言います)を作る作業のことです。
前回の記事でデコクションというドイツやチェコのお家芸的マッシングを紹介しました。
今回紹介するホッホクルツ製法はそれらの兄弟だと思ってください。
高温で短いというのは、まさにこのデコクション製法に比べてということです。
イギリスで産まれたPaleAleが現代のものよりも色が濃く、ぜんぜんPALE(淡色)じゃないじゃないか!って思われがちですが、当時のイギリス周辺のビールよりは色が淡色でしたという表現なので仕方ありません。
つまり今回紹介するホッホクルツが『いや、君全然高温で短時間ちゃうやんけー』って指摘するのはちょっとずれてるかな?と思いますのでその辺はご了承ください。
デコクションについての記事はこちらから☟☟
味はどうなる??
では、この高温短時間製法ではビールの味わいはどう変化するのでしょうか。
まずはサッポロさんのホームページを拝借したいと思います。
商品情報|サッポロクラシック | サッポロビール
北海道限定販売の生ビール サッポロクラシックのブランドサイトです。
ふむふむ。
【コクがあるのに、スッキリした飲み心地】
どうしてそうなるのか、果たして本当にそうなのかということを考えてみたいと思います。
今回は日本語でホッホクルツに言及した記事がおそらく大企業がもつ研究くらいしかなく、アクセスできませんので、例によって海外の記事を参考にしたいと思います。
今回参考にしたものはこちら☟☟
https://beerandbrewing.com/short-and-high-the-hochkurz-mash/
http://braukaiser.com/wiki/index.php/Infusion_Mashing
https://www.grainfather.com/blog/week-106-hochkurz-mashing/
http://brulosophy.com/2017/08/14/the-mash-single-infusion-vs-hochkurz-step-mash-exbeeriment-results/
では細かい解説や考察に入っていきます。
ホッホクルツとトリプルデコクションの比較
百聞は一見に如かず、まずホッホクルツの一例を貼ってみます。
ちょっと見づらいでしょうか。
簡単に説明しますと、実線がマッシュの温度で、点線がデコクション側の温度です。
お風呂で例えると、実線がお風呂の温度で、点線が足し湯。
重要なポイントは2つの糖化工程があること(protein rest の有無はどちらでもよい)、マッシュアウト終了まで3時間前後で終了する点です。
ただし、これだけではホッホクルツ製法の特徴がわかりづらいと思います。
そのため、オーソドックスなトリプルデコクション(ドライマイシュフェアファーレン)の例も貼りますね。
どうでしょうか。
一番の違いは、糖化工程が1つな点と、マッシュアウトまでの時間の長さです。
そこで、簡潔に比べてみたいと思います。ただし注意してほしいのは、どちらも一例であることです。特徴は捉えていますが、全部が全部そういったスケジュールではありません。
ではいきましょう。
ホッホクルツ
0~30分 (プロテインレスト)
30~60分 糖化(β)
60~90分 ↓
90~120分 ↓
120~150分 糖化(α)
150~180分 ↓
180~210分 マッシュアウト
トリプルデコクション
0~30分 アシッドレスト
30~60分 ↓
60~90分 ↓
90~120分 プロテインレスト
120~150分 ↓
150~180分 ↓
180~210分 糖化(βとα)
210~240分 ↓
240~270分 マッシュアウト
こうみると、ホッホクルツのクルツ(短い)というところは理解できるかと思います。
プロテインレストを省くと、マッシュアウトにかかる時間は2時間を切りますので、4時間以上かかるトリプルデコクションよりはとっても短いです。
では、次はホッホクルツのホッホのところ。温度が高いところかどうかを確認します。
先に結論を言ってしまうと、この温度の高いというのは【マッシュインのときの温度の高さ】です。
アシッドレストから始まるトリプルデコクションは、温度計のない時代に発達した方法ですので最初はぬるくもない人肌の温度から始まります。
これに対してホッホクルツは、プロテインレストを除くと、初めから糖化工程ですので60℃前後でマッシュインとなります。
これは明らかに【比較すれば温度が高い】です。
昔のトリプルデコクションに比べてという話ということをお忘れなく。現代で流行っているシングルインフュージョンなどでは70℃近い温度でマッシュインするのが普通です。ですので、現代で比べればそこまでホッホではありません。
なんなら、クルツでもない。マッシングは1時間かけないレシピも増えてきましたね。
実は2-step-infusion??
ここまで読んでくださった皆様は、ホッホクルツはデコクションマッシングの一つの方法だと勘違いしてしまっているかもしれません。それは僕の書き方が悪かったのもありますし、僕もそうだと勘違いしていました。
しかし、よくよく文献を読んでいると、そうとも限らないようです。
次のグラフを見てみてください。
実は、このグラフも立派なホッホクルツの例だそうです。
点線がないので、不思議ですよね。それもそのはずで、これは(多分)インフュージョンでのホッホクルツ製法のグラフです。プロテインレストがないので、マッシュアウトが終了するまで2時間をゆうに切っています。
(最初の点線がデコクション採用だとしたら、なんという名前で定義していいか僕には分からない)
それ以外の温度や時間は最初に紹介したデコクション方式とほとんど一緒です。
どちらを採用するかは、メイラード反応をどれくらい求めるか、タンニンをどれくらい許容するかブルワーの好みになりそうです。
また、よくよく考えてみると、これは単なる2-step-infusion では??
もし差別化をするんならば、マッシュインするときだけデコクションで温度を調整するとかあるんですかね。笑
知らない!調べても出てこないし。
Pros and Cons
ただ、2-step-infusionと一緒でした!
で終わらせてしまうと面白くないので、デコクションで採用したとき(本来はこうだったはず)のプロコンを私的に解説しようと思います。
トリプルデコクションと比較した場合です。
インフュージョンで採用した場合との違いはメイラード反応の有無や雑味、あるいはそこでホップインするという方法も考えられますか。でも、それは単なるインフュージョンとデコクションの比較になってしまいます。
Pros①マッシング時間が短い
Pros②糖化工程が二段階で、かつ時間も長いので麦芽回収率が高いかも。
Pros③たんぱく質など分解されすぎないため、味わいは濃くなる。
Cons①溶けの悪い麦芽を使用すると、低温での酵素が働かないので麦芽回収率は低下するかも。(?)
Cons②たんぱく質が残るので、雑味が増えるとも捉えられる。
Cons③溶けの良い麦芽を使用する必要があり、高価かも(←昔ならありえそう)
こんなところでしょうか。
現代では溶けの良くない麦芽といっても、この当時のドイツ産モルトよりは溶けが良いはずです。
また、プロテインレストをよく僕は省いて書こうとしますが、これは現代の麦芽には十分なアミノ酸も含まれていて、わざわざプロテインレストを使用する必要はないと思うからです。
動物素材は使いたくないので、Finings(清澄剤:アイシングラスなど動物素材を使用していた時期もある)は使いませんとか、なにがなんでも昔のやり方でやりたいという趣向の方はもちろんプロテインレストを設けてください。
マッシングは自由に選択すべきです。
2020年1月のやざわの主張は以下の通りです。
Cons①の主張が飛躍しすぎていて、ピンと来ない。溶けの悪い麦芽は周りをβ-グルカンという壁で覆われていまして、こいつのせいで糖化が進みづらいし、ゲル化を促してスタックする原因ともなります。ただ、β-glucanaseという酵素も麦芽には当然存在していまして、40℃前後で活発に働きます。ですので、低温のマッシングは溶けの悪い麦芽にこそ向いていそうです。
なので、もしインフュージョン方式で昔の溶けが悪い麦芽を使用して、ホッホクルツで仕込んだ場合、逆に糖度の収率が悪くなりそうですね。デコクションには、溶けの悪い麦芽から熱と攪拌の力で強制的に糖を取り出すという側面もあるはずですから。
あと、プロテインレストは必要ないときの方が多いってだけで、ライ麦など粘土の高い原料をたくさん使用するときはちょっと取ったほうが良いかと思います。スタックしたら辛いし。ただ、とりすぎるとタンパク質の過剰な分解は求めているビールの感じにマッチしないときがあるかもですので、注意が必要です。
他のデコクションとの比較
トリプルデコクションとの比較はこれくらいでした。
ちなみにトリプルは英語で、これをドイツ語にすると Drei です。読み方は『ドライ』となります。
ビール検定などの教材には非常に細かく紹介されていて、トリプルデコクションなどをドライマイシュフェアファーレンと表記しています。
ドライ【トリプル】・マイシュ【マッシュ】・フェアファーレン【プロセス】ということになりますね。
それと一緒で、アインマイシュフェアファーレンはシングルデコクション、ツヴァイマイシュフェアファーレンはダブルデコクションということになります。では、ツヴァイマイシュフェアファーレンの例とホッホクルツを比較してみましょう。
マッシュアウトまで2時間ほどですから、ホッホクルツと比べても全く長くありません。
なんならホッホクルツがプロテインレストを導入したらむしろこちらよりも長くなるかもしれません。
大きな違いはプロテインレストの長さ。
この違いは先ほども出てきました。昔ながらのやり方はプロテインレストを多くとろうとします。
なぜでしょうか。
麦芽の質の良し悪し
繰り返しになりますが、その答えは【麦芽の質】にあります。
昔のドイツ麦芽は質がまばらで溶けも悪かったため、低温でのレストを施してたんぱく質やβ-グルカンを分解して発酵を促しやすく必要がありました。
あくまで味わいというよりも、ビールを作るために必須の工程だったわけです。
たんぱく質は分解するとアミノ酸に代わり、酵母が成長するために必要な栄養素を供給します。
β-グルカンは大量に残ると糊化して害悪なスタック(濾過する際の詰まり)を引き起こします。
しかし、現代の麦芽は非常に質が良くなりました。
そのためほとんどのステップは必要ないとされて、現代では多くの醸造所がシングルステップインフュージョンといって、1つの温度帯で糖化させる手法をとっています。
また、プロテインレストを長くしすぎるとたんぱく質が過剰に分解されてしまい口当たりが軽くなりすぎてしまうこともあります。
そうしたビールを目指さない限り、あまり推奨されないでしょうか。(あくまで私見です。)
では、最後にサッポロの例にもどって、検証してみることにしましょう。
サッポロクラシックの検証
ホッホクルツについては、かなり理解してもらえたでしょうか。
となれば最初の例に出したサッポロクラシックの味わいの原因を考えましょう。
もしかしたら気づいた人も多いかもしれませんが、
【ホッホクルツ製法】だけではデコクションなのか、インフュージョンかわかりません!!
そのため、今回はデコクションでやっていると想定して話を進めます。
サッポロクラシックが売るホッホクルツ製法の良さは『コクがあるのに、すっきり』を作ることでした。
これを分解するとどうなるでしょうか。
→非発酵性糖分、たんぱく質などが味わいに影響を起こす。仮にデコクションを採用していたすれば、その時間にもよるが、マッシュを煮沸する過程でメイラード反応が起きます。それによりアミノ酸と結合した糖分は酵素にも分解しづらい糖分になります。それがビールに残りコクとなる可能性は十分あります。
→サッポロが普段からプロテインレストを導入しているとすれば、ホッホクルツ製法の場合はそれを採用していないか。もしくはプロテインレストをクルツ(短く)している可能性が考えられます。とすると、普段よりもたんぱく質が多く残り、コクとして残ってもおかしくありません。
→糖分が残っていなく、ドライであればすっきりと感じるだろうか。しかし、それでは①のコクと矛盾してしまう。つまり、①の原因はたんぱく質に由来するものだろうか。
→ホッホクルツ製法は糖化工程が2度に分かれているため麦芽回収率は良いはず。そのため、発酵もきちんと行われて糖分が残る可能性はすくないかもしれない。
スッキリ感はきっちりした糖化工程から
1年前にしては上出来な結論に感じるな。これならコクも増えるし、最終的な糖度も切れそう。OGは低いけど、その分FGも低いとかはあり得るよね。
そうなー。デコクションも採用して、いつかビールも作ってみたいなー。単純なモルトバランスで解決できない問題もあるのかも。
まとめ
いかがだったでしょうか。
専門的な話になってしまいました。でも醸造に興味のある方にはそれなりに面白い内容になったかなと思います。僕自身がホッホクルツについて知識が少なくて、デコクションの一部くらいだと思っていました。
でもよく考えてみると、2-step-infusion の先駆け的な存在だったわけですね。
ドイツのあまり恵まれなかった麦芽環境に上手に適用して、また麦芽の質の変化にも敏感について行く素晴らしい姿勢を感じ取ることができます。技術というのは常にトライ&エラーによって発展していきます。
ホームブルワーもブルワーだって常に反省を繰り返してベストバッチを探す努力をしていきたいところです。
飲み手専門のみなさまにはかなり難しい内容になってしまいました。
でもサッポロクラシックを次に飲むときには、頭の片隅に『あぁ~そういえばこれってドイツの製法で~このコクはもしかしたら~なのかな~』なんていう素敵な妄想を引き起こしてみてはいかがでしょうか。
いつかいつかそんな妄想もみんなが『わかるー』『いや、おれはこれはたんぱく質由来だと思う』みたいな会話してくれたら、こんなに楽しくて不気味な世界はありませんね!
後書き
なんか、久しぶりに呼んだら、良いこと言ってるときと、断定しすぎなところが多かったです。
でも総括して、結構いい記事かも!笑
書き終わったあとも、結構しっかり調べたなー、勉強になったなーって思ったの覚えてるし。
ただドイツの製法だから、どうしても文献はドイツ語の方が絶対的に多いわけで、それを読めないから正しいことを伝えている自信は全くないんです。
それは今後の知識や経験でカバーして、追記していけたら。
この記事で、あっ!北海道のサッポロ飲んでみたいんだけど!ってワクワクしていただけたら、それで感無量です🎈
サッポロさん!広告大使のお誘いまだ?笑
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